はじめに|足指の解剖は「構造」で理解すると分かりやすい
こんにちは、足指研究家の湯浅慶朗です。
足の筋肉は、
「鍛える」「ほぐす」といった表面的な話よりも、
- どこに付着して
- どの方向に力を出し
- 何を支えているのか
という構造(=物理)で考えると、理解が一気に深まります。
今回は、足の親指を内側に引き寄せる
母指内転筋(Adductor Hallucis)について、
- 解剖学的な位置
- 実際の役割
- 機能が落ちたときに何が起こるのか
を、順序立てて解説します。
母指内転筋とは?

母指内転筋(ぼしないてんきん)は、
足の親指(母指)を内側へ引き寄せるための筋肉です。
足の裏に位置し、
歩行や立位の安定、足の横アーチの維持に関わっています。
親指が「外へ流れないように支える」
ブレーキ役の筋肉と考えると分かりやすいでしょう。
筋肉は「縮んで引く」ことで働く

筋肉は伸びて動かすのではなく、
縮んで骨を引っ張ることで動きを生み出します。

母指内転筋は、
足の中央部から親指の付け根へ向かって走り、
縮むことで親指を内側に引き寄せます。
どこにある筋肉なの?
母指内転筋は 足の裏 にあり、
2つの部分に分かれています。
① 斜頭(Oblique Head)
第2〜第4中足骨付近から起こり、
親指の付け根へ斜めに走ります。
② 横頭(Transverse Head)
第3〜第5中足趾節関節の関節包から起こり、
足の横方向に走ります。
両方とも、
母指の基節骨(付け根の骨)に付着しています。
専門的な解剖情報(参考)
起始
・斜頭:第2〜第4中足骨、足底腱膜
・横頭:第3〜第5中足趾節関節の関節包
停止
・母指 基節骨 基部 内側面
作用
・母指の内転
母指内転筋の役割
母指内転筋の主な役割は次の3つです。
① 親指を正しい位置に保つ
歩行時、親指が外側へ流れすぎないよう支えます。
② 足の横アーチを支える
前足部が横に広がるのを防ぎ、
足の安定性を保ちます。
③ 歩行とバランスを安定させる
親指が安定することで、
体重移動がスムーズになります。
なぜ母指内転筋が重要なのか
母指内転筋が働くことで、
- 親指が地面を正しく捉える
- 前足部が安定する
- 姿勢や歩行が崩れにくくなる
という連鎖が起こります。
逆に言えば、
この筋肉が使えなくなると、足元から全身が不安定になる
ということです。
Hand-Standing理論との接続|母指内転筋は「支点を中央に戻す筋肉」
ここまで母指内転筋の役割を見てきましたが、
この筋肉の本当の意味は、
単に「親指を内側に引くこと」ではありません。
私は、足の構造を
「逆さまに置かれた手」
として捉えています。
これが Hand-Standing理論 です。
手を思い浮かべてください。
物をつかむとき、
親指は必ず“中央で支点”を作ります。
もし親指が外へ流れてしまえば、
握力は逃げ、安定して物を持つことはできません。
これは足でもまったく同じです。
足は
体重を支えるために地面に置かれた手
と考えると、構造が非常に分かりやすくなります。
このとき、
- 親指=母指
- 掌=足底
- つかむ力=地面反力を受け止める力
として対応します。
母指内転筋は、
親指を「足の中央軸」へ戻すための筋肉です。
短母趾屈筋が
「地面をつかむ力(把持力)」だとすれば、
母指内転筋は
その把持点が外へズレないように制御する“位置制御筋”
にあたります。
母指内転筋が使えないと、何が起きるのか
Hand-Standing理論で見ると、
母指内転筋の機能低下は次のように説明できます。
- 親指が外側へ流れる
- 支点が足の内側から消える
- 前足部が“面”で接地できなくなる
- 重心が不安定になる
その結果、
足首・膝・骨盤で代償が起こり、
姿勢制御が上位へ逃げていきます。
これは
筋力不足の問題ではありません。
支点を中央に戻せない構造になっているだけ
なのです。
外反母趾との関係も、Hand-Standingで説明できる
母指内転筋が働かなくなると、
- 親指が外側へ引かれる
- 支点が小趾側へ移動する
- 前足部が開きやすくなる
この状態が続くことで、
外反母趾という“形の変化”が起こります。
つまり外反母趾は、
原因ではなく結果です。
Hand-Standing理論では、
「親指が中央で支点を作れなくなった結果として、足の形が変わった」
と整理できます。
母指内転筋の機能が低下すると起こること
バランスが崩れやすくなる
親指で地面を押せなくなり、歩行が不安定になります。
足のアーチが低下しやすくなる
横アーチが崩れ、開帳足・扁平足傾向が強くなることがあります。
足の疲労や痛みが増える
他の筋肉や関節に負担が集中します。
姿勢全体に影響が広がる
前足部の不安定さは、
足 → 重心のズレ
→ 骨盤の傾き
→ 背骨の配列変化
→ 首・顎・呼吸機能
と、全身へ連鎖します。
母指内転筋が使えなくなる原因の一つ
靴や靴下の中で足が滑る状態が続くと、
無意識に足指を浮かせて安定を取ろうとします。
すると、
- 親指を使わない
- 内転筋が働かない
- 機能が低下する
という流れが起こります。
筋肉は「使わなければ働けなくなる」
これは足指でも同じです。
セルフチェック|母指内転筋は働いている?
チョキ(機能チェック)
足指で「チョキ(パチンと弾く)」動きができますか?
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- スムーズに動く → 機能している可能性が高い
- 動かしにくい・音が出ない → 機能低下のサイン
母指内転筋は「鍛える前に伸ばす」
母指内転筋は、
親指を閉じる筋肉です。
そのため、
親指を広げる動きでストレッチされます。
母指内転筋を意識したストレッチ
ひろのば体操
足指を広げ、
親指を外側へ開くことで、
母指内転筋を含む足底筋群をやさしく伸ばします。
ひろのば体操のポイントは、
「今、この筋肉を伸ばしている」と意識すること。
目安:1日1回5分
定期的にチェックしよう
ストレッチや歩行を続けたら、
- チョキがスムーズにできるか
- 親指が自然に使えるか
を定期的に確認しましょう。
これが、
母指内転筋が正しく働き始めたサインです。
まとめ|母指内転筋は「親指の軸」を作る筋肉
母指内転筋は、
- 親指の位置を保つ
- 足の横アーチを支える
- 歩行と姿勢を安定させる
足元の「軸」を担う筋肉です。
足指の解剖を理解することは、
歩行・姿勢・転倒予防を考える第一歩になります。

