足指ドクターによる解説
YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗
足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(7万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。
・膝の軟骨のすり減りと痛みは無関係ということは2012年に証明されている
・膝の痛みは「加齢」「体重」「筋力低下」のせいではない
・一般的な医学では膝の痛み=変形性膝関節症と安易に診断される
・膝の痛みの治療には、ダイエット・投薬・リハビリ・手術・再生医療は必要ありません
・変形性膝関節症が原因で膝の痛みが起こるわけではない
・膝の痛みは、靴の種類や履き方、靴下の種類など、さまざまな要因によって引き起こされる
概要
高齢になればなるほど身体のあちらこちらが痛み、歩く速度も遅くなり、膝や腰が曲がってきます。そうした症状の多くは「歳のせい」「太っているせい」「筋力の低下」とされてきました。実は、膝が痛むメカニズムは現代医学でも解明されていません。そのため、病院では痛み止めの薬、痛み止めの注射、湿布などで一時的に痛みを緩和する対処療法的な治療が中心なのです。
私は、日本に2500万人の患者さんがいるという膝痛の病態解明に取り組むとともに、全身の健康との関わりの大きい運動器障害の早期発見・治療、予防に向けた研究をしていますが、6万人の患者様の足を診てきたことで、痛みが起こる原因に足指・靴下・靴が原因であることにたどり着きました。
アメリカ合衆国のボストン大学の医学研究チーム(変形性関節症フラミンガム研究)は、変形性膝関節症による膝の構造的な病変の評価を、MRI検査によって検討する試験が行われました。対象は、レントゲン検査で変形性膝関節症がなく、膝のMRI検査を受けた50歳以上の住民です。
【対象者】
・2002~2005年の間に710人の方を調査
・女性が393人(55%)
・白人が660人(93%)
・1ヵ月以内に膝痛を認めたのは206人(29%)
・平均年齢は62.3歳
・平均BMIは27.9kg/m2
【結果】
・89%(631/710人)に何らかの異常が認められた
・骨棘(74%、524/710人)
・軟骨損傷(69%、492/710人)
・骨髄病変(52%、371/710人)
・異常所見の有病率は加齢とともに増加
・体重による異常所見の頻度に有意な差は認めない
・男性は女性に比べ半月板障害と靱帯障害の頻度が高い
【膝痛の有無別の異常所見の頻度】
・膝痛あり群が91%
・膝痛なし群も88%
(両群間に有意な差はない)
膝の痛みがない人でも膝関節の病変がある人がいる。つまりは加齢によって膝に何らかの異常が見つかるものの「痛みとは無関係」であることが証明された。
原著論文
Guermazi A et al. Prevalence of abnormalities in knees detected by MRI in adults without knee osteoarthritis: population based observational study (Framingham Osteoarthritis Study). BMJ. 2012 Aug 29;345:e5339. doi: 10.1136/bmj.e5339.
一般的には、レントゲンやMRIによって画像上の異常に基づいて付けられた病名が、変形性ひざ関節症です。実はここに大きな問題点があります。それは、検査で現れた異常が必ずしも、痛みの原因ではないということです。
例えば、膝の痛みで病院を受診したとします。変形性膝関節症と診断され、その痛みが取れない場合、最終手段として手術をすることになります。しかし、手術によって異常な部分を取り除いても、必ずしも痛みがなくなるとは限りません。手術後も、以前と同じ痛みを訴える人が少なくないのです。
・レントゲンやMRIの画像診断で軟骨のすり減りなどの異常が認められても、全く痛みを訴えない人がいます
・逆に、画像上全く正常でも痛みを訴える人が多くいます
これは画像上の病名と痛みの原因が必ずしも一致するものではないということです。現代の整形外科治療が、いかに矛盾に満ちているかわかるかと思います。
なぜこのようなことが病院やクリニックで起こっているかというと、ほとんどの医師が「レントゲンなどで見える異常」にしか対応できていないからです。医師が膝関節のMRI画像を見て「変形性膝関節症」などと、安易に”病名“をつけたため、膝痛が治らない悲劇が起こるのです。その理由は、医学では膝痛の原因がまだわからないこと、したがって正しい治療法がないと認めてこなかったところにあります。
そもそも軟骨がすり減って変形していることが膝の痛みの原因であれば、それを治さない限り痛みは良くならないことになります。つまり手術以外には治らないということです。
ところが、膝の軟骨は擦り減ったままでも、足指治療を行うことで膝の痛みが良くなることが多いのです。つまり、足指が機能的に動いていれば、たとえ膝の軟骨がすり減っていても痛くはないのです。膝の軟骨が擦り減ったままでも痛みが良くなるため、それが痛みの直接的な原因という考え方は成り立ちません。
症状
変形性膝関節症の最も一般的な症状に「膝の痛み」の項目があるため、膝が痛いと変形性膝関節症と第一に疑うことから始めるのが病院です。一般的な変形性膝関節症の症状は次のとおりです。
・痛み:動くと痛みが生じます。じっと座っていると膝が痛くなることがあります。
・こわばり:朝一番や長時間座った後などに膝がこわばる場合があります。
・動かしにくい:時間が経つと、膝を完全に曲げたり伸ばしたりする機能を失うことがあります。
・きしむ:パチパチという音が聞こえたり、ゴロゴロとした感覚を感じることがあります。
・不安定性:膝が「脱力」したり、曲がったりすることがあります。
・ロッキング:膝がロックしたり固着したりすることがあります。
・腫れ:膝の全体または片側が腫れることがあります。
膝が痛いと、膝に問題があると考えてしまいがちですが、膝関節の痛みも原因は、その場所ではなく、遠く離れたところである場合がほとんど。だから悪くなったところばかりを治療しても良くならない。根っこを見過ごしたまま、痛み止めなどを処方されれば、ますます悪化するだけです。
原因・発症のメカニズム
発生要因
膝の痛みの最も一般的な原因は変形性膝関節症による軟骨のすり減りです。ほぼすべての人が、ある程度の変形性関節症を患うことになります。しかし、下記の要因により膝痛を発症するリスクが高まることはありません。
・肥満(発症する可能性が 7 倍高くなる)
・膝に負担がかかる仕事やスポーツをしている
・関節のアライメント異常(外反/内反足など)
・膝を怪我している、または膝に古傷がある
・家族の歴史
・代謝異常(くる病など)
では軟骨のすり減りが膝の痛みと無関係であるならば、膝の痛みの原因はなんなのでしょうか。先ほどもお話ししましたが、足指が変形(外反母趾・内反小趾・かがみ指・浮きゆび)が大きく関係しています。立つ、歩くは、極めて日常的で基本的な動作。足のバランスを支えている「足指」が使えていない状態だと、つくべきところに筋肉がつかず、逆に膝を痛める場合があります。小指に支える力がないとねんざにもつながるし、ひざ、腰の痛みの原因にもなります。
膝の痛みは、足指変形と仙腸関節の機能障害による膝周囲の筋肉の炎症が混じって出ている症状です。仙腸関節について別の章で説明したいと思います。これまでの臨床現場で分かったことは、膝の痛む場所によっても原因が異なるということ。それほど難しいことではありません。
・膝の前面が痛い→膝前面の筋腱の炎症→かがみ指
・膝の後ろが痛い→膝後ろの筋腱の炎症→かがみ指・浮き指
・膝の外側が痛い→膝外側の筋肉の炎症→外反母趾
・膝の内側が痛い→膝内側の筋肉の炎症→内反小趾
また、靴底が硬い靴・踵の支えが不十分な靴(ヒールカウンターが浅い・柔らかい)を履いている・アーチをサポートするインソールを使っている場合、足が外側に倒れてしまって膝の内側の筋肉が炎症を起こしたり、半月板に大きな負荷がかかり、膝の痛みの原因になることがあります。
メカニズム
逆立ちをするとき、手の形はどうしますか?手のひらを大きく広げ、指をまっすぐに伸ばしますよね。常に動き続ける重心を、足指を使って調整をして上体のバランスを保っています。手の指が曲がっていたり、閉じていたりすると、バランスが悪くなったり、腕に相当な力を入れないと逆立ちがしにくくなります。
手を「足」に置き換えるとわかりやすいですね。手首は足首、ひじは膝、肩は股関節にあたります。足指がしっかり開いて伸びている状態だと、人は真っ直ぐにバランスよく立つことができます。ところが、残念なことに、ほとんどの人は間違った靴の選び方や履き方、靴下の種類や素材などによって足指が変形し、土台が崩れています。
それでも膝や腰に無理な力を入れながら上体のバランスを取って、歩いたり走ったりすることができます。しかし無理な力がかかりすぎるので、その負担が膝周囲の筋肉にかかって炎症(=痛み)を起こすのです。そう考え得ると、ただすべきは痛む部位よりも、支える土台の方だと思いませんか?
足指にはそれぞれ役割があります。
親指:重心が内側に乗りすぎた場合に、中心に立て直す
小指:重心が外側に乗りすぎた場合に、中心に立て直す
人差し指〜薬指:重心が前方に乗りすぎた場合に、中心に立て直す
「あおり歩行」ってご存知でしょうか。私たちが普段何気なく行なっている歩き方のことです。あおり歩行には4つの順序があります。
①かかと着地
②小指の付け根の方向へ体重移動
③薬指〜人差し指の方向へ体重移動
④親指に体重移動して地面を蹴り出す
1.膝の内側が痛いメカニズム
この過程の中で、小指が使えなかったらどうなるでしょうか?踵から着地して、小指の方へ体重が移動していきますが、小指で体重を中心に戻すことができないので、そのまま外に倒れてしまいます。回外足(かいがいそく)といいます。足を外側に倒したまま歩いてみるとわかりますが、膝がひらいてO脚のようになりますね。
膝の痛みの原因は、「足指の変形」にあります。上記のイラストを見てください。変形性膝関節症が重度になるにつれて、下腿骨(膝の下の骨)が外側に倒れていくのがわかると思います。下腿骨が外側に倒れることで大腿骨も外側に倒れるため、下腿骨が外に倒れないようにすることが、変形性膝関節症の進行を抑えることにつながるわけです。この場合、O脚なので膝の内側が痛む人に当たります。
O脚になると膝がひらいてしまいますが、恒常性という「元に戻そうとする力」が働くので、膝の内側の筋肉が過剰に働き、足を真っ直ぐにしようとします。その状態が長時間・長期間続くことで、膝の内側の筋肉に炎症が起きて痛みが起こるのです。ただの使いすぎなだけなので、筋肉痛と同じで、正しい足指の使い方ができていれば2週間ほどで痛みは自然と治っていきます。
2.膝の外側が痛いメカニズム
では逆の場合はどうでしょうか?親指の機能不全や変形があると、踵から着地して、小指の方へ体重が移動し、親指の方へ体重が移動してきます。しかし親指で体重を中心に戻すことができないので、そのまま内側に倒れながら地面を蹴ることになります。回内足(かいないそく)といいます。足を内側に倒したまま歩いてみるとわかりますが、膝が閉じてX脚のようになりますね。
X膝になると膝が閉じてしまいますが、恒常性という「元に戻そうとする力」が働くので、膝の外側の筋肉が過剰に働き、足を真っ直ぐにしようとします。その状態が長時間・長期間続くことで、膝の外側の筋肉に炎症が起きて痛みが起こるのです。これも筋肉の使いすぎなだけなので、筋肉痛と同じで、正しい足指の使い方ができていれば2週間ほどで痛みは自然と治っていきます。
3.膝の前が痛むメカニズム
最後にかがみ指や浮き指の場合にはどうなるかですね。
かがみ指の場合には、歩くときに常にブレーキがかかっている状態になるので、無意識に膝が曲がってしまいます。また、かかと重心となっているため、膝を曲げてバランスを取ろうとします。この無理な姿勢が大腿四頭筋という太ももの筋肉を過剰に使いすぎる原因となります。これも曲がった膝をまっすぐに戻そうとする恒常性の働きによるものです。
大腿四頭筋腱である部分が炎症を起こすと、痛みとして出てきますが、これも筋肉の使いすぎなだけなので、筋肉痛と同じで、正しい足指の使い方ができていれば2週間ほどで痛みは自然と治っていきます。
4.膝裏が痛むメカニズム
膝の裏にある腓腹筋(ひふくきん)はハムストリングスは、立っているだけでも使われる筋肉。疲労や負担が溜まりやすく、傷めやすい筋肉でもあります。特に、走る・跳ぶといった要素が多いスポーツでは、瞬間的に膝の裏を伸ばすため、大きな負担がかかり痛みが生じやすいのです。
かがみ指や浮き指になると、バランスを取るために「かかと重心」になるのですが、①膝を曲げて立つ場合と、②膝をそらせて立つ場合があります。膝をそらせて立つことを「反張膝」といいます。
膝をそらせて立つことにより、必要以上に膝裏が伸ばされ痛みが生じるケースと、反らせた膝をまっすぐに戻そうとする力(恒常性)が働き、膝裏の筋肉(ハムストリングス)を過剰に使って炎症を起こすケースがあります。ハムストリングス(大腿二頭筋腱・半膜様筋腱、半腱様筋腱)である部分が炎症を起こすと、痛みとして出てきますが、これも筋肉の使いすぎなだけなので、筋肉痛と同じで、正しい足指の使い方ができていれば2週間ほどで痛みは自然と治っていきます。
足指がしっかりと広がって伸びていれば、前方に50%・後方に50%の体重がかかる理想的なバランスになります。しかし浮き指やかがみ指になると、地面に接地する面積が少なくなり、かかとに体重が移動します。
また、膝周囲の筋肉の炎症にはどのように靴を履いているかが大きく影響することがあります。特に以下のような靴を履いている方は要注意です。
・室内でスリッパ・サンダル・草履などを履いている
・紐を緩めにして靴を履いている
・靴底や踵の支え(ヒールカウンター)が柔らかい靴
・クッション性がありすぎる靴
・幅が広い靴
・凹凸(おうとつ)のある中敷(インソール)の靴
・滑りやすい素材(綿やシルク)の靴下を履く
かかとがない靴やかかとが脱げやすい靴などは、靴の中で足が滑り、靴が脱げないように無意識に足指に力を入れます。この状態が長期間・長時間続くと足指が変形していきます。
足指が変形する原因は?
ほとんどの現代人は、間違った靴の選び方、履き方などによって足指が変形し、土台が崩れています。靴の中で足が前後に滑ると、足指が滑りを止めようとして、かがみ指(ハンマートゥ)や浮き指になるのです。また、靴下やスリッパによっても、足指が曲がることがあります。
また、足の骨はたくさんの筋肉で支えられてまっすぐな形をしていますが、ほとんどの筋肉が足指に付着しています。そのため、足指を機能的に使わず歩くと、足の筋力が落ちていくことも医学的にはあまり知られていません。
世界中のほとんどの人が履いている通常の筒型の靴下(チューブソックス)では、足指に4g~9gf/㎠の力がかかり、足指を圧迫していきます。また多くの綿やシルクの靴下にはシルケット加工が施されているので、靴や靴下の中で足が滑りやすくなります。滑りやすく、足指に圧力のかかる靴下は、足指機能不全を引き起こし、かがみ指や浮き指になりやすくなります。逆にブカブカのチューブソックスでは、靴下の中で足がズルズルと滑るので、かがみ指や浮き指になってしまいます。
つまり、膝の痛みをよくするには、手術でも再生医療でもなく、「足指」ということになるのです。病院で行うリハビリ・マッサージ・筋膜リリースなどは一時的に痛みが和らぐこともありますが、姿勢や脚の形を作っている「足指」を治療しない限りは、何の意味も持たないことがわかるでしょう。
検査・診断
膝の痛みで病院を受診した際、一般的にはレントゲンやMRIによって画像上の異常に基づいて「変形性ひざ関節症」と診断されます。40歳をすぎると、白髪と同じで膝の軟骨も多少はすり減っていくので、レントゲンやMRIで異常が見つかるのは不思議ではありません。以下は変形性膝関節症の検査・診断を記載しておきます。
レントゲン検査(X線撮影)では、膝関節の状態を観察します。X線撮影は立った状態で行います。変形性膝関節症の場合には、X線写真で軟骨の下にある骨が硬くなる「軟骨下骨硬化」や、関節のすきまが狭くなる「関節裂隙の狭小化」、とげ状の骨である「骨棘」などがみられます。
レントゲン検査(X線撮影)以外に、必要に応じてMRI検査、関節液検査、血液検査を行う場合があります。
変形性膝関節症の進行度
変形性膝関節症の診断基準として使われるのは、X線撮影によるKellgren-Lawrence(KL)分類です。KL分類では骨棘(こつきょく)の形成や関節裂隙(かんせつれきげき)の狭小化、軟骨下骨の骨硬化を基準として5段階で重症度を評価します。一般的に、グレードⅡ以上の場合に変形性膝関節症(O脚)と診断されます。
膝の痛みは,内側関節裂隙や膝窩部を中心として広範囲に発生し、KL分類で重症度が高い例ほど痛みが発生する傾向が見られますが、ROAD(Research on Osteoarthritis Against Disability)StudyでKL分類3以上の群の疼痛保有率が男性約40%、女性約60%というデータから、重症度が高ければ必ず痛みがあるわけではありません。
治療
治療には、主に「保存療法」と「手術療法」に分けられます。進行度にかかわらず、まず保存療法を行いますが、保存療法を行っても痛みが軽減せず日常生活に支障をきたす場合には、手術療法が考慮されます。
保存療法では「生活指導」を基本として、「食事療法」「運動療法」「物理療法」「薬物療法」「装具療法」を組み合わせて行います。
いずれも第一の目的は根治ではなく、痛みを緩和する事なので、疼痛緩和には一時的な効果はあるものの再発を繰り返します。膝の痛みを根本的に解決し、再発をしないようにするためにはセルフケアによる足ゆびストレッチがお勧めです。それに合わせて正しい靴の選び方、靴の中で足が滑らないようにするための正しい靴下選びも大切です。
セルフケア
私はこれまで数多くの「変形性膝関節症」と診断された患者様をみてきました。そのほとんどが膝の強い痛みで、長時間歩けない、正座ができない、階段が登れないが主な症状でした。「この痛みを治すには手術しかない」「我慢するしかない」「薬を使いながら一生痛みと付き合っていきましょう」と言われた方ばかり。
しかしそんな方でも足指治療を始めて2週間ほどすると痛みが消え、次第に杖がなくても歩けるようになったり、徐々に正座ができるようになったり、手術をしなくても普通に生活ができるまでに回復していきました。中にはすり減った軟骨が再生した人もいました。なぜそんなことが起きるのか。
それは悪くなった部分ばかりを見ずに、悪くなった「原因」に対してアプローチを行うからです。膝の痛みは「足指変形」という根本原因があり、足の筋力をつけていけば十分にセルフケアで改善できるものなのです。足ゆびストレッチはひざ痛の最良の治療法の1つです。
変形性膝関節症を改善する足指ストレッチ「ひろのば体操」
1日1回5分を目安にやってみましょう。2〜3日やってみて症状に変化が見られないときは、1日2〜3回に回数を増やしてみることをお勧めします。目標は足指のパーが30秒間できるようになることです。
ひざ痛を最適にサポートする矯正5本指靴下
これまで綿やシルクで機能性5本指靴下を製作し、臨床現場で多くの患者様に試してきましたが、靴や靴下の中で足が滑るという問題を解決することができませんでした。そこで、繊維会社と2年の歳月をかけて理想的な繊維を完成させ、矯正5本指靴下「YOSHIRO SOCKS」が誕生しました。
・最大1.6倍の耐滑性能がある「滑りにくい素材」
→靴や靴下の中で足が滑らないため足指機能を妨げない
→摩耗が起こりにくいので靴下の寿命が4倍以上長い
・最大2倍伸びる伸縮性能でどんな足の形でもフィットする
→伸縮機能を活かして足指を本来の形状に戻す機能がある
・綿100%の靴下より4倍、ポリエステル100%の靴下より6倍もの吸水力がある
→蒸れないため消臭効果が高い
・アーチを持ち上げすぎない構造
→アーチ本来の機能を最大限に発揮する
・繊維が細いので素足感覚で履くことができる
・足、姿勢、口腔機能を矯正する効果がある
予防
足指ストレッチや矯正5本指靴下(YOSHIRO SOCKS)を履きながら、日常生活を少し変えることで、姿勢を正しい状態で保持し、膝関節周囲の筋肉の炎症を改善させることができます。
・小股で歩くようにする
・坂道や階段を上るなど足指先を使う活動を行う
・室内で履き物を履かないようにする
・1日6,000歩以上歩くように心がける
・靴紐をしっかり絞めるようにする
・オーダーの枕やマットを使わないようにする
・正しい靴選びを心がける
・靴べらを使って靴を履くようにする
足指のストレッチや矯正5本指靴下(YOSHIRO SOCKS)を履いていれば、膝への負担軽減を考えずにアクティブに活動できるようになります。バランス、敏捷性、調整運動を従来の足指運動と組み合わせると、機能と歩行速度の向上に役立ちます。
理学療法
病院やクリニックでのリハビリは、変形を遅らせたり痛みの軽減を図ることが可能ですが、変形性膝関節症や膝の痛みの治療は手術療法以外では治すことはできないと結論づけています。病院に通うことを辞めて、その時間を足指ストレッチや小股ウォーキングに使うことをオススメします。
補助装具
杖などの器具を使用したり、装具や膝スリーブは安定性と機能を補助し、関節炎が膝の片側に集中している場合に役立ちますが、長期間の使用により膝関節周囲の筋肉や靭帯を弱らせてしまいます。また膝の痛みを軽減するために、靴にオーダーインソールを入れることはお勧めできません。
正しい靴の選び方
足指が変形するいちばんの原因は、靴の選び方と履き方にあります。足腰などのトラブルの多くは、足の指をちゃんと使っていないことが原因です。靴をはいた状態で脚の指の動きを保つには、正しい靴選びが重要です。
正しい靴下の選び方
純綿やシルク素材のものは滑りやすい
シルケット加工(またはマーセライズ加工)というものがあります。シルケット加工とは、シルクの様な光沢を持たせる加工のことで、糸を苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)の液に浸し、手延べうどんのように糸を伸ばして糸の断面を整える加工のこと。主に綿やシルク繊維(コットン)に対して加工をすることが圧倒的に多いです。
綿の断面が整い発色性もよくなり、加工をすると毛羽も抑えられるため、見た目に高級感があります。なめらかですべるような履き心地なのですが、なめらか(滑らか)ですべる(滑る)というように読んで字が如く、靴の中や靴下の中で足が滑りやすくなります。つまりは足指の変形を起こしやすい素材ということなのです。
もちろんシルケット加工をしていない綿やシルク素材もありますので、そういった素材を選ぶこともひざ痛の予防には大切な要素です。
5本指靴下で足指の機能を発揮させる
一般的な靴下はチューブソックスとも呼ばれ、世界中の方のほとんどがこのタイプの靴下です。長年使われてきた形状なのですが、チューブタイプは足指をうまく使うことができなくなります。そのため5本に分かれた靴下が良いのですが、このタイプにも色々なものがあります。
一番大切にしたいのは、自分自身の足にジャストフィットするか。指先や甲まわりがゆるかったりすると、せっかくの5本指靴下でも「滑り」が発生してしまいます。逆にフィットしすぎて圧迫感を感じる5本指靴下も血行を妨げてしまうためオススメできません。自分が使ってみて「心地よい」と感じる5本指靴下を見つけることが大切です。
矯正力のある靴下も増えてきましたが、試してみると意外にも強力に圧迫するものが多いと思いました。特に土踏まずの部分。アーチをサポートすることは大切なのですが、アーチ構造というのは強く持ち上げすぎると機能を失ってしまう特性があるので、アーチ部分もあまり圧迫感がないものを選ぶようにしましょう。
脱いだ時に「は〜、スッキリした!」と感じたら圧迫が強いということになります。
体験談
Fさんがひざ痛に悩まされるようになったのは、3年前に転倒してからです。右のひざ関節を痛め、医師からは人工関節を入れる手術を勧められました。しかし、心臓が悪かったため手術は断念せざるを得ませんでした。そこで、3週間に1回、ひざの動きをよくし、痛みをおさえるヒアルロン酸注射を打つようになりました。ただし、注射は一時しのぎにしかなりませんでした。3週間たつころには効果が薄れて、再びひざがズキズキと痛み出すのです。
家の中では手すりや壁伝いに歩き、外出するときは杖が頼りでした。思うように歩けないため、好きな外出も、しだいに少なくなっていきました。私は73歳まで仕事を続け、退職後は妻と海外旅行を楽しみ、いろいろな国へ出かけたものです。地域の「歩こう会」の世話役もしていて、まさか自分が歩けなくなるなんて思ってもみませんでした。
ですから、1日じゅう家の中でじっとしている生活はとてもつらかったものです。また、転倒した原因がふらつきだったため、脳の検査も受けました。その結果、私は認知機能がやや低下していたようです。確かに、今記憶をたどってみても、そのころのことはよく思い出せません。
病院では記憶力や判断力の減退を遅らせる薬を処方され、それを飲むようになりました。
娘さんの勧めで、Fさんが私の元を訪れたのは、昨年の10月です。私は、足指を広げて伸ばす「足指つかみ(ひろのば体操)」を勧めました。Fさんの足指はとてもかたくて、最初は、指と指の間をなかなか広げることができませんでした。ですから、足指の間に手の指を入れるのもひと苦労でした。
それでも、毎日、朝食後と夕食前に5分ずつやるようにしてもらったら、徐々に足指が開くようになってきました。そして、1ヵ月後にはひざの痛みが軽くなり、立つ力がついてきたのです。年末には姿勢もよくなりました。以前は肩が丸まって頭が下がり、柱に後頭部をつけることができませんでした。それが、頭を上げて柱にピタリとつけられるようになったのです。
初めて私の元を訪れたときは、正座をしようとしてもお尻が10㎝ぐらい浮いていたのが、ちゃんとつくようにもなりました。
足指伸ばしを始めて4ヵ月たつ今は、家の中では手すりや壁を頼らなくても歩けます。外出時は不安なので杖を持参しますが、歩幅が広くなり、歩く速度も速くなりました。距離も2kmぐらいは平気で歩けるようになりました。人間、何歳になっても回復するものなのですね。今の目標は、夏までに、杖を使わずに歩けるようになることです。
今では週3回デイケアに行ったり、奥様と国内旅行に出かけたりと、日々をまた活動的に楽しんでいます。
デイケアではFさんがいちばん元気かも知れないそうです。計算問題も素早くできるようになり、認知機能が改善していたのです。娘さんやケアマネージャーから「認知症の症状がなくなった」との報告までいただきました。
その後、ひざの痛みがあった奥様(80代)にもひろのば体操を行ってもらったら、2週間ほどで改善。一時は夫婦ともに介護されることを心配していましたが、今では二人でときどき旅行を楽しんでいるそうです。
このように、何歳になってからでも体は変えられます。皆さんもぜひ今日から、足指を伸ばすことを始めてみてください。
参考文献
1. 外反母趾の機能解剖学的病態把握と理学療法.湯浅慶朗.理学療法 第31巻 第2号 2014.2 P159-165
2.『足指をそらすと健康になる』湯浅慶朗/著 PHP研究所 2014.6
3.『たった5分の「足指つかみ」で腰も背中も一生まがらない!』湯浅慶朗/著 PHP研究所 2021.6
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