足指の解剖学入門⑦ 小趾外転筋とは?

足指ドクターによる解説

YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗

足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(7万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。日本で初めて「足指外来」を設立。

目次

はじめに

内反小趾(ないはんしょうし)と言われて想像する筋肉の第1位が「小趾外転筋(しょうしがいてんきん)」です。大きな筋肉でありながら、靴下や靴の中で滑る環境だと、機能不全を起こしやすくなります。小指の変形や機能は、現在でもそれほど重要視されておらず、「なくてもいいんじゃない?」という大学教授までいるくらいです。

私が足首や膝の治療を行う上で、最優先で機能を取り戻したい筋肉が「小趾外転筋」です。必死にひろのば体操とパーの練習をさせるのは、これが理由です。小指のパーができた地点で、足首や膝の痛みはその場で取れていくのを実感できるはず。今日は、足裏についている筋肉の第1層にある「小趾外転筋(しょうしがいてんきん)」について説明していきたいと思います。

小趾外転筋とは?

小趾外転筋(しょうしがいてんきん、Abductor Digiti Minimi)は、足の小指(小趾)を外側に引っ張る筋肉です。足指の動きでいえば「パー」をするときに必要な筋肉です。この筋肉は、足の外側に位置し、足のバランスや安定性を保つのに重要な役割を果たしています。

豆知識

筋肉は基本的に、収縮する(ちぢむ)ことで関節を動かしています。小趾外転筋は、「踵」と「小指の根もと」にくっついている筋肉。わかりやすく言えば、踵のほうから筋肉を引っ張ることで小指を外側にひらこうとするのです。

どこにあるの?

起始(きし):かかとの骨
停止(ていし):小趾(小指)の基節骨(根もと)

専門家向け

【起始】

踵骨(踵骨隆起外側部)

【停止】

小指基節骨(底)

【作用】

小指の外転、屈曲

つまり、この筋肉は足指に付着していますよ、ということです。

どんな役割をしているの?

小趾の外転(がいてん): 小趾外転筋は、小趾(小指)を足の中央から外側に引き離す動きをサポートします。これにより、小趾が外側に動くことができ、バランスを取りやすくなります。

小趾の屈曲(くっきょく): 小趾外転筋は、小趾を曲げる動きを助けます。小趾を曲げることで、地面をしっかりと踏みしめることができ、歩行やランニングがスムーズになります。

足の外側縦アーチの維持: 小趾外転筋は、足の外側のアーチ(外側縦アーチ)を支える役割を果たします。足裏には母趾外転筋、小趾外転筋、短趾屈筋などがあり、足底筋膜はこれらの筋肉を覆うように土踏まずを構成しています。足のアーチを保つことで、歩行時の衝撃を吸収し、足全体の安定性を高めます。

小趾の正しい位置の維持: 小趾外転筋は、小趾を外側に引き寄せる力を提供し、小趾が内側に曲がる内反小趾(ないはんしょうし)を予防します。これにより、足の健康を保ち、痛みや不快感を軽減することができます。

歩行時のバランスの保持: 小趾外転筋は、歩行時(Mid-Stance時)や立っているときに足の安定性を高めます。小趾をしっかりと地面に押し付けることで、足が外側に倒れないようにする役割があるので、バランスを取りやすくし、転倒を防ぐ役割もあります。

なぜ大切なの?

小趾外転筋が働かなくなると、歩くときに地面をしっかり蹴ることができなくなるので、重心が外側により過ぎてしまうので、回外足→O脚→脚長差→骨盤のゆがみ→背骨のゆがみ→肩のゆがみ→顔のゆがみ→不正咬合、などに移行します。

簡単にまとめると

小趾外転筋の場所:足の外側
主な役割:小趾を外側に動かす、足のアーチを支える
重要性:歩行時のバランス保持や内反小趾の予防に役立つ

小趾外転筋は、足の小指を動かすための大事な筋肉です。この筋肉がちゃんと働くことで、歩くのが楽になったり、バランスが取りやすくなったりします。足の健康を保つために、とても大切な筋肉なんですよ。

小趾外転筋の筋力低下

靴や靴下の中で足が滑ると、小趾外転筋(しょうしがいてんきん、Abductor Digiti Minimi)の筋力が低下し、いくつかの足の問題や不調が発生する可能性があります。

内反小趾(ないはんしょうし)

小趾外転筋の筋力が弱くなると、小趾を外側に引き寄せる力が不足し、小趾が内側に曲がりやすくなります。

足のアーチの低下

小趾外転筋は足の外側縦アーチを支える役割を持っています。この筋肉が弱くなると、アーチが崩れやすくなります。

歩行やバランスの問題

小趾外転筋が弱くなると、足の小指が十分に動かせなくなり、歩行時のバランスが取りにくくなります。

足の疲労と痛みの増加

小趾外転筋が足のアーチを支える力が弱くなることで、足全体にかかる負担が増えます。足の疲労や痛みが増加し、特に長時間立っている時や歩いている時に顕著になります。

ひざや腰の痛み

小趾外転筋が正常に機能しないと、O脚や骨盤のゆがみの原因になります。それにより膝や腰が変形し、筋肉や関節が代償的に負担を受け、筋肉や関節が炎症をこすことで痛みにつながります。

姿勢が悪くなる

小趾外転筋が正常に機能しないと、外側重心となり、回外足→O脚→脚長差→骨盤のゆがみ→背骨のゆがみ→肩のゆがみ→顔のゆがみ→不正咬合などに移行します。

小趾外転筋の機能低下が「内反小趾」の原因

靴下や靴の中で足が滑るようになると、足指を曲げて滑らないように踏ん張ろうとします。これが長時間・長期間繰り返されると、ずっと足指を屈めた状態になるため、小趾外転筋が過緊張状態となり、機能不全(動かなくなる)になることもあります。これが小趾外転筋の筋力が落ちる原因です。

小趾外転筋が機能不全を起こすと、足指を広げないといけないとき(歩行時のMid-Stance時:かかと着地→小指→親指の順に体重が乗る時期)に広げることができず、歩く時に足指がうまく使うことができず、体重がそのまま外側に流れていきます。筋肉を鍛える前に、適切に足指が使えるように「ひろのば体操」や「YOSHIRO SOCKS」で足指を広げてから鍛えると効率的です。

筋肉を鍛えるには、この筋肉がどこに付着しているかを知ることです。「踵骨と小指の付け根」に付着しているので、足指を広げることで鍛えることができる筋肉ということです。この筋肉は、実は歩く時に足指がひらいた状態でしっかりと地面を蹴ることでも鍛えられるんです(内反小趾のように足指が閉じていると、歩いても鍛えることはできません)。1日6,000歩ほど歩けば、片足3,000回のトレーニングになります。

セルフチェック

小趾外転筋の筋力や機能が落ちると、足の筋肉が思うようにつかなくなります。まずはグーとパーができるかチェックを行いましょう。

グー(小趾外転筋の筋力チェック)

小趾外転筋の筋力が落ちていない人は、足指の「グー」がスムーズにできます。小指がしっかり握れていない場合には、小趾外転筋の筋力が低下していると思ってください。

小指の第3関節までしっかり曲がるかチェック

パー(小趾外転筋の機能チェック)

小趾外転筋の機能不全になると、足指の「パー」がスムーズにできなくなります。小指がしっかりひらかない場合には、小趾外転筋の機能が低下していると思ってください。

全ての指が広がるかチェック

小趾外転筋のエクササイズ

ひろのば体操

小趾外転筋の筋力低下や機能不全になったら「伸ばす」ことが大切です。そのために「ひろのば体操」というものを開発していまいます。「ここの筋肉を伸ばしているんだな」と意識することで、より効果的にストレッチを行うことができます。1日1回5分を目安にやってみましょう。

ひろのば体操の正しいやり方

YOSHIRO SOCKS

足指や足部の骨格を本来の形状に戻すことで、足裏や足背の筋肉を正常に働かせるために開発したものです。小趾外転筋の筋力低下や機能不全で小指がひらきにくくなっても、本来の小指の形に戻すように作られています。

足指の変形、カラダの歪み、歩行が不安定なのは、靴よりも靴下の影響のほうが大きいため、まずは靴下を変えることをお勧めします。

定期チェック

ひろのば体操を行ったら、定期的に「グー」と「チョキ」をやってみましょう。この筋肉が伸びれば伸びるほど、スムーズに行えるようになるのがわかると思います。

この記事を書いた人

湯浅慶朗のアバター 湯浅慶朗 ひろのば体操の開発者

足指研究の第一人者。理学療法士。病院理事・副院長も歴任。東京大学・国際医療福祉大学と研究を行う。テレビ出演は『NHKガッテン』『NHK BS 美と若さの新常識』『NHK サキどり』『ガイアの夜明け』ほか多数出演、著書は『たった5分の「足指つかみ」で腰も背中も一生まがらない!』(PHP出版)など多数。ハルメクとオシャレな矯正靴を共同開発しています。

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