ランニングシューズ選び完全ガイド:かかとの高さで変わる足首の負担とパフォーマンスの秘訣

足指ドクターによる解説

YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗

足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、YOSHIRO SOCKS・ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。MRC認定歯科医院の顧問の経歴もあり。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(7万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。東京大学石井直方名誉教授の弟子でもある。

目次

はじめに

こんにちは、湯浅慶朗です。本記事では、ランニングシューズのかかとの高さが足首のダイナミクスに与える影響について、私自身の足指機能に関する研究やこれに基づく知見も交えて詳しく解説していきます。今回参照したのは、アリ・ヤワル氏とダニエル・E・リーバーマン氏の研究(2024.8)です。この内容は、私が日々探求している足指の機能不全やその影響とも深く関連しています。

背景:ランニングシューズと足のバイオメカニクス

ランニング中、足首関節は大きな力を受けます。特に、かかとの高さがランニング中の運動学にどのように影響するかは、これまで十分に研究されていませんでした。

私たちの足指は、地面との接触時に重要な役割を果たします。靴のデザイン、特にかかとの高さが変わることで、足指や足首がどのように適応するかを知ることは、私たちの足の健康とパフォーマンスを最適化する上で非常に重要です。前回書いた「ランニングシューズ選び完全ガイド」も参考にしてみてください。

研究の概要

この研究では、以下の条件でランニングを行った際の足首の動きを調査しています。

条件

1. 裸足
足本来の動きを確認するための条件。

2. ローヒール(ソール厚6mmのミニマルシューズ)
裸足感覚を持ちながら最低限の保護を加えた条件。

3. ミディアムヒール(ローヒールに6mmのヒールを追加)
かかとがわずかに高くなった状態で、前足部と後足部の影響を比較。

4. ハイヒール(ローヒールに20mmのヒールを追加)
従来のランニングシューズに近い高さで、影響を最大化する条件。

実験用靴の状態の写真。ローヒールは厚さが6 mm 、ミディアムヒールは厚さが12mm、ハイヒールは厚さが26mm。

実験方法

研究は、8人の健康な後足部着地(RFS)ランナーを対象に行われました。

被験者と条件

被験者:6名の男性、2名の女性(傷害歴なし)

ランニング条件
• トレッドミル上でフルード数1(速度:v = 1√gL)で走行。
• かかとの高さを変更したミニマルシューズを使用。

 

YOSHIRO

ミニマルシューズとかかとの高さの違いが、足指と足首の動きにどう影響するかを知る重要な実験ですね。

データ収集と分析

1. モーションキャプチャシステム

8台のカメラを使用して、200 Hzの精度で運動データを記録。

2. 力学データの測定

2000 Hzで地面反力とトルクを記録。

3. 分析対象

• 足首の前額面トルク(内外方向)
• 足首の底屈速度(矢状面)
• 足の外反角度

 

YOSHIRO

高精度なモーションキャプチャと力学データの記録により、足首や足指の動きが詳細に分析できるのは素晴らしいですね。

衝突モデルの使用

衝突モデルを用いて、かかとの高さが足首の動きにどのように影響するかを数値的に評価しました。このモデルでは以下の式が用いられます。

足首底屈速度

かかとの高さが h の場合、衝突後の足首の底屈速度(ωf )は次のように表されます。

 \omega_f = \frac{L_m m_m v_m + L_t m_t v_t}{I_m + I_t}

L_m, L_t :それぞれ足と脛の長さ
m_m, m_t :それぞれ足と脛の質量
v_m, v_t :それぞれの速度
I_m, I_t :慣性モーメント

 

YOSHIRO

衝突モデルで足首の底屈速度を数値的に評価するのは非常に興味深いですね。このような解析を通じて、かかとの高さが足の力学的特性や足指の使い方にどう影響を及ぼすのか、より深く理解できると思います。

結果と考察

1. 前額面足首トルク

かかとが高くなるほど、足首のトルクは減少する傾向が見られました。

裸足:トルク最大。
ハイヒール(26mm):裸足と比較してトルクは約25%減少。

かかとの高さが足首の動きに与える影響。( a ) 立脚の最初の 50% で平均した前額面足首トルク、( b ) 立脚の最初の 50% で平均した足首周りの垂直地面反力の内外方向モーメントアーム、( c ) 足が接地した直後の足首底屈曲のピーク速度のボックス プロット。各色と線は 1 人の被験者のデータを示しています。

 

YOSHIRO

かかとの高さによって足首トルクが変化するのは、圧力中心の位置とモーメントアームが大きく関与しているからですね。特に裸足からローヒールに変えた際にトルクが一時的に増加する点は、足指が地面を掴む力の影響が隠れているのかもしれません。

 

結果の詳細

裸足:前額面トルクが最大(基準値と設定)。

ローヒール(6mm):裸足と比較してトルクが10.6%増加(p < 0.05)。

ミディアムヒール(12mm):ローヒールと比較してトルクが13.55%減少(p < 0.05)。

ハイヒール(26mm):裸足と比較してトルクが25.4%減少(p < 0.01)。

かかとが高くなるほど、前額面トルクが減少しました。ただし、裸足からローヒールへの変更では一時的にトルクが増加する傾向が観察されました。

 

メカニズム

この変化は、かかとの高さが圧力中心(COP)の位置と地面反力(GRF)のモーメントアームに与える影響によるものと考えられます。圧力中心が足首の内側に寄ることで、トルクが軽減されると推測されます。

計算モデルに基づくトルクの関係式は以下のとおりです。

 \tau = r \times F

\tau :足首トルク(前額面)
r :地面反力のモーメントアーム(圧力中心から足首関節までの距離)
F :地面反力の大きさ

この現象は、かかとが高くなることで足の圧力中心(COP)が足首の内側に寄るためと考えられます。

2. 足首底屈速度

かかと接地直後の足首底屈速度は、かかとの高さに比例して増加しました。

裸足 vs ハイヒール(26mm):底屈速度が約75%増加。

足首底屈速度の衝突モデル予測。異なる条件(裸足:0 mm、低:6 mm、中:12 mm、高:26 mm)での測定された足首底屈速度の散布図。裸足状態で正規化されています。黒い四角は各かかとの高さの平均、ヒゲは標準偏差、灰色の点は個々の被験者のデータを示しています。灰色の実線は、裸足状態で正規化された足首底屈速度()のモデル予測値を示すプロットです。

 

YOSHIRO

かかとの高さが増すことで足首の底屈速度が大幅に上がるのは、衝突後のエネルギー分配が変化するためでしょう。この結果は、前脛骨筋など特定の筋肉にかかる負担が増えることを示唆しており、足指の動きや力がより重要になる場面です。

 

これにより、前脛骨筋などの筋肉にかかる負担が大きくなることが示唆されます。衝突モデルを用いると、以下のような関係が得られました。

 \omega_f = \frac{h \cdot v_m}{I_m}

結果の詳細

裸足:かかと接地直後の底屈速度を基準値と設定。

ローヒール(6mm):裸足と比較して底屈速度が47.9%増加(p < 0.001)。

ミディアムヒール(12mm):ローヒールと比較して速度が41.9%増加(p < 0.01)。

ハイヒール(26mm):裸足と比較して底屈速度が72.1%増加(p < 0.001)。
 

具体的数値

裸足状態での底屈速度を \omega_{barefoot} = 1.0 \, \mathrm{rad/s} とした場合、ハイヒール(26mm)では次のような値が得られました:

 \omega_{heel} = 1.721 \, \mathrm{rad/s}

 

メカニズム

かかとが高くなるほど、足首の回転運動エネルギーが増加します。衝突モデルを用いて、底屈速度が以下の式で表されます。

 \omega_f = \frac{L_m m_m v_m + L_t m_t v_t}{I_m + I_t}

L_m, L_t :それぞれ足と脛の長さ
m_m, m_t :それぞれ足と脛の質量
v_m, v_t :それぞれの速度
I_m, I_t :慣性モーメント

これにより、かかとの高さ h と底屈速度 \omega_f との関係が説明されます。

3. 足外反角度

かかとの高さが増すと、足外反角度は減少し、足首の内外方向の安定性が向上しました。

裸足 vs ハイヒール(26mm):外反角度が約20%減少。

これは、かかとの高さが足全体の動作軌跡を変化させるためと考えられます。

足の前額面姿勢。( a ) かかと接地時の位置からの足首の内外方向の変位。立脚期間の最初の 50% で平均し、全被験者の足の外反角度に対してプロットされています。各ドットは、各被験者の分析された各立脚相の最初の 50% の平均に対応しています。( b ) 足首周りの垂直地面反力の内外方向のモーメントアーム。各条件および被験者の足の外反角度に対してプロットされ、立脚期間の最初の 50% で平均されています。線形回帰線は灰色で示されています。( c ) 立脚期間の最初の 50% で平均した足の外反角度のボックス プロット。ドットは個々の被験者のデータを示しています。(各色は 3 つのパネルすべてで同じ被験者を示しています)。

 

YOSHIRO

かかとの高さによる外反角度の減少は、足首の内外方向の安定性向上を示していますが、これは足指の動きが制限されることで得られる安定性ともいえます。長期的には、足指の自由な動きを保ちながらの安定性確保が理想でしょう。

 

結果詳細

裸足:外反角度が最大(基準値と設定)。

ローヒール(6mm):裸足と比較して外反角度が59.2%増加(p < 0.05)。

ミディアムヒール(12mm):ローヒールと比較して角度が19.8%減少(p < 0.01)。

ハイヒール(26mm):裸足と比較して外反角度が33%減少(p < 0.01)。

 

裸足状態での外反角度を \theta_{barefoot} = 10^\circ とした場合、ハイヒール(26mm)では次のような角度が観察されました。

 

メカニズム

外反角度の変化は、圧力中心の移動と地面との接触面積の変化によるものです。かかとが高くなることで、足首関節の安定性が向上し、外反角度が減少します。この現象は、足部筋肉の収縮パターンと反応特性にも関連しています。

まとめ

ランニングシューズを選ぶときに、かかとの高さやデザインがどのように足や足首に影響するかは、とても重要なポイントです。私がこれまでの研究や実践を通じて感じてきたのは、足の健康やパフォーマンスにおいて「足指」が大きな役割を果たしているということです。足指がしっかりと地面を掴む力を発揮できているかどうかが、全体のバランスや動きの効率性に直結します。

例えば、かかとの高さが高すぎるシューズを履くと、足首の動きが制限され、結果として足指が地面を感じ取る能力が低下します。これは、足裏全体の感覚が鈍くなるだけでなく、足指を含む筋肉の動きが不自然になる原因にもなります。そのため、かかとの高さは必要最低限に抑えつつ、足指が自由に動ける環境を整えることが大切だと考えています。一方で、かかとが低すぎたり、ミニマルシューズのような薄底のシューズを選ぶ場合には注意が必要です。足指の機能が十分に活かされていない状態でそのような靴を履くと、足裏やふくらはぎに余計な負担がかかる可能性があります。

私はいつも「足指がどれだけ自由に動けるか」をシューズ選びの基準にしています。ランニングシューズにおいても同じで、かかとの高さや靴底のクッション性が自分の足にどう影響するのかを知ることが重要です。例えば、かかとの高さが6~20ミリ程度であれば、足指が地面を感じ取りやすく、足首への負担も軽減される傾向があります。ただし、足指が正しく機能していない状態では、その効果を十分に引き出すことが難しいため、まずは足指を鍛えることが基本です。

私自身も「ひろのば体操」「YOSHIRO SOCKS」を活用して、足指の動きを取り戻すことを推奨しています。足指がしっかりと動くようになると、ランニング中の足首の負担が軽減され、より効率的な走りが可能になります。そして、シューズの選択がその効果をさらに高めてくれるのです。

結局のところ、シューズ選びは足指をどう活かすかが鍵です。自分の足指の状態を見直し、必要に応じてリハビリやトレーニングを取り入れた上で、自分に合ったシューズを選ぶことが、ケガの予防やパフォーマンス向上につながります。あなたの足指が本来の力を発揮できる環境を整えるために、まずは足の状態をしっかりと確認してみてください。それが、足元から健康を見直す第一歩になります。

 

YOSHIRO

ランニングシューズ選びの本質は、足指の自由な動きをどう活かすかに尽きると思います。足指が本来の機能を取り戻せば、シューズがその力をサポートし、パフォーマンスと健康の向上につながります。足指と靴のバランスを見直すことが、足元からの健康改善への第一歩です。

参考文献
    目次