【医療監修】足指の解剖学入門⑨ 母指内転筋 ― 開帳足・外反母趾で崩れる親指の制御筋

目次

はじめに|足指の解剖は「構造」で理解すると分かりやすい

こんにちは、足指研究家の湯浅慶朗です。

足の筋肉は、

「鍛える」「ほぐす」といった表面的な話よりも、

  • どこに付着して
  • どの方向に力を出し
  • 何を支えているのか

という構造(=物理)で考えると、理解が一気に深まります。

今回は、足の親指を内側に引き寄せる

母指内転筋(Adductor Hallucis)について、

  • 解剖学的な位置
  • 実際の役割
  • 機能が落ちたときに何が起こるのか

を、順序立てて解説します。

母指内転筋とは?

母指内転筋(ぼしないてんきん)は、

足の親指(母指)を内側へ引き寄せるための筋肉です。

足の裏に位置し、

歩行や立位の安定、足の横アーチの維持に関わっています。

親指が「外へ流れないように支える」

ブレーキ役の筋肉と考えると分かりやすいでしょう。

筋肉は「縮んで引く」ことで働く

筋肉は伸びて動かすのではなく、

縮んで骨を引っ張ることで動きを生み出します。

母指内転筋は、

足の中央部から親指の付け根へ向かって走り、

縮むことで親指を内側に引き寄せます。

どこにある筋肉なの?

母指内転筋は 足の裏 にあり、

2つの部分に分かれています。

① 斜頭(Oblique Head)

第2〜第4中足骨付近から起こり、

親指の付け根へ斜めに走ります。

② 横頭(Transverse Head)

第3〜第5中足趾節関節の関節包から起こり、

足の横方向に走ります。

両方とも、

母指の基節骨(付け根の骨)に付着しています。

専門的な解剖情報(参考)

起始

・斜頭:第2〜第4中足骨、足底腱膜

・横頭:第3〜第5中足趾節関節の関節包

停止

・母指 基節骨 基部 内側面

作用

・母指の内転

母指内転筋の役割

母指内転筋の主な役割は次の3つです。

① 親指を正しい位置に保つ

歩行時、親指が外側へ流れすぎないよう支えます。

② 足の横アーチを支える

前足部が横に広がるのを防ぎ、

足の安定性を保ちます。

③ 歩行とバランスを安定させる

親指が安定することで、

体重移動がスムーズになります。

なぜ母指内転筋が重要なのか

母指内転筋が働くことで、

  • 親指が地面を正しく捉える
  • 前足部が安定する
  • 姿勢や歩行が崩れにくくなる

という連鎖が起こります。

逆に言えば、

この筋肉が使えなくなると、足元から全身が不安定になる

ということです。

Hand-Standing理論との接続|母指内転筋は「支点を中央に戻す筋肉」

ここまで母指内転筋の役割を見てきましたが、

この筋肉の本当の意味は、

単に「親指を内側に引くこと」ではありません。

私は、足の構造を

「逆さまに置かれた手」

として捉えています。

これが Hand-Standing理論 です。

手を思い浮かべてください。

物をつかむとき、

親指は必ず“中央で支点”を作ります。

もし親指が外へ流れてしまえば、

握力は逃げ、安定して物を持つことはできません。

これは足でもまったく同じです。

足は

体重を支えるために地面に置かれた手

と考えると、構造が非常に分かりやすくなります。

このとき、

  • 親指=母指
  • 掌=足底
  • つかむ力=地面反力を受け止める力

として対応します。

母指内転筋は、

親指を「足の中央軸」へ戻すための筋肉です。

短母趾屈筋が

「地面をつかむ力(把持力)」だとすれば、

母指内転筋は

その把持点が外へズレないように制御する“位置制御筋”

にあたります。

母指内転筋が使えないと、何が起きるのか

Hand-Standing理論で見ると、

母指内転筋の機能低下は次のように説明できます。

  • 親指が外側へ流れる
  • 支点が足の内側から消える
  • 前足部が“面”で接地できなくなる
  • 重心が不安定になる

その結果、

足首・膝・骨盤で代償が起こり、

姿勢制御が上位へ逃げていきます。

これは

筋力不足の問題ではありません。

支点を中央に戻せない構造になっているだけ

なのです。

外反母趾との関係も、Hand-Standingで説明できる

母指内転筋が働かなくなると、

  • 親指が外側へ引かれる
  • 支点が小趾側へ移動する
  • 前足部が開きやすくなる

この状態が続くことで、

外反母趾という“形の変化”が起こります。

つまり外反母趾は、

原因ではなく結果です。

Hand-Standing理論では、

「親指が中央で支点を作れなくなった結果として、足の形が変わった」

と整理できます。

母指内転筋の機能が低下すると起こること

バランスが崩れやすくなる

親指で地面を押せなくなり、歩行が不安定になります。

足のアーチが低下しやすくなる

横アーチが崩れ、開帳足・扁平足傾向が強くなることがあります。

足の疲労や痛みが増える

他の筋肉や関節に負担が集中します。

姿勢全体に影響が広がる

前足部の不安定さは、

足 → 重心のズレ

→ 骨盤の傾き

→ 背骨の配列変化

→ 首・顎・呼吸機能

と、全身へ連鎖します。

母指内転筋が使えなくなる原因の一つ

靴や靴下の中で足が滑る状態が続くと、

無意識に足指を浮かせて安定を取ろうとします。

すると、

  • 親指を使わない
  • 内転筋が働かない
  • 機能が低下する

という流れが起こります。

筋肉は「使わなければ働けなくなる」

これは足指でも同じです。

セルフチェック|母指内転筋は働いている?

チョキ(機能チェック)

足指で「チョキ(パチンと弾く)」動きができますか?

  • スムーズに動く → 機能している可能性が高い
  • 動かしにくい・音が出ない → 機能低下のサイン

母指内転筋は「鍛える前に伸ばす」

母指内転筋は、

親指を閉じる筋肉です。

そのため、

親指を広げる動きでストレッチされます。

母指内転筋を意識したストレッチ

ひろのば体操

ひろのば体操の正しいやり方

足指を広げ、

親指を外側へ開くことで、

母指内転筋を含む足底筋群をやさしく伸ばします。

ひろのば体操のポイントは、

「今、この筋肉を伸ばしている」と意識すること。

目安:1日1回5分

定期的にチェックしよう

ストレッチや歩行を続けたら、

  • チョキがスムーズにできるか
  • 親指が自然に使えるか

を定期的に確認しましょう。

これが、

母指内転筋が正しく働き始めたサインです。

まとめ|母指内転筋は「親指の軸」を作る筋肉

母指内転筋は、

  • 親指の位置を保つ
  • 足の横アーチを支える
  • 歩行と姿勢を安定させる

足元の「軸」を担う筋肉です。

足指の解剖を理解することは、

歩行・姿勢・転倒予防を考える第一歩になります。

免責事項

本記事は一般的な情報提供であり、治療や効果を保証するものではありません。個人差があります。医療が必要な際は専門医へご相談ください。商品は医療効果を目的としたものではありません。

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