顎関節症の原因と治療法:足指ケアで根本改善する新常識

足指ドクターによる解説

YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗

足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、YOSHIRO SOCKS・ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。MRC認定歯科医院の顧問の経歴もあり。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(7万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。東京大学石井直方名誉教授の弟子でもある。

目次

はじめに

いわゆる顎関節症(TMD)に関する最初の文献は、1世紀以上前にさかのぼります。しかし、顎関節症(TMD)に対する一貫して効果的な治療法は現時点で存在しません。その背景として、診断や治療のプロセスにおいて姿勢評価が十分に考慮されていない点が挙げられます。姿勢は顎関節や筋肉、神経機能に影響を与える要因の一つであり、全身のバランスがTMDの症状や改善に寄与し、姿勢評価を含めた包括的なアプローチが、より効果的な治療法の確立につながる可能性があります。

顎関節症とは

顎関節症(がくかんせつしょう)は、顎関節やその周辺の筋肉に異常が生じ、痛みや機能障害を引き起こす疾患です。一般的には、口を開ける際の痛みや、顎の動きがスムーズでなくなる「カクカク音」、開口障害(口が開けづらい)などの症状として現れます。これらの症状は、日常生活に大きな影響を及ぼし、食事や会話、さらにはストレスを感じる場面においても困難を引き起こすことがあります。

顎関節症は、歯科医療や整形外科領域における一般的な問題の一つですが、その原因は非常に多岐にわたります。噛み合わせの不良や歯ぎしり、食いしばりといった習慣性の要因から、ストレスや姿勢の悪さといった生活習慣まで、さまざまな要素が複合的に関与しています。また、足指や体幹のバランスの崩れが顎関節症に影響を及ぼすことも近年の研究で注目されています。

顎関節症は軽度であれば自然に改善することもありますが、適切なケアを怠ると慢性化し、さらなる痛みや機能障害を引き起こす可能性があります。本書では、顎関節症の原因や予防法、そして改善に役立つ具体的な方法について詳しく解説していきます。まずは、顎関節症がどのような疾患なのか、その基本的な理解を深めていきましょう。

顎関節症の症状

顎関節症は、顎関節や周囲の筋肉に異常が生じることで、さまざまな症状が現れる疾患です。以下は、顎関節症でよく見られる主な症状です。

症状

顎の痛み:噛むときや口を開けるときに痛む。

関節音:顎を動かす際にカクカク、ポキポキと音がする。

開口障害:口が開けづらい、または開けたときに顎がずれる。

噛む違和感:噛み合わせが悪く、疲れや痛みを感じる。

頭痛・首肩こり:顎周りの問題が全身に影響。

耳の違和感:耳鳴りや詰まった感じがすることも。


これらの症状は姿勢や全身のバランスの崩れと深く関係しています。

発生要因

顎関節症の一般的な発生要因は以下のようなものが挙げられます。

発生要因

姿勢の悪化:足指の変形が全身のバランスを崩し、顎関節に負担をかける。

噛み合わせの問題:不正咬合や歯の欠損が関節に影響。

顎の酷使:歯ぎしりや食いしばり、硬い食べ物の影響。

ストレス:筋肉の緊張や歯ぎしりを引き起こす。

外傷や加齢:衝撃や関節の摩耗が原因に。

顎関節症の発生要因は様々ですが、噛み合わせの問題は虫歯治療などで詰め物を入れている場合に起こります。詰め物は上下の歯の形状に合わせることが大切です。また、歯ぎしりや食いしばりも姿勢の悪さが原因で起こり、睡眠中の枕の高さや形状なども影響しています。ストレスによって起こることもありますが、割合的にはごくごくわずかです。加齢による軟骨の摩耗は自然現象であり、白髪が生えるようなもので、機能的な問題は発生しません。

現代ではスマートフォンやデスクワークの増加が姿勢悪化の要因と考えられがちですが、これらの要素は根本原因ではありません。ニュートラルポジションの姿勢が保たれると、体は不自然な姿勢を長時間維持することに耐えられなくなり、自然に正しい姿勢へと戻ろうとします。足指の機能改善を行い、全身の姿勢を整えることが、顎関節症の予防と改善の鍵となるのです。正しい姿勢を保つ力は、足元から支えられていると言えるでしょう。

 

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一般的な顎関節症の原因が真実であれば、この世の中に顎関節症の人はいないはずです。しかし現実には現代医学では治せていないため、顎関節症難民の方が増えているのです。

顎関節症の一般的な治療法

顎関節症の治療は、症状の程度や原因に応じてさまざまな方法が取られます。以下に、顎関節症の一般的な治療法を紹介しますが、顎関節症の治療は、根本原因にアプローチすることで効果的に行うことができます。特に足指と姿勢の改善が顎関節症の治療において重要な鍵を握っています。

顎関節症の一般的な治療法

生活習慣の改善:硬い食べ物を避け、顎に負担をかけない。

スプリント療法:マウスピースで噛み合わせを安定させる。

理学療法:筋肉のストレッチや温熱療法で症状を緩和。

薬物療法:鎮痛薬や筋弛緩薬で痛みや緊張を軽減。

心理療法:ストレスを緩和するカウンセリングやリラクゼーション。

外科療法(重症例):関節鏡手術や関節洗浄などを行う。

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どれも一時的に症状を緩和させるだけの治療です。歯を削って調整する治療は、元に戻せなくなるので、一番避けるべきものです。

現代医学における顎関節症の問題点

現代医学では、顎関節症に対して多くの治療法が提案されていますが、これらのアプローチにはいくつかの問題点が存在します。特に、根本的な原因に目を向けず、局所的な対処療法に依存している点が大きな課題です。以下に、顎関節症治療における現代医学の問題点を挙げます。

問題点1:根本原因への理解の不足

現代医学では、顎関節そのものや周囲の筋肉、関節ディスクの問題を主な原因として捉える傾向があります。しかし、顎関節症の真の原因が全身の姿勢の崩れや、足指の変形に起因している可能性には十分な注目がされていません。このため、症状の根本解決には至らず、再発や慢性化を繰り返すケースが多く見られます。

問題点2:局所的な対処療法への偏り

顎関節症の治療には、スプリント療法(マウスピース)や鎮痛薬、理学療法が一般的に用いられます。しかし、これらは一時的な症状の軽減を目的としたものであり、根本的な解決にはなりません。

問題点3:全身的なアプローチの欠如

顎関節症は、体全体のアライメント(骨格の整列)が崩れることで発生しますが、現代医学の治療では全身の状態にまで目を向けることが少ないです。特に、足指の変形やそれに伴う骨盤の歪み、猫背などが顎関節症に与える影響についての認識や知識が歯科業界には不足しています。

問題点4:4. 履き物や足指への無関心

現代人の多くが、窮屈な靴や滑りやすい靴下による足指の機能不全を抱えています。これが姿勢を悪化させ、顎関節症の原因となっているにもかかわらず、治療の中で足元の改善が重視されることはほとんどありません。

問題点5:再発リスクの高い治療

局所的な治療に頼る場合、症状は一時的に改善することがあっても、根本的な原因が放置されているため、再発するリスクが非常に高いです。このため、患者は長期間治療を続けざるを得ない状況に陥りやすくなります。

解決のための方向性

一般的に推奨されている顎関節症の治療法は、症状を一時的に緩和する対処療法であることが多く、根本的な解決には至っていません。本来、人間の顎関節はズレるようには設計されていない構造を持っています。にもかかわらず、現代人に顎関節症が多発する理由を考えると、その原因は顎そのものではなく、姿勢の悪さに起因していることが明らかです。

特に注目すべきは、動物と人間の違いです。動物に顎関節症が見られないのは、彼らが裸足で自然な歩行をしているからです。一方、人間は履き物や靴下の使用が日常的です。これらの習慣が足指の変形を招き、体の土台である足のバランスを崩し、全身のアライメントの乱れが、顎関節のズレを誘発し、顎関節症を引き起こしているのです。

したがって、顎関節症の根本的な解決には、足指の機能を改善し、正しい姿勢(ニュートラルポジション)を取り戻すことこそが、局所的な治療ではなく、根本的なアプローチによる真の解決策なのです。

メカニズム

顎関節症になるメカニズムは3パターンあります。

パターン1
①靴の種類・履き方→②足指変形→③踵重心→④猫背(または反り腰)→⑤ストレートネック(過剰な頚椎前弯)→⑥舌骨上・下筋群の伸長→⑦下顎の後方移動→⑧顎関節症

パターン2
①靴の種類・履き方→②足指変形→③踵重心→④反り腰→⑤頚椎後弯→⑥舌骨上・下筋群の圧迫→⑦下顎の前方移動→⑧顎関節症

パターン3
①靴の種類・履き方→②足指変形→③側方重心→④脚長差→⑤骨盤の左右差→⑥肩の高さの左右差→⑦頭の偏位→⑧下顎の側方移動→⑧顎関節症


これら3つのメカニズムに共通しているのは、足指の変形とそれに伴う重心の崩れが体全体の歪みを引き起こし、最終的に顎関節症を誘発するという点です。足指が変形することで重心が後方や側方に偏り、骨盤や背骨、さらには頚椎のバランスが崩れます。この不均衡が顎関節周囲の筋肉や関節に過剰な負荷をかけ、下顎の位置異常を引き起こします。

 

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次の章で「姿勢」について正しく理解しましょう。

正しい姿勢・悪い姿勢とは?

正しい姿勢を保持できるようになると、骨と関節の位置が保たれます。ニュートラルポジションとも言います。これにより、関節表面の異常な磨耗が減少し、脊椎関節を結合している靱帯へのストレスが軽減され、筋肉がより効率的に機能できるようになります。良い姿勢は、筋肉の緊張、使いすぎによる障害、背中や筋肉の痛みを防ぐのにも役立ちます。

ニュートラルポジションとは?

ニュートラルポジションとは身体 ( 関節、筋肉、靭帯 ) への負担が最小限で、全身の運動機能や循環機能の働きがバランス良く円滑に発揮し易い状態のことです。 一般的にニュートラルボジションの配列は、静的姿勢時に、耳垂・肩峰・大転子・ひざの中心・足の外踝までの配列がほぼ一直線上に並んでいる身体の状態を指します。

姿勢の種類と特徴。自分は猫背型? 反り腰型?

理想姿勢

理想的な姿勢は骨盤がやや前傾し、膝がまっすぐに伸びて内臓を圧迫しない。

猫背

猫背は骨盤が後傾し、膝が曲がって背中が丸く、肩が前に出るのが特徴。

反り腰

反り腰は骨盤が前傾し、出っ尻(ちり)で下腹がぽっこり前に出る。

どうして猫背や反り腰になるの? パターン1
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足指がまっすぐ

足指がしっかりと広がって伸びていれば、前方に50%・後方に50%の体重がかかる理想的なバランスになります。

屈み指

屈み指になると踵重心になり、カラダは後ろに倒れそうになります。後ろに倒れないように体を曲げることでバランスを取ろうとします。

浮き指

浮き指になると踵重心になり、カラダは後ろに倒れそうになります。後ろに倒れないように体を反ることでバランスを取ろうとします。

屈み指で反り腰になることもあれば、浮き指で猫背になることもあります。猫背になるか反り腰になるかは、もう一つ条件が合わせることで決定づけられます。それが親指や小指の変形・機能不全です。パターン2で説明していきます。

どうして猫背や反り腰になるの? パターン2
猫背

足が内旋すると、骨盤がバランスを取るために後ろに倒れます。後ろに倒れると背骨がバランスを取るために前に倒れ、猫背の原因になります。

反り腰

足が外旋すると、骨盤がバランスを取るために前方に倒れます。前方に倒れると背骨がバランスを取るために後ろに倒れ、反り腰の原因になります。

どうして足が内旋・外旋するの?
内旋

親指の変形(外反母趾)や機能不全により、足の内側に重心がかかると、足底筋群(足の裏の筋肉群)と内旋筋(足を内側に回す筋肉群)が過剰に働くことになります。これにより、足の筋肉が不均衡に発達し、内旋する力が強まります。

外旋

小指の変形(内反小趾)や機能不全により、足の外側に重心がかかると、足底筋群(足の裏の筋肉群)と外旋筋(足を外側に回す筋肉群)が過剰に働くことになります。これにより、足の筋肉が不均衡に発達し、外旋する力が強まります。

歩行時には、足にかかる力が正しく分散されることが重要です。親指が変形して内側に重心がかかると、歩行時に足が内側に流れる力が働き、足の内旋が助長されます。逆に小指が変形して外側に重心がかかると、歩行時に足が外側に流れる力が働き、足の外旋が助長されます 。

まとめ

・屈み指や浮き指→かかと重心→上体を曲げてバランスを取る

・かかと重心+外側重心=反り腰

・かかと重心+内側重心=猫背

 

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ここまで理解できたら、次は「姿勢と頚椎の関係」について見ていきましょう。

姿勢と頚椎の関係

足指の変形が原因で猫背や反り腰になると、身体全体のバランスを取るために首や頭の位置も変化します。この現象は、専門的には「運動連鎖」や「姿勢制御」と呼ばれ、体が無意識にバランスを保とうとする仕組みの一部です。

姿勢と頚椎の関係
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正しい姿勢

正しい姿勢では頚椎がゆるやかに前にカーブしており、極端な前弯・後弯がない状態です。

猫背(頚椎前弯型)

猫背になると、頭部が前方に突き出し、頚椎は過剰に前弯する傾向があります。

猫背(ストレートネック型)

猫背になると、頭部が前方に突き出し、頚椎はストレートネックになる傾向があります。

反り腰(頚椎後弯型)

反り腰になると、頭部を後方に引き込むような姿勢を取るか、頚椎が過剰に前弯します。

反り腰(ストレートネック型)

反り腰になると、頭部が前方に突き出し、頚椎はストレートネックになる傾向があります。

 

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姿勢による頚椎の変形パターンはいくつかありますが、前弯型・後弯型・ストレートネック型の3種類だけ覚えておいてください。

 

2024年にセムナーン医科大学神経筋リハビリテーション研究センターから発表された研究では、顎関節症(TMD)の患者さんが、首を前に突き出す姿勢(前方頭位)をとると、咀嚼筋(食べ物を噛むときに使う筋肉)の痛みが増えるかどうかを調べました。結果として、前方頭位が咀嚼筋の痛みと関連していることがわかりました。つまり、首を前に出す姿勢が、顎の痛みを悪化させる可能性があるということです。このため、顎の健康を保つためには、正しい姿勢を意識することが大切だと考えられます。

Zhang C, Wu J, Zheng Y, Zhang S, Zhang K, Zhang Z, Zhang S, Zhang Y. Association between forward head posture and masticatory muscle pain in patients with temporomandibular disorders: A cross-sectional study. J Oral Rehabil. 2024 Jan;68(1):45-52.

2023年に発表された研究では、顎関節症(TMD)と姿勢の関係を調べました。TMDは、顎の関節や筋肉に痛みや不快感を引き起こす症状です。研究者たちは、TMDと姿勢に関連があるかどうかを確認するために、過去の研究を詳しく分析しました。その結果、TMDと姿勢の間に関連性が見られました。これは、体の姿勢と顎の位置が神経を通じて影響し合っている可能性を示しています。

Romaniello A, De Dominicis C, Mattei A, Savi A, Doneddu P, Giansanti M. Association Between Temporomandibular Disorders and Posture: A Systematic Review. J Clin Med. 2023 Mar 28;12(7):2652. doi:10.3390/jcm12072652.

2020年に発表された研究では、首が前に突き出た姿勢(前方頭位, FHP)が顎関節症(TMD)や頸椎障害に与える影響を調査したものです。FHPは、顎や首周辺の筋肉や関節に負担をかけ、TMDや首の痛みを悪化させることが示されました。姿勢の改善が、これらの症状の予防や治療に役立つ可能性があります。

Fernández-de-Las-Peñas C, Cuadrado ML, Pareja JA. Effects of Forward Head Posture on Temporomandibular Joint Dysfunction and Cervical Spine Disorders: A Systematic Review. J Bodyw Mov Ther. 2020;24(4):579-586. doi:10.1016/j.jbmt.2020.07.015.

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論文は数多く出されていますが、姿勢へのアプローチだけではすぐに元に戻ってしまいます。大切なのは姿勢を改善させるための足指です。

顎関節症の力学的メカニズム

もう少し詳しく見ていきましょう。下のイラストを見てください。正しい姿勢の状態では

頸椎と下顎骨の関係
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正しい姿勢

 

頚椎前弯・ストレートネック型

 

頚椎後弯型

 

頚椎前弯型・ストレートネック型の影響

ストレートネック・頚椎前弯型の姿勢では、頭部が前に突き出るため、顎の下にある筋肉(舌骨上筋群・舌骨下筋群)が後ろ方向や下方向に引っ張られて下顎は後方に下がり、咬合面(噛み合わせの面)が後ろにずれてしまいます。その結果、下顎頭や関節円板に大きな負荷がかかり、変形や摩耗、吸収が進むことがあります。この状態が悪化すると、顎関節に痛みや雑音が生じ、最終的には開口障害を引き起こして顎関節症へと進行します。

頚椎前弯型の影響

頚椎前弯型の姿勢では、首が後弯(後ろに曲がる)する状態になります。この姿勢では、顎の下の筋肉が圧迫され、嚥下(飲み込み)を助ける舌骨上筋群が短縮され、機能が低下します。また、上気道が狭くなり、鼻呼吸が制限されるため、酸素を取り入れるために無意識に下顎を前に出すことで代償します。下顎が前方に移動することで、下顎頭や関節円板に負荷が集中し、摩耗や変形が進行します。その結果、痛みや関節雑音、咀嚼筋の緊張、開口障害などの症状が現れ、顎関節症が発生するのです。


姿勢の崩れが引き起こす顎や筋肉への影響は、顎関節症の根本原因となります。猫背や反り腰を改善し、正しい姿勢を保つことで、これらのメカニズムを防ぎ、顎関節の健康を守ることができます。

 

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頚椎の変形パターンによって下顎が移動するのは、力学的な問題だけでなく、生命維持のための問題を身体が解決しようとした結果なんです。

セルフチェック

姿勢

まず、自分の真横からのスマホなどで姿勢の写真を撮影してみましょう。スマホの中心点がカラダの中心にくるように撮影します。水平器の位置がおへその位置にくるようにすると良いでしょう。

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その次に、耳垂(耳たぶ)と足の外果(外くるぶし)を線で結びます。その直線の中に、①膝の中心、②大転子(股関節)、③肩峰(肩の中心)が通っていれば理想姿勢です。線を引くのが面倒であれば、定規などを耳たぶと外くるぶしの位置に合わせます。

・②の大転子が線よりも後ろにあれば、猫背(骨盤後傾)です。
・②の大転子が線よりも前にあれば、反り腰(骨盤前傾)です。

ストレートネックの進行度

次に真横から「顔〜肩」が入るように撮影してみましょう。顔は真正面を向いて自然体で立っておきます。もしくは先ほど撮影した姿勢の写真を拡大しても良いですね。

耳たぶと肩の中心を線で結んでみましょう。垂直線に対してどれくらい傾いているかを測ります。

頚椎角が「0°」であれば正常
頚椎角が「15°」以上で軽度のストレートネック
頚椎角が「15°〜30°」で中等度のストレートネック
頚椎角が「30°」以上で重度のストレートネック

正確に頚椎角を知りたいという方は、全身写真から割り出していきますが、これは姿勢分析の記事で紹介していきたいと思います。

足指の変形

足指は、立位や歩行時に体重を支え、全身のバランスを保つ重要な役割を果たします。しかし、足指が変形すると足のアーチが崩れ、全身のバランスが乱れ、膝や腰、背中に負担がかかり、姿勢が悪化します。この姿勢の崩れは顎関節にも影響を及ぼし、顎関節症を引き起こす要因となります。外反母趾や内反小趾、浮き指屈み指などの変形がないか、自分の足指を確認することが大切です。

足指の変形と種類
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外反母趾

足の親指が外側(小指側)に向かって曲がる状態を指します。

内反小趾

足の小指が内側(親指側)に向かって曲がる状態のことを指します。

屈み指

指が下向きに曲がりっぱなしで伸ばすことができない状態のことを指します。

親指の浮き指

親指が他の指の爪と比べて上方向に曲がって浮いてしまう状態を指します。

小指の浮き指

小指が地面から浮いてしまう状態を指します。そのほかの指にも見られることがあります。

寝指

指の爪が横を向いている状態のことを指します。特に小指や薬指に多く見られます。

セルフチェックシートで簡単チェック

外反母趾・内反小趾かどうかを簡単にチェックするシートもあります。A4サイズの用紙に印刷して、立った状態で足を乗せてみましょう。

セルフチェックシート
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外反母趾のセルフチェックシート
内反小指のセルフチェックシート

足趾機能不全

足の指(足趾)が正常に機能しなくなる状態を足趾機能不全といいます。通常、足の指は歩行や立位、バランスの保持において重要な役割を果たしますが、機能不全が生じると、これらの動作が困難になり、姿勢や顎関節に問題が発生します。足の指がうまく動かない、足の指に力が入らない、と感じたら足趾機能不全です。まずは下の3つの動きが全てできるかどうか確認してみて下さい。

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全ての指を曲げることができるか
全ての指をひらくことができるか
意識的に親指だけを上げることができるか

親指がうまく曲げられない、ひらかない、上に上げることができないのであれば「親指の機能不全」です。小指がうまく曲げられないとか、ひらかないのであれば「小指の機能不全」です。第2〜4指が曲げられなかったり、ひらかないのであれば「2〜4指の機能不全」ということになります。

足趾機能不全と足指変形の改善方法

「ひろのば体操」による足指の機能回復

足趾機能不全の改善には、適切なリハビリテーションや運動療法が有効です。日本において、この分野で注目されているのが「ひろのば体操」です。足趾機能不全の場合には、1日3回(1回5分程度)以上を目安に行うことを推奨しています。また、ひろのば体操のあとは足指が動きやすくなるため、足指のパー・グー・チョキの練習を5分程度行うことをオススメしています。

ひろのば体操は、足指を中心に体の歪みを調整するため、結果的に顎関節にかかる負担も軽減されます。これにより、顎関節症の原因となる猫背や反り腰を改善する効果が期待できます。正しい姿勢をサポートすることで、顎関節症による不調を軽減できます。

YOSHIRO SOCKSによる足指の変形改善

足指の変形を改善するに役立つ方法として、「YOSHIRO SOCKS」という特殊な靴下が挙げられます。1日8時間以上履くこと、6,000歩以上のウォーキングを推奨しています。YOSHIRO SOCKSは、足指を正しい形状に整えるためにデザインされた特殊な靴下で、次のような機能を持っています。

  1. 足指の独立サポート: 各足指を個別にサポートし、自然な形状に戻すことを助けます。
  2. 血行促進: 足底への適度な圧力で血流を改善。
  3. バランスの改善: 足裏のバランスを整えることで姿勢や歩行をサポート。
  4. 足趾機能の強化: 足指の筋力を高め、変形を防ぐ。

これらにより、外反母趾・内反小趾・浮き指・屈み指などの足の変形を予防・改善し、足指や足底のバランスを整えることで、体全体の姿勢が正され、顎関節症の改善に役立ちます。

足趾機能不全の予防と日常生活での注意点

適切な靴選び

足趾機能不全を予防・改善するためには、日常生活での足の使い方や姿勢に注意することが重要です。長時間の立ち仕事や歩行を避ける、適切な靴を選ぶ、定期的に足のストレッチやマッサージを行うなど、足にかかる負担を減らすことが求められます。適切な靴の選び方は、下記の記事を参考にしてみてください。男性の場合にはNew BalanceのM990女性にはハルメクのYOSHIRO MODELをオススメしています。

また、足の筋肉や関節を常に柔軟に保つために、ひろのば体操を日課にするのも効果的です。さらに、YOSHIRO SOCKSを日常的に使用することで、足の指を自然に動かせる環境を整え、足趾機能不全の予防につなげることができます。

足指の機能を回復させる歩き方

足趾機能不全の予防や改善には、歩き方を工夫することが重要です。その中でも「小股で歩く」ことが効果的とされています。大股で歩くと、足趾をうまく使えず、足の筋肉や神経に負担がかかりやすくなります。一方、小股で歩くことで、足指をしっかりと地面に着けることができ、足趾の機能を維持・強化することができます。

・後ろ向きで歩く
・後ろ向きで歩く歩幅・スピードで前向きに歩く
・5分程度意識的に小股で歩く

左右の膝が前後に離れすぎないようにすることがコツです。小股で歩くことで、足の筋肉や関節が適切に動き、バランスが取りやすくなります。これにより、足趾機能不全の進行を防ぐだけでなく、全身の姿勢や歩行の安定性も向上します。普段の歩き方を見直し、意識的に小股で歩くことを習慣づけることで、足の健康を守り、日常生活の質を向上させることが期待できます。

足指から始める歯科治療で治療成績が向上:顎関節症とかみ合わせ改善の新常識

Y先生は、歯学部の学生時代から、歯のかみ合わせと足の状態が密接に関連していることに気づいていました。在学中、広島大学出身で、かみ合わせ治療の分野で著名な藤田先生の歯科医院を見学する機会がありました。藤田先生は、顎関節症の患者が訴える顎の痛みや口の開けづらさ、異常な関節音に対して、足のバランスを改善するためのインソールを使用した治療を行っていたのです。

藤田先生は、「下あごが適切な位置にない状態では、どれほど見た目が整った歯並びであっても、それを正しいかみ合わせと呼ぶことはできない」と教えてくれました。この考え方は、「ニュートラル・リレーション」という言葉で表現されています。

その後、Y先生は九州に開業し、歯科診療や矯正治療を行う中で、かみ合わせと足指の関係性を意識していたものの、それを具体的に臨床にどう活用するかは明確に掴めていませんでした。

そんな中、開業地の近くで私が講演会を行った際、Y先生は偶然参加することになりました。講演の内容では、足指が正しい位置(ニュートラル・ポジション)にない場合、全身に様々な不調が現れるという話題が取り上げられていました。この話を聞いたY先生は、「これが自分が探していたものだ!」と直感し、その後私のセミナーに参加して足指についての知識を深めることにしました。

現在では、その学びを歯科診療に積極的に活用し、足指の重要性を取り入れた新たな治療スタイルを確立しています。

Y先生の歯科医院では、一般的な診療や矯正治療を始める前に、まず足指の調整や正しい位置への矯正を重視しています。その理由は、足指を広げることで全身の姿勢が整い、それに伴って顎の位置も自然と改善されるためです。例えば、患者さんの足指が浮き指やかがみ指、寝指、外反母趾といった状態で歪んでいる場合、顎の位置もその影響を受けて不安定になることがあります。

具体的には、足のバランスが右側に偏っていれば右側の顎に大きな力がかかり、足の重心が後方に偏れば顎の奥側に負担が集中する、といった現象が起こります。このような不均衡を解消せずに歯の詰め物や矯正治療を行うと、後に足のバランスが整った際に、かえって全身の調和が崩れてしまう可能性があります。

また、不安定なバランスのまま治療を行うことは、肩こりや腰痛など全身の不調を引き起こすリスクを伴います。そのため、Y先生は特に足指のズレが顕著な患者さんに対しては、まず足指を整えることからアプローチを始めています。

この方法を採用して以降、特に顎関節症やかみ合わせの治療が格段にスムーズになり、それまで手間取っていたような難しいケースでも治療が進めやすくなりました。中には、劇的な改善を見せる患者さんもおり、この取り組みが多くの成果をもたらしていることが実感されています。

足趾トレーニングによる顎関節症改善の科学的根拠

噛むときに歯が触れ合う面積

開始時の咬合面積は30
トレーニング後の咬合面積は43

トレーニング後の平均値は、開始時と比べて、噛む面積が1.43倍に向上。顎関節機能の改善の作用が確認されました。

※顎関節がずれると上下の歯の接触範囲が減少し、咬み合わせが不安定になる。
※開始前とトレーニング後の平均値の差
※グラフは臨床試験における平均値の推移
※結果には個人差があり、100%の結果を保証するものではありません。

このデータは、TFT(Toe Functional Training、足趾筋機能訓練)が顎関節症に与える影響を評価したものです。結果は、咬合面積、咬合力などの指標に基づいて、トレーニング前(Before)と後(After)の変化を示しています。

1. 咬合面積(全体)

足指トレーニング後の咬合面積は平均30㎟から43.2㎟に改善しています。足指トレーニング後の咬合面積の増加は、顎関節が本来あるべき位置に戻った結果であり、顎関節症が改善したことを示していると考えられます。顎関節がずれることで上下の歯の接触範囲である咬合面積が減少し、咬み合わせが不安定になることが多いですが、今回のデータではトレーニングを通じて、顎関節がニュートラルポジションに戻ることで咬合面積が回復したと解釈するのが適切です。

咬合面積が適正な状態に戻ったことは、顎関節周囲の筋肉や関節円板、靭帯への負担が軽減され、痛みや開口障害、異常音といった顎関節症の症状が改善した可能性を示唆しています。このように、咬合面積の変化は単なる増加ではなく、本来の状態への回復を意味しており、顎関節症の根本的な改善を示す重要な指標といえます。

2. 咬合力(全体)

トレーニング後、咬合力は246Nから349Nに改善しています。この変化は、顎関節がずれていたことで本来発揮されるべき咬合力が低下していた状態が、トレーニングを通じて顎関節が本来の位置(ニュートラルポジション)に戻った結果と考えられます。この場合、咬合力の向上を単なる増加と見るのではなく、「適正な状態に回復した」と捉えるべきです。顎関節がニュートラルポジションに戻ることで、顎関節や周囲の筋肉、靭帯への不必要な負担が軽減され、噛む力が効率的に発揮されるようになったことを示しています。したがって、咬合力の回復は顎関節症の改善を裏付ける重要な指標であると言えます。

足指ケアで顎関節症と頭痛が改善!

ある40代の女性が、顎関節症により口を開けるのが困難で、頭痛にも悩まされていました。Y先生は、かみ合わせの検査を提案するとともに、足指を広げる効果のある5本指の矯正靴下(現在のYOSHIRO SOCKS)を紹介。女性は早速使用を始めました。

顎関節症だったが2週間ほどで開口障害が改善
反り腰だったが理想姿勢に改善

驚いたことに、次回の診察時には、女性の口はスムーズに開けられるようになり、頭痛も完全に解消していました。Y先生が側頭部を触診しても、かみ合わせの異常による痛みは見られなくなっていました。このケースは、足指を広げることで顎の問題が解消され、かみ合わせ治療が不要だった一例です。足指の変形が、顎の不調の原因となっていた可能性が示唆されます。

また、別の30代女性の例では、顎の痛みのせいで大きく笑うことができず、指を2本分しか口に入れられない状態でした。しかし、3週間の足指ケアで痛みが消失し、普通に笑えるように。口も広く開くことができ、3本の指が入るようになりました。これらの事例は、足指のケアが顎関節症やかみ合わせに驚くほど良い影響を与える可能性を示しています。

足指ケアでかみ合わせが改善し、頭痛が解消!

別の40代女性のケースでは、かみ合わせの不調と足指の著しい変形が見られました。Y先生は、この女性に足指を広げる効果がある矯正用5本指靴下(現在のYOSHIRO SOCKS)を勧め、彼女はその場で靴下を履いて帰りました。その日の夕方、彼女から電話があり、「先生、あの靴下は驚きです!」との言葉をいただきました。

話を聞くと、女性は腰痛がひどく、半日寝込んでいたそうですが、靴下を履いた後はすぐに調子が良くなり、腰痛が消えただけでなく、かみ合わせが改善した感覚もあったとのことです。特に身体の状態に敏感な彼女は、「全身のバランスが整った気がする」と感じたそうです。その後、Y先生の診察でも、実際に体のバランスが良くなり、かみ合わせが改善していることが確認されました。

顎関節症だったが2週間ほどで開口障害が改善
反り腰だったが理想姿勢に改善

これは5本指靴下を使用した例ですが、「ひろのば体操」を取り入れることで同様の効果が期待できます。足指を広げることで体のバランスが整い、かみ合わせの改善や顎関節症の緩和が見込めるのです。治療を受けてもなかなか改善しないかみ合わせの問題や顎関節症に悩む方に、ひろのば体操やYOSHIRO SOCKSの活用を強くお勧めします。

• 顎関節症で2週間ほど治療を続けたところ、痛みがなくなり症状が改善。
• 足指に「かがみ指」の変形が見られたが、約2週間で正常な形状に近づく。
• 足指が広がるにつれて顎の痛みが和らぎ、口をスムーズに開けるようになった。
• 強い反り腰があったが、足指の改善に伴い姿勢が整い、負担が軽減された。

このような事例は、足指のケアが全身のバランスを整え、顎関節症やかみ合わせの改善に大きく役立つことを示しています。

顎関節症の国際基準について


私は長年、歯科医院で顎関節症の治療に携わってきましたが、一般的に行われるマウスピース治療や噛み合わせ治療では、その効果が一時的なものであることがほとんどでした。しかし、足から姿勢を評価し、足指の治療を取り入れることで、わずか2週間から3か月という短期間で寛解や完治に至る患者が続出しました。この成果は、足、姿勢、そして顎関節における「ニュートラルポジション」という明確な指標を導入したことによるものです。このアプローチにより、従来の治療では得られなかった持続的な改善が可能となったのです。

話は戻りますが、1980年代に入り、これらの障害の理解が進み、画像技術が向上する中で、以下のような共通の認識が形成されました。

TMDに関する共通認識

1. TMDは、咀嚼筋、顎関節、および関連する構造におけるさまざまな臨床問題を含む総称であり、それぞれ異なる病理的状態が類似の臨床的徴候や症状を示す。

2. TMDは、生物心理社会モデル(biopsychosocial model)の枠組みの中で管理されるべきである。

3. TMDの徴候や症状は自己制限的である場合が多く、単純な治療法に非常に反応しやすいため、保存的治療が優先されるべきである。

この診断および治療に関する見解は、臨床研究コミュニティで広く受け入れられるようになりました。しかし、現在でも一部の臨床医の間では、TMDを治療が困難で負担が大きいものと見なし、治療を避ける傾向があることは否定できません。さらに遺憾なことに、多くの臨床医が、これらの認識を無視し、時代遅れで機械的な診断・治療法を続けているのが現状です。このようなコミュニティ間の見解の相違に最も苦しむのは、顎関節症患者です。

20世紀末には、多くのTMD患者が関節円板置換手術を受けましたが、その中には、手術による身体障害に苦しむ医療過誤の事例も多数ありました。この医療危機に応え、アメリカ国立衛生研究所(NIH)は1996年4月に顎関節症治療に関する世界初の技術評価会議を主催し、その後、この会議の要約声明と関連論文が発表。

顎関節障害(TMD)の管理に関するNIH合意形成会議(概要)

この会議では、TMDが顎関節や咀嚼筋に影響を与える多様な症状群であり、明確な原因が特定されていないこと、患者層として20~40代の女性に多い傾向があるが、自然に軽減する場合もあることが報告されました。治療法には教育、行動療法、薬物療法、物理療法、咬合療法、外科手術が含まれるものの、多くは科学的根拠が不十分であると指摘されました。初期治療には非侵襲的かつ可逆的な方法(スプリント装置、薬物療法、ストレス管理など)が推奨され、外科手術は慎重に行うべきとされました。また、診断基準や分類の確立、TMDの自然経過や治療法の有効性を検証する無作為化試験の実施など、さらなる研究の必要性が強調されました。治療は学際的なアプローチが重要で、歯科医、医師、生物学者、心理学者などが連携することが必要とされています。


文章内で「理学療法(physical therapy)」がTMDの管理手法として挙げられています。TMDの症状は頸部や肩甲帯の姿勢異常と関連する場合があるため、理学療法士は全体的な姿勢評価を行い、適切な姿勢への矯正をサポートを行うことが適切で、特に筋骨格系の機能改善において重要な役割を果たすことが期待されます。

NIHの声明発表後、国際歯科研究学会(IADR)の米国部門である米国歯科研究学会(AADR)の神経科学グループは、TMDの診断および治療に関する科学的情報政策声明の策定に3年間取り組みました。そして2010年3月、この政策声明がAADR評議会によって正式に承認され、AADRのウェブサイトに掲載されました。

米国歯科研究学会(AADR)による声明

AADRは、顎関節症(TMD)が、顎関節(TMJ)、咀嚼筋、および関連する組織に関係する筋骨格系や神経筋系の疾患群であると認識しています。この疾患には、咀嚼や会話、その他の口や顔の機能に支障をきたすさまざまな症状が含まれます。また、急性または慢性的な痛みがよく見られ、患者は他の痛みを伴う疾患(併存疾患)を併発することもあります。特に慢性的なTMDの痛みは、仕事や社会生活への影響を及ぼし、生活の質の全体的な低下を招くことがあります。

診断について

臨床試験や実験研究、疫学研究によると、TMDや関連する口腔顔面痛の診断は、患者の病歴や臨床検査、必要に応じて顎関節のX線検査やその他の画像診断の情報に基づくべきだとされています。補助的な診断法は、診断の有効性と安全性が査読済みのデータで裏付けられている場合にのみ選択するべきです。ただし、最新の科学文献によれば、さまざまな画像診断を除き、現在利用可能な技術的診断装置のどれも、正常者とTMD患者を区別したり、TMDのサブグループを分けたりするのに十分な感度と特異性を示していないとされています。整形外科、リウマチ、神経学的疾患で使用される標準的な診断や検査は、必要に応じてTMD患者にも適用可能です。また、心理社会的な側面を評価するために、標準化され検証された心理測定テストを使用することもできます。

治療について

特別な理由がない限り、TMD患者の治療は、保守的で可逆的、かつ科学的根拠に基づく方法を優先すべきです。多くの研究によれば、TMDは時間の経過とともに改善または解消する傾向があります。特定の治療法が一貫して効果的であることは証明されていませんが、多くの保守的な治療法は、侵襲的な治療と同等以上の症状緩和効果があることが示されています。これらの方法は不可逆的な変化をもたらさないため、害を及ぼすリスクが非常に低いです。専門的な治療は、患者に疾患について教え、症状の管理方法を説明する在宅ケアプログラムと組み合わせて行うべきです。

この文章では、TMDの診断と治療における基本的なガイドラインがわかりやすく整理されています。

日本補綴歯科学会も、このAADRの政策声明をTMD分野における現時点での科学的見解として正式に承認しました。この声明は、現在診断および治療を受けている多くのTMD患者にとって有益であると考えられています。この見解に基づき、政策声明は日本補綴歯科学会の2つの学術誌および学会のウェブサイトで公開され、この声明とその内容を広く普及させることを目的としています。

結局のところ、顎関節症は自分自身でしか治せません。その理由は、顎関節症の原因が姿勢の歪みにあり、さらにその姿勢の歪みが足指の変形に起因しているためです。改善するには、足指を変形させないように足指のストレッチを行い、靴や靴下を適切なものに変更することが必要です。また、正しい筋肉を育てるためには、正しい重心の位置で歩くことが重要です。これらの対策はすべて、自分自身の努力によってのみ実現可能であり、根本的な治療には自身の行動が不可欠なのです。

スプリント療法や咬合調整は効果がない


歯科医院でスプリント療法を受けた患者さんが足指研究所にきて、「この装置をいつまで付けていれば良いのか」「本当に効果があるのか」「外すと不安になり、どこで噛めば良いか分からなくなる」など、明確な治療指針がないまま不安を抱えているケースが少なくありません。また、咬合面にCR(コンポジットレジン)を盛り足し、咬合を変化させるといった治療(?)が未だに行われている場面も目にします。現在では、「多くの症例でスプリント療法は有効ではない」という考え方が広まりつつあるにもかかわらず、依然として「顎関節症=スプリント」と旧来の方法に固執する歯科医が多いのが実情です。世界的な論文を見ても、スプリント療法や咬合調整は効果がないことは証明されています。

スプリント療法・咬合調整に関する研究の概要

1. 1979年の研究 (Clarkら)

カリフォルニア大学のClarkらが行った研究は、顎関節症(TMD)に関連する筋筋膜性疼痛を有する患者を対象に、スプリント療法(マウスピース)が夜間の筋活動に与える影響を評価したものです。対象者は顎関節症状を持つ25名で、上顎スプリントを装着した状態で睡眠中の咬筋の筋活動を筋電図(EMG)で記録しました。その結果、スプリント療法によって筋活動が減少した患者が52%、変化がなかった患者が28%、筋活動が増加した患者が20%という結果が得られました。このことから、スプリント療法は夜間の筋活動(歯ぎしりや食いしばり)を軽減する可能性があると結論付けられました。ただし、全ての患者に効果があるわけではなく、効果には個人差があることが示されました。また、この研究はスプリント療法が筋活動の抑制には有効である可能性を示唆していますが、顎関節症の症状全体、特に顎関節円板の障害などの改善効果については明確な結論を出していません。それにもかかわらず、スプリント療法が顎関節症の治療法として広く使われている現状があります。

 

2. 2020年のメタ解析 (Al-Moraissiら)

サナア大学のEssam A. Al-Moraissi(歯学部 口腔顎顔面外科)らが行った研究は、顎関節症(TMD)に対するスプリント療法の有効性を評価するため、48件のランダム化比較試験(RCT)を対象にネットワークメタ解析を実施したものです。その結果、スプリント療法の有効性は中程度から非常に低い質のエビデンスに基づくものであると評価されました。特に、カウンセリング療法と併用されたハードスタビライゼーションスプリントは一定の効果があるとされましたが、エビデンスは弱いと結論付けられました。また、スプリント療法が単独でTMDの症状を効果的に改善するという証拠は限られており、治療効果には個人差があることが示唆されました。これらの結果から、スプリント療法はTMD治療の選択肢として考慮されることはあるものの、万能ではなく、他の治療法との併用が重要であるとされています。研究はスプリント療法の限界を示すとともに、より効果的な治療戦略の必要性を強調しています。

 

3. 2020年のシステマティックレビュー (Foudaら)

カイロ大学のAtef Abdel Hameed Fouda(口腔顎顔面外科)らが行った研究は、顎関節症(TMD)の治療におけるスプリント療法の無効性を指摘した研究で、、メタ解析を用いて評価しています。短期的な研究の結果では、スプリントを使用した介入群と非介入群の間に有意差は見られず、長期的な研究では非介入群の方がむしろ痛みの軽減が示される傾向がありました。このため、スプリントは顎関節症の痛み軽減や機能改善には効果がないと結論付けられています。さらに、スプリント療法がTMDの機能改善に寄与するという証拠も不足していることが指摘されています。

 

4. 2020年のシステマティックレビュー (Rileyら)

マンチェスター大学のRiley Pらによる研究(NATUREにも掲載)は、顎関節症(TMD)および歯ぎしり(ブラキシズム)に対するスプリント療法の有効性を評価したシステマティックレビューです。2020年に発表されたこの研究では、TMDや歯ぎしりの症状軽減におけるスプリント療法の効果について既存の文献を分析しました。その結果、スプリント療法が痛みの軽減や機能の改善に一貫して有効であるという明確なエビデンスは得られませんでした。特に、スプリントが歯の摩耗を防ぐかどうかについても結論付けられておらず、顎関節症における「痛みを軽減する」という効果に関しても十分な証拠がないことが示されました。このレビューは、スプリント療法の限界を指摘するとともに、TMDや歯ぎしりの治療において代替療法や包括的なアプローチを検討する必要性を強調しています。

 

5. 2024年のシステマティックレビュー (Balendraら)

キングジョージ医科大学のBalendra P Singhらによる研究では、顎関節症(TMD)の治療法としての咬合介入(特別なマウスガードであるスプリントや歯を削る咬合調整)の効果が評価されました。この研究は57件のランダム化比較試験(RCT)を分析し、2846人の患者を対象としています。TMDは、顎の筋肉や関節に痛みや不快感を引き起こす病気で、筋肉の問題(筋原性)、関節の問題(関節原性)、またはその両方(混合型)として現れることがあります。咬合介入は、噛み合わせを調整して症状を軽減し、生活の質を向上させることを目的としています。

研究の結果、咬合スプリント(特にフルハードスタビライゼーションスプリント、FHSS)が、無治療と比較して咀嚼時の筋肉痛を軽減する可能性が示されましたが、その効果の確実性は低いとされています。他方、歯を削って噛み合わせを調整する咬合調整については、どの比較においても明確な効果が認められず、TMDの治療に有用であるとは言えませんでした。また、咬合スプリントについても、理学療法や鍼治療と比較した場合、効果にほとんど差がないか、むしろ理学療法が関節雑音の重症度を軽減する可能性が示唆されていますが、いずれも証拠の信頼性は非常に低いと評価されています。

さらに、関節の雑音、不快感、再発率といった他の症状についても、咬合スプリントや咬合調整が他の治療法より効果的であるという証拠は見つかりませんでした。特に咬合調整については、TMDの症状管理に寄与しない可能性が高いことが明確になっています。この研究の結論として、咬合介入全体の有効性に関する証拠は非常に不確実であり、特に咬合調整に関しては効果がないと考えられます。

 

6. 1998年の研究 (木野孔司ら)

東京医科歯科大学の木野孔司らが行った研究は、顎関節症(TMD)治療における咬合調整、特に歯を削る介入の有効性について検討。著者らは、TMDの原因が多因子的であり、心理的ストレスや筋肉の緊張、生活習慣などが関与する複雑な疾患であることを強調しています。研究では、咬合調整が顎関節症の症状を一時的に改善する可能性があるとしつつも、歯を削ることで咬合を変化させる治療法が症状の長期的な改善に寄与するという明確なエビデンスは認められないと結論付けています。さらに、歯の削合は不可逆的な変化をもたらすため、新たな問題を引き起こすリスクがあると指摘されています。このような治療法は患者の咬合状態を悪化させる可能性があり、推奨されるべきではないとされています。

 

7. 2011年の研究 (日本補綴歯科学会)

この論文では、咬合調整が短期的に症状の緩和に寄与する可能性があることが示されていますが、その効果が持続的であるという明確な科学的根拠は見つかりませんでした。特に、歯を削って咬合を変化させる方法については、不可逆的な処置であり、新たな問題を引き起こすリスクがあると警告しています。これにより、咬合調整を主軸とした治療法の有効性には限界があるとされています。

 Ⅰ.TMD の管理における咬合治療

咬合治療は、顎関節症(TMD)の治療として長年実施されてきましたが、その有効性に関しては議論が続いています。論文では、咬合異常がTMDの主要な原因ではない可能性が高いと指摘されており、歯を削る咬合調整は不可逆的な処置であるため、慎重に行う必要があると述べられています。咬合治療が短期的に症状を緩和する場合があるものの、長期的な効果に関するエビデンスは不足しており、単独での治療法としては推奨されません。

 Ⅱ.TMD の管理におけるスプリント治療

スプリント治療は、TMDの非侵襲的で可逆的な治療法として広く用いられています。論文では、スプリントが咬筋や側頭筋の緊張を軽減し、一部の患者で症状の改善をもたらす可能性があるとしています。しかし、スプリント治療も万能ではなく、患者ごとに効果が異なるため、他の治療法との併用が重要です。また、スプリント治療の効果を最大化するためには、患者教育や生活習慣の改善を組み合わせた包括的な治療計画が必要です。

 Ⅲ.TMD の治療後に生じた咬合不全に対する補綴歯科治療

TMD治療後に咬合不全が生じるケースがあります。この場合、補綴歯科治療が重要な役割を果たしますが、補綴治療がTMDを完全に解決するわけではないため、過度な期待は禁物です。補綴治療は、咬合不全の修正を目的とした補助的な手段と位置づけられ、他の非侵襲的治療法や生活指導と組み合わせて行うべきです。また、治療にあたっては患者の全体的な健康状態や心理的要因を考慮する必要があります。

 Ⅳ.結  論

本論文では、顎関節症(TMD)の治療には非侵襲的で可逆的な方法を優先すべきであり、歯を削る咬合調整のような不可逆的な治療は推奨されないと結論付けています。TMDは多因子的な疾患であり、治療には心理的、筋肉的、生活習慣的要因を考慮した多角的なアプローチが必要です。また、補綴歯科治療やスプリント療法は補助的な手段として適切に用いられるべきであり、最新のエビデンスに基づいた包括的な治療計画が求められます。従来の咬合中心の治療法から脱却し、より効果的で安全な治療法を採用する必要性が強調されています。


顎関節症治療の課題と国際的指針との乖離

私が理学療法士として働いていた2000年頃、顎関節症の治療は主に①スプリントや咬合調整、②運動やマッサージ(トリガーポイント療法)などの理学療法、③痛みがある時の安静という流れが一般的で、特にスプリント治療が中心でした。しかし、海外では既にスプリントや咬合調整の有効性が疑問視されていたにも関わらず、日本の保険医療制度では2025年現在でも顎関節症の治療としてスプリントや咬合調整が推奨されています。一方で、顎関節症の改善に効果的とされる姿勢評価・運動療法・生活指導には保険点数が設定されていないという課題があります。

1996年には、米国国立衛生研究所(NIH)が顎関節症治療に関する初の公式声明を発表しました。この声明では、「顎関節症には可逆的な治療を適応すべきであり、咬合を変える治療は推奨されない」とされています。この方針は、現在の国際的な治療指針の基盤となっています。

しかし、日本では依然として「顎関節症=スプリント・咬合調整」とする治療法が多く見られます。今後は、足や姿勢の評価を取り入れた体系的な治療が普及することが望まれます。これにより、顎関節症の根本的な原因にアプローチし、より効果的な治療が可能になると考えています。

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