はじめに
内側側副靱帯(MCL)は、膝の内側にある靱帯で、膝関節の安定性を支える重要な組織です。膝にかかる外側からのストレスを和らげ、膝が内側に倒れないように制御する役割を担っています。
この内側側副靱帯に負荷が集中すると、痛みや不安定感、炎症などのトラブルが生じることがあります。特に、X脚(内股気味の脚のライン)のような姿勢の崩れやアライメント不良があると、膝関節に不均等な負担がかかり、靱帯に慢性的なストレスが加わりやすくなります。
この記事では、一般的な解剖学や損傷メカニズムだけでなく、「なぜ内側側副靱帯にストレスが集中してしまうのか?」という構造的な根本原因に注目しながら、セルフケアや日常でできる予防のヒントをお届けします。
概要|膝関節の基本構造
膝関節は、以下のような骨・靱帯・軟部組織で構成されています。

- 骨(骨格) 膝は、大腿骨(だいたいこつ)・脛骨(けいこつ)・腓骨(ひこつ)という3つの骨で構成されます。
- 靱帯(じんたい) 膝の安定性を保つために以下の靱帯が存在します。 - 前十字靱帯(ACL) - 後十字靱帯(PCL) - 内側側副靱帯(MCL) - 外側側副靱帯(LCL)
- 軟骨 膝関節の骨と骨がぶつからないように、関節面には滑らかな軟骨があり、摩擦を軽減します。
- 筋肉・腱 膝の後ろにはハムストリングス(坐骨筋群)があり、関節の安定と伸展運動を支えています。
これらの要素がバランスよく連動することで、膝関節はスムーズな屈伸運動を可能にし、体重を支える土台として機能します。
内側側副靱帯損傷とは?
内側側副靱帯損傷とは、膝の内側にあるMCLに部分的な伸張・断裂・炎症などの損傷が生じる状態です。

主に以下のようなシーンで発生しやすいとされています。
- スポーツ中の急な切り返し動作
- 外側からの衝撃(タックルなど)
- 過去の捻挫や外傷の繰り返し
- 長期的なアライメント不良(X脚など)
損傷すると、膝の内側に痛みや腫れ、関節の不安定感が現れることがあり、特にMCLがゆるんだまま放置されると、再発を繰り返す慢性症状へと進行するリスクもあります。
なぜ「起こしやすい人」がいるのか?
同じスポーツや日常動作でも、内側側副靱帯を損傷しやすい人と、しにくい人がいます。
その違いは、**「膝だけを見ているか」「構造全体から見ているか」**にあります。
私たちが10万人以上の足と姿勢を観察してきたなかで感じるのは、足指(特に小指)の変形や機能不全が、膝のゆがみに直結しているということです。
- 足が滑りやすい環境(靴や靴下)
- 足指の踏ん張り力の低下(浮き指・かがみ指・内反小趾)
- O脚やX脚などの脚のラインの崩れ
こうした要素が複雑に絡み合い、結果として膝関節に局所的な負荷が集中する環境をつくってしまうのです。
症状|内側側副靱帯損傷に見られる主なサイン
内側側副靱帯損傷では、膝の内側にある靱帯に負荷や損傷が加わることで、以下のような特徴的な症状が現れることがあります。
1)膝の内側に痛みや圧迫感がある
歩行中や安静時にも、膝の内側に違和感や鈍い痛みを感じることがあります。
2)膝のぐらつきや不安定感
階段の上り下りや方向転換の際に、膝が抜けるような感覚や不安定さを覚える場合があります。
3)膝の屈伸時に痛みが生じる
膝を曲げたり伸ばしたりする動作で痛みが増すことが多く、可動域にも制限が出ることがあります。
4)膝の腫れや軽度の内出血
外見上の変化として、膝周囲に腫れや皮下出血が見られるケースもあります。
5)歩行やランニング時の違和感
日常動作の中で膝に負担がかかると、ピリッとした痛みや違和感を伴うことがあります。
6)膝の可動域が狭くなる
曲げ伸ばしの動作がスムーズにできず、引っかかるような感覚や動作制限を訴える人もいます。
7)膝関節の支持力が低下する
支えが効かず、反対側の脚へ重心を逃がすような歩き方になることもあります。
こうした症状は、膝の靱帯だけでなく、下半身全体のアライメント(骨格の配列)や足元の機能に問題がある場合にも現れることが多いです。
たとえば、足指の変形や機能不全によりX脚傾向が強まると、内側側副靱帯に偏った負荷がかかりやすくなるという構造的なメカニズムも考えられます。
治療|まずは現状を知り、身体全体のバランスを整える視点を
内側側副靭帯損傷(MCL損傷)の治療方法は、損傷の程度や症状によって異なります。多くの場合、医療機関では以下のような保存的アプローチが選択されます。
一般的に行われる治療
1)保存療法(安静・冷却・保護)
患部を休ませることで、腫れや熱感が落ち着きやすくなります。必要に応じてアイシングや圧迫が選択されることもあります。
2)物理療法・リハビリテーション
関節可動域の維持や筋機能のサポートを目的に、理学療法士の指導のもとで行われます。テーピングやサポーターが併用されるケースもあります。
3)薬物療法(痛みのコントロール)
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などが処方されることがあります。服用には副作用リスクもあるため、医療者への相談が必要です。
4)手術
重度の損傷や靱帯断裂など、保存的治療で回復が難しい場合に検討されることがあります。
※詳しい診断・治療方針は必ず医療機関で相談してください。
“再発を防ぎたい人”が知っておきたい視点
医療的対処で痛みが落ち着いたとしても、膝に負荷がかかる動作・姿勢が残っている場合、同じ部位に負担が生じやすいと言われています。
とくに、
- X脚傾向
- 回内足(足が内側に倒れる)
- 外反母趾や足指の機能低下
- 靴の中で足が滑る環境
これらは、膝内側にストレスがかかりやすい要因となることがあります。
そのため私は臨床経験上、膝だけでなく“足指 → 足裏 → 重心 → 姿勢”までを見ることが大切だと考えています。
原因・発症のメカニズム|なぜ内側側副靱帯は傷みやすくなるのか?
一般的に知られる発生要因
内側側副靱帯損傷は、膝の内側にある靱帯が外力や日常動作の影響で伸びたり断裂することで発生します。医学的には、次のような要因が知られています。
1)急な捻挫
ジャンプや急停止などによる強い負荷で、膝が急激にひねられることがあります。
2)スポーツ時の衝撃
接触プレーや片足荷重の着地時など、特にスポーツ中に膝の内側にストレスが集中します。
3)筋力不足や関節の不安定さ
足首や膝周囲の筋肉が弱い場合、膝関節の安定性が低下し、靱帯に過剰な負担がかかります。
4)骨格のゆがみやアライメント異常
膝・足首の配列が乱れていると、同じ動作でも特定の部位に偏ったストレスがかかりやすくなります。
5)疲労蓄積や反復動作による負担
立ち仕事や連続的な運動によって、膝周囲の靱帯や筋腱が疲労し、損傷しやすくなることがあります。
同じ動きをしても「傷めやすい人」と「そうでない人」の違い
上記のような要因に加えて、膝にかかる力の伝わり方=身体のアライメント(姿勢バランス)によって、損傷リスクには個人差が生じます。
ここで注目すべきは、足指や足裏の機能低下が、膝関節のアライメントをゆがめているケースが多いという点です。
内側側副靱帯にかかる“構造的負担”のメカニズム
ニュートラルな姿勢のとき


正しい姿勢(ニュートラルポジション)では、重心が足の中心を通り、膝関節の軸もまっすぐ安定します。この状態では内側側副靱帯へのストレスは少なく、効率よく体重を支えることができます。
姿勢が崩れているとき
しかし、以下のような要因が重なると、膝関節の配列が乱れ、靱帯への局所負担が強くなります。


- 外反母趾や足指機能の低下 →足が回内(内側に倒れる)しやすくなる
- 回内足(かいないそく) →膝が内側に傾き、X脚傾向が強まる
- X脚の進行 →膝の内側靱帯に引き伸ばされる力が集中


結果的に、「親指の機能不全 → 回内足 → X脚 → 内側側副靱帯の過緊張」という連鎖が起こります。
補足|内反足でもX脚に?

一見関係なさそうな内反足(足首の外傾)も、足の筋力低下により踵の骨が傾くことで発生します。これにより、膝の軸が内側に巻き込まれるように倒れ、結果的にX脚を形成してしまうケースもあります。


膝の靱帯損傷は、「その瞬間の衝撃」だけでなく、日々の立ち方・歩き方・靴選び・足指の使い方といった積み重ねが影響することもあります。
特に、外反母趾や親指の機能低下など、足の変形がある方は、X脚傾向が強まりやすく、膝の内側靱帯に持続的なストレスがかかりやすくなります。
セルフチェック|膝の安定性と足指の関係を見直す
膝の内側に痛みや不安定感がある場合、内側側副靱帯(MCL)に負荷がかかっている可能性があります。まずは日常生活の中で感じる変化や見た目の変化に注目してみましょう。
内側側副靱帯に関連するサイン
以下のような自覚がある方は、膝関節のバランスや足元の安定性に注目してみてください。
1)膝の内側が腫れている、または押すと痛みがある
2)歩いていると膝がグラつく感じがする
3)膝を曲げ伸ばしするたびに違和感や痛みがある
4)スポーツや階段の上り下りで膝が不安定に感じる
5)動作中に膝に力が入らない感じがある
6)痛みや腫れが数日以上続いている
※これらの項目は、医学的な診断ではなく「カラダの声」に気づくための参考指標です。
姿勢バランスをチェックしてみよう
膝関節への負担は、足元から骨盤にかけての「配列バランス(アライメント)」の影響を強く受けます。以下の方法で、簡易的に姿勢のゆがみをチェックしてみましょう。
正面からのアライメント確認
撮影方法:
スマートフォンで、正面から「足元から骨盤まで」が映るように撮影します(靴は脱ぎ、足を揃えて立つ)。
チェックポイント:
- 踵の中心から垂直に線を引いてみましょう
- その線が「膝の中心」を通っているか確認します
- 左右の脚でそのズレに違いがあるかどうかも見てみましょう

📌 例:左足の膝が線より大きく外側にズレている場合 → X脚傾向が強く、左膝に内側圧がかかりやすい
足指の変形チェック
姿勢や膝の安定性に影響を与える重要なポイントが「足指の形と機能」です。以下のような変形があると、足元の支持力が低下し、膝へのストレスが増す可能性があります。
よくある足指の変形タイプ






- 外反母趾(親指が内側へ曲がっている)
- 親指の浮き指(地面につかず浮いている)
- かがみ指(指が折れ曲がっている)
- 内反小趾(小指が内側へ倒れている)
- 小指の浮き指・寝指(横倒れや接地できない)
親指の変形は特にX脚と関連が深く、回内足 → 膝内側への圧迫、という構造的連鎖が起こりやすくなります。
チェックシートの活用
簡易的に足指の変形を確認できる「チェックシート」を用意しています。プリントして自分の足を乗せることで、どの程度変形があるのか可視化できます。
足指の動き・配置を観察するための研究記録

東京大学・石井直方名誉教授の監修のもと、足指の可動性、足幅、足の配置などの“構造的な変化”を記録しました。
この記録は、東京大学・石井直方名誉教授の監修のもと、日常生活の中で“足指を広げる・接地させることを意識した生活習慣づくり”を行った参加者を対象に、足指の可動性・足幅・足の配置など、構造的な推移を観察したものです。
計測は 8週間〜24ヶ月にわたり、
・足指がどの方向へ動きやすいか
・指の並びがどの程度そろいやすいか
・アーチの状態に関係する足部構造がどう推移するか
といった “動きやすさの傾向” を平均値としてまとめた記録です。
以下は、足部バイオメカニクスに関する観察記録であり、治療効果を示すものではありません。足指が動きやすい環境づくりに関連する“構造的特徴の推移”を記録したものです。
外反母趾角
開始時の外反母趾角は19.1°
8週間後の外反母趾角は12.3°
8週間目の平均値は、開始時と比べて、外反母趾角が平均6.8°変動する傾向が平均値として確認されました。
※開始前と24ヶ月目の平均値の差
※グラフは観察記録における平均値の推移です。

足指が動きやすい体をつくる日常ケアと環境の整え方
足指が使いやすい環境を整えるためには、次のようなケアが役立つことがあります。
- 足指をゆるやかに反らすストレッチ
- 靴の見直し
- 足元の圧迫を避け、動きやすさを保つ工夫
1|足指をゆるやかに反らすストレッチ
ひろのば体操は、足指の屈筋・伸筋、足底の筋・腱の滑走(すべり)を促し、
“動かしやすい状態を目指すためのストレッチ”として取り入れられる方法です。
2|靴の見直し
(足指の動きを妨げない設計を選ぶ)

靴の構造が足に合っていない場合、靴下やセルフケアの効果を実感しにくいことがあります。特に、足指の動きを妨げるデザインは避けたいところです。
推奨される靴の特徴としては、
- トゥスプリングが小さい
- つま先が圧迫されにくい構造
- 屈曲点がMP関節と一致
- 靴底にねじれを防ぐシャンク入り
- ヒール差は2cm以下
などが挙げられます。

3|“小股歩き”で自然な足指運動を引き出す
大股で歩こうとすると、接地の瞬間に足指が十分に働く前に体重が移動し、屈筋に頼った“つかむ・曲げる”動作が増えやすくなります。
これに対して、小股歩きは、
- 足を骨盤の真下に落としやすい
- 足裏全体でフラットに着地しやすい
- 足指がまっすぐ伸びたまま接地しやすい
という特徴があり、自然な足指の使い方を引き出しやすくなります。
アムステルダム自由大学・Hak ら(2013)は、健常成人の歩行を解析し、ストライド長を短くすることは後方の安定性を高め、ストライド頻度を増やすことは左右方向の安定性を高める傾向があると報告しています。(参考:Hak et al., 2013, PLoS ONE)
4|室内履きと滑り対策:足指変形の環境要因を断つ
スリッパや草履など「滑りやすい履き物」は、歩行中に足がズレないよう無意識に指を屈ませてしまい、外反母趾・内反小趾・屈み指・浮き指・寝指の一因になることも。






- 室内では極力スリッパをやめ、滑らない床マットや5本指ソックスを活用
- 足元の冷え対策にはレッグウォーマーを併用
- スリッパ代わりの“滑らない室内用シューズ”も有効

足元環境を整えるための生活用品という考え方
日常生活で足指を使いやすい状態をつくるためには、足が滑りにくく、過度に締め付けない素材を選ぶことが重要です。
とくに次のポイントは、足元環境づくりで注目されます。
- 摩擦による“滑走の抑制”
- 足指の間隔を確保しやすい設計
- 過度な圧迫を避けるバランス
- 足指の動きを妨げにくいテンション
ここからは、私が研究の中で感じてきた「足指が使いやすい環境づくり」に関する具体例として、生活用品の設計思想についてご紹介します。(特定の商品による効果を示すものではありません)
YOSHIRO SOCKS|構造のこだわり

YOSHIRO SOCKS は「足指が使いやすい環境を整える」ために設計された生活用品です。
開発の原点にあったのは、妻から『小指が地面に触れた日は、膝まわりの“力の入り方の感覚が違う”と感じた』と話してくれたことが、私が足指の使い方と姿勢バランスの関係を深く考える大きなきっかけになりました。
私はそこで、「足指が少し使いやすくなるだけで、日常の負担は変わるのではないか」と確信しました。
20年以上、理学療法士として多くの足を診てきた中で、足指が使いにくい“環境”そのものが、立ち方・歩き方・姿勢に大きく影響することを繰り返し実感してきました。
そこで私は奈良の専門工場の職人とともに、糸の太さ・密度・張力・摩擦・圧力・縫製角度まで細かく検証し、足指を動かしやすい“環境づくり”を目指した構造を追求しました。
YOSHIRO SOCKS の主な構造
(5つのこだわり)
1|日本製(専門工場による精密なものづくり)

立体縫製・編み立て・染色・検品のすべてを国内で一貫管理し、±1mmのズレも許さない職人技で仕上げています。
細かいテンション差が履き心地に影響するため、国内生産にこだわっています。
2|高密度(髪の毛の約20分の1の繊維)

700nm(ナノレベル)の極細繊維を高密度で編成。足裏に吸い付くようなフィット感を生み、靴の中で足が滑りにくい環境をつくります。
“滑らない構造”は、足指が動きやすい下地になります。
3|極薄(約2mmでも安定する薄さ)

靴内のかさばりを抑え、素足に近い感覚で足と靴が一体になりやすい設計です。
薄くてもヘタれにくいのは、繊維と密度のバランスによるものです。
4|高耐久(長期間使える繊維強度)
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特殊繊維と高密度の編み構造により、日常使用でも伸び・ヨレが起こりにくい強度を確保。
毎日履く生活用品としての耐久性を重視しています。
5|足指が広がりやすいフォルム(扇形の足に基づく設計)
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YOSHIRO SOCKSは、靴を履かずに生活する人々の足を分析した研究で示される、“まっすぐ伸び、前方へ扇状に広がる”本来の足の形を参考に設計されています。
一般的な五本指ソックスとは異なり、母趾から小趾へ向かう “本来の扇形ライン” を意識した立体的な形状に仕上げています。
一部の研究では、摩擦係数が低い靴下ほど靴内での滑り(relative sliding)が増える傾向が指摘されています(2006, 2021, 2023 など複数研究)。

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