足指ドクターによる解説
YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗
足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、YOSHIRO SOCKS・ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。MRC認定歯科医院の顧問の経歴もあり。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(7万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。東京大学石井直方名誉教授の弟子でもある。
はじめに
私たちの体は、日々の生活習慣や環境によって大きな影響を受けています。その中でも、足は「身体の土台」として重要な役割を果たしており、その形状や機能が全身の健康や姿勢に直結しています。特に、足指や母趾(親指)の位置の変化は、体全体のバランスに影響を与え、慢性的な不調や姿勢の歪みの原因となることがわかっています。
本記事では、西アフリカで行われた研究をもとに、裸足で生活する文化が足の形状や健康にどのような影響を与えているのかを探ります。1955年に発表された「The Position of the Hallux in West Africans」は、N. A. Barnicot(
ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ人類学部)とR. H. Hardy(ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ解剖学部)によって執筆されましたが、現代人が日常的に靴を履くことで失いつつある足本来の機能について、多くの示唆が得られます。
私は長年、足の健康と姿勢の改善に取り組んできました。足の形状や動きの改善は、外反母趾や偏平足といった足そのものの問題だけでなく、反り腰や猫背、膝や腰の痛みといった全身的な不調の解消にもつながると考えています。私たちが提案する「YOSHIRO SOCKS」や「ひろのば体操」は、これらの問題を解決し、体を本来のニュートラルポジションに導くための実践的なアプローチです。
この記事を通じて、足の健康が全身の健康にどれほど影響するかを改めて考え、日常生活の中に足への配慮を取り入れるきっかけにしていただければ幸いです。私たちの体の根本である「足」を見直し、健康な毎日を取り戻すための第一歩を一緒に踏み出しましょう。
研究の背景:外反母趾は靴のせい?
成人ヨーロッパ人の足趾(特に母趾、親指)の位置に関する変異は、特に外反母趾(母趾の病的な外反変形)に関連して議論や推測の対象となり続けています。この変形やその後遺症を矯正するための手術は、整形外科の手術リストの主要な部分を占めており、予防策が広く議論されています。特に、靴のデザインに関連して注目されています。
HardyとClapham(1952年)は、学齢期の子どもたちにおいて、15歳までに母趾が成人と同程度の外反位置に達していることを示しました。また、彼ら(1951年)は、女性の方が男性よりも変形の程度が大きく、外科的矯正のために受診する患者の85%を占めていることを示しています。
さらに、外反母趾に関連する第一中足骨と第二中足骨の角度の広がりは、外反母趾よりも後に発生することが示されており、これが誘因である可能性は低いとされています。現在の意見では、窮屈な靴の影響がこの変形の主要な原因であるとされています。この見解は、常識や観察からも支持されています(Craigmile, 1953)。
しかし、この要因の重要性を靴を常に履く人々の間で評価するのは難しく、そのため、裸足で生活する人々の母趾の位置について比較データを収集することが有用であると考えました。
コロニアル医療研究委員会からの助成金を受けて、西アフリカのナイジェリアを訪問した著者の一人(N. A. BARNICOT)が、裸足で生活するアフリカ人の男女とさまざまな年齢層からの資料を収集する機会を得ました。
方法
資料収集には、Scholl Pedographという機器を使用して足型を採取しました。この装置は、下側がインクで覆われたゴム膜から成り、被験者が片足を置いて全体重をかけることで、カートリッジ紙に足型を印刷します。この方法は簡単かつ迅速で、後にさまざまな測定を行える永久的な記録を提供します。
ただし、この方法は現在の目的においてX線写真よりも価値が低いです。野外調査に適したX線装置が利用できなかったため、やむを得ずこの方法を使用しました。ヨーロッパ人のサンプルを用いた以前の経験から、足型上で測定した母趾の角度とX線写真で測定した第一趾と中足骨間の角度との間に0.56の相関があることがわかっており、この方法のデータを用いる際には慎重さが必要です。
測定方法
右足の足型に対して以下のように測定を行いました(図1参照)。
1. 第二趾の最前端(A)から踵の最後端(B)までの直線を描き、この長さを足の長さとしました。
2. 第一中足趾節関節の内側面の最内側点(C)を目視で特定し、この点からAB線に直交する線を引きました。
3. 足の外側縁の最外側点(D)を通るAB線に平行な接線を描きました。
4. 接線が横線と交わる点(E)を見つけ、CE線を足幅の測定値としました。
5. 踵の内側面の足型に接する点(F)を通る線をCを通って引き、さらに母趾の内側面に接する線(G)を引き、Cを通してHまで延長しました。この角度HCFを母趾角として測定し、母趾が外側に偏位している場合は正の符号を付けました。
サンプル
ナイジェリアのサンプルは、ラゴスから30マイル以内の都市や村で収集されました。被験者の大部分はヨルバ族に属しています。
ナイジェリア兵(Dr. W. S. S. Ladellの協力により提供された)や、軽い革製のサンダルを時々履く53人の女子生徒を除き、被験者は全員、日常的に裸足で生活していました。
被験者の年齢分布は以下の表1および表2に示されています。この分布は性別ごとに主に2つのグループに分かれています。1つは子どもたち(ほとんどが12〜18歳と推定される)、もう1つは成人(ほとんどが35歳以上と推定される)です。アフリカの地域社会では正確な年齢情報を得るのが難しいため、特に高齢の成人については誤差が生じる可能性があります。誤差の範囲は概ね±5年以内と考えられますが、60〜80歳の年齢層では誤差が大きくなる可能性があります。
ヨーロッパのサンプルは、主に大学生、看護師、研究スタッフまたは教育スタッフの若年成人に限定されています。
結果
サンプル | 被験者数 | 母趾角の平均値(度) | 標準偏差(SD) | 平均年齢(年) | 年齢のSD(年) |
ヨーロッパ人 | 66 | +6.90 | 5.30 | 25.9 | 7.8 |
ナイジェリア兵士 | 113 | +2.20 | 7.20 | 49.9 | 14.0 |
ナイジェリア人(25歳以上) | 108 | +1.10 | 6.80 | 45.5 | 15.5 |
ナイジェリア人(25歳未満) | 106 | +2.30 | 5.80 | 16.2 | 3.6 |
ナイジェリア人 (2つのグループを統合) | 221 | +1.88 | 7.00 | – | – |
サンプル | 被験者数 | 母趾角の平均値(度) | 標準偏差(SD) | 平均年齢(年) | 年齢のSD(年) |
ヨーロッパ人 | 68 | +11.00 | 5.30 | 21.4 | 7.2 |
ヨーロッパ人(外反母趾患者) | 84 | +21.90 | 9.80 | – | – |
ナイジェリア人(25歳以上) | 148 | -0.03 | 7.10 | – | – |
ナイジェリア人(25歳未満) | 177 | +0.49 | 6.50 | – | – |
ナイジェリア人(18歳未満、裸足) | 120 | +0.18 | 5.80 | – | – |
ナイジェリア人(18歳未満、靴を履く) | 53 | +1.36 | 6.10 | – | – |
ナイジェリア人(女性全体) | 325 | +0.24 | 6.50 | – | – |
母趾角の平均値の比較
1. ヨーロッパ人男性と女性の差異
ヨーロッパ人男性と女性の母趾角の差は4.10度であり、統計的に非常に有意です(t = 4.63, 自由度 132)。女性の母趾は男性よりも外側に偏位しています。
2. アフリカ人男性とヨーロッパ人男性の比較
ナイジェリア人男性(25歳以上)とヨーロッパ人男性の母趾角の差は5.80度であり、これも非常に有意です(t = 5.9, 自由度 172)。同様に、25歳未満のナイジェリア人男性とヨーロッパ人男性の差も統計的に有意です(t = 5.20, 自由度 170)。
母趾角の分布
図2に示されているように、ヨーロッパ人およびアフリカ人の男女それぞれの母趾角の分布をヒストグラムで示しました。
ナイジェリア人のサンプルは性別ごとに大規模なため、分布の正規性を検討することができます。ナイジェリア人女性325人について統計を計算した結果、以下の特徴が明らかになりました。
• 歪度 ( \gamma_1 = 0.375, 標準誤差 0.134):有意に負の歪度を示し、母趾の極端な内反変位のケースが過剰に存在します。
• 尖度 ( \gamma_2 = 2.053, 標準誤差 0.272):正負の分布尾に予想以上の観測が存在し、尖った分布(leptokurtic)を示します。
男性においてはこの傾向は女性よりも弱いように見えます。また、分布の中心部分は非常に平坦であることが特徴的です。
年齢による分散の変化の兆候も見られるため、これらの異常は年齢分布と関連している可能性があります。特に高齢層では、分布が二峰性を示す傾向があることが示唆されています。
足のサイズとプロポーション
ヨーロッパ人とナイジェリア人の足型について、寸法の違いが注目されました。足の長さと幅の平均値は以下の表3に示されています。25歳以上の被験者のみを比較対象としています。
サンプル | 被験者数 | 足の長さの平均値(cm) | 足幅の平均値(cm) | 幅/長さの比率 |
ナイジェリア人女性 | 148 | 22.0 | 8.03 | 0.36 |
ヨーロッパ人女性 | 68 | 22.6 | 8.32 | 0.37 |
ナイジェリア人男性 | 221 | 24.3 | 8.86 | 0.37 |
ヨーロッパ人男性 | 60 | 35.0 | 8.94 | 0.36 |
ヨーロッパ人の測定値は両寸法においてナイジェリア人よりわずかに大きいものの、足のプロポーション(幅と長さの比率)は似ています。また、113人のナイジェリア兵のサンプルでは、平均の足長が24.9 cm、足幅が8.94 cmであり、ヨーロッパ人男性の値に非常に近いです。これは、兵士の採用基準として体格が選ばれている可能性を示唆しています。
足のプロポーションと母趾角の間には明確な関係が見られませんでした。変数を散布図にプロットしても相関は確認されませんでした。
その他の観察
アフリカ人、特に裸足で生活する人々の間では、第一趾と第二趾の間の隙間が広いことが一般的です。この隙間の最小距離を、ナイジェリア人少女76人とヨーロッパ人女性66人の足型から測定しました。その結果、以下の通りです:
• ナイジェリア人少女:平均6.9 mm
• ヨーロッパ人女性:平均4.9 mm
母趾角とこの隙間の幅の間には密接な相関はないようです。その理由として、第二趾および外側の趾が母趾と同じ方向に偏位すること、または母趾の第2趾節骨が第1趾節骨に対して角度を持つことが挙げられます。
さらに、村での調査中、母趾の損傷や外側の趾の損失が頻繁に見られましたが、これに関する体系的な記録は取っていません。Engle & Morton(1931年)は、ベルギー領コンゴの先住民の間で、怪我やフランベジア(yaws)による趾の損失が非常に一般的であることを指摘しています。
考察
本研究の主要な発見は以下の2点です。
1. ヨーロッパ人とナイジェリア人の母趾角の平均値には大きな違いがある。
2. ナイジェリア人において、性別による母趾角の差異がほとんど存在しない。
ナイジェリア人の母趾角の平均値はほぼゼロであり、この点では、Hardy & Clapham(1952年)がヨーロッパ人の4〜6歳の乳幼児について放射線撮影法を用いて得た小さな角度と比較されます。
足の自然な形状を取り戻すために
西アフリカにおける裸足文化と母趾の位置に関する研究結果は、現代の生活習慣が足の形状や機能に与える影響を再評価する重要な示唆を与えています。この研究から、YOSHIRO SOCKSやひろのば体操の重要性が明確になります。
1. 足の自然な形状を維持する重要性
研究によると、裸足で生活する西アフリカの人々の母趾(足の親指)は、ヨーロッパ人に比べてほとんど外反母趾が見られないことが示されました。この違いは、靴の着用による足への圧力が母趾の位置に与える影響を強く示唆しています。
一方、現代人は日常的に靴を履いて生活しており、特に窮屈な靴やハイヒールなどが母趾を外側に押し出し、外反母趾や足全体の機能障害を引き起こす可能性があります。これに対し、YOSHIRO SOCKSは足指を正しい位置に整え、足の形状を自然な状態に戻すよう設計されています。このようなサポートは、裸足で生活する環境に近い足の状態を作り出す手助けとなります。
2. 足の機能改善と体全体への影響
研究では、第一趾(母趾)と第二趾の間隔が裸足で生活するナイジェリア人では広く、ヨーロッパ人よりも足全体の形状が開放的であることが確認されました。このような足の形状は、歩行時のバランスやクッション性を高め、足全体の機能性を向上させると考えられます。
ひろのば体操は、足の筋肉や関節を適切に伸ばし、足全体の柔軟性を高めることを目的としています。この体操により、現代人が靴によって制限されている足の自然な動きを取り戻し、姿勢や歩行能力を改善する効果が期待できます。また、足元が整うことで、膝や腰、背骨といった体全体のバランスにも良い影響を与えることが分かっています。
3. 姿勢の改善と健康維持への貢献
研究から、ヨーロッパ人女性では男性よりも外反母趾が顕著であることが示されました。これは、窮屈な靴の着用が外反母趾の発症リスクを高めている可能性を示しています。外反母趾は足元のバランスを崩し、体全体の姿勢に悪影響を与えることが知られています。
YOSHIRO SOCKSは足指を広げることで体のバランスを整え、ひろのば体操と組み合わせることでニュートラルポジション(正しい姿勢)に戻す手助けをします。これにより、足の健康だけでなく、猫背や反り腰、膝の痛みなどの全身的な問題の予防や改善にも貢献できます。
結論:足から始まる健康づくり
今回の研究は、足の形状や機能が生活習慣や環境に強く影響されることを示しています。裸足文化のような環境を現代に取り入れるのは難しいかもしれませんが、YOSHIRO SOCKSやひろのば体操を日常生活に取り入れることで、靴を履いている以外では、いかに本来の裸足の状態に近づけることができます。
日常的に足を意識し、正しい形状や機能を取り戻すことで、健康な体づくりを始めてみてはいかがでしょうか?
参考文献
1)CRAIGMILE, D. A. (1953). Incidence, origin and prevention of certain foot defects. Brit. med. J.2, 749-752.
2)ENGLE, E. T. & MORTON, D. J. (1931). Notes on foot disorders among natives of the Belgian Congo.J. Bone Jt. Surg. 13, 311-318.
3)HARDY, R. H. & CLAPHAM, J. C. R. (1951). Observations on Hallux valgus. J. Bone Jt. Surg. 33B,376-391.
4)HARDY, R. H. & CLAPHAM, J. C. R. (1952). Hallux valgus. Predisposing anatomical causes.Lancet, 1, 1180-1183.
5)JAMES, C. S. (1939). Footprints and feet of natives of the Solomon Islands. Lancet, 2, 1390-1393.
6)WELLS, L. H. (1930-1). The foot of the South African native. Amer. J. phys. Anthrop. 15, 185-289.