【医療監修】ランニングシューズ選び完全ガイド──かかとの高さが「足首の負担」と「走りやすさ」を変える理由

目次

はじめに

こんにちは。足指研究家の湯浅慶朗です。

私はこれまで、理学療法士として 10万人以上の足と歩行・走行動作 を見てきました。その中で、ランニング障害や足首の不調について相談を受けるたびに、ある共通点を感じています。

それは、

「フォームや筋力以前に、シューズの構造が足の動きを規定している」

という事実です。

特に重要なのが、

ランニングシューズの「かかとの高さ(ヒール高・ドロップ)」

本記事では、Yawar & Lieberman らによる近年の研究を軸に、

かかとの高さが足首・足部の力学にどのような影響を与えるのかを、

私自身の臨床視点と足指機能の知見を交えながら、構造的に解説します。

背景|ランニングシューズとかかとの高さが持つ意味

ランニング中、足部は毎歩ごとに 体重の2〜3倍以上の衝撃 を受けています。

その衝撃をどのように受け止め、どこで分散するかは、

  • 足首
  • 足部アーチ
  • 足指
  • 下腿筋群

連動した運動制御 によって決まります。

しかし現代のランニングシューズは、

  • クッション性
  • 安定性
  • 推進力

を高める一方で、

足本来の運動制御を“別の形”に変えている可能性があります。

特に「かかとの高さ」は、

足が地面に接触した瞬間の 力の入り方そのもの を変えてしまう要素です。

研究の概要|かかとの高さを段階的に変えた実験

Yawar & Lieberman らの研究では、

かかとの高さのみを変えたシューズ条件を用いて、

足首・足部の運動力学を詳細に解析しています。

使用された4条件

  1. 裸足
  2. ローヒール(6mm)
  3. ミディアムヒール(12mm)
  4. ハイヒール(26mm)
実験用靴の状態の写真。

いずれもミニマル構造をベースに、

かかとの高さだけを変化させた点が特徴です。

実験方法|足首の動きをどう測ったか

被験者

  • 健康な後足部着地ランナー 8名
  • 明確なランニング障害歴なし

計測手法

  • モーションキャプチャ(200Hz)
  • 床反力計(2000Hz)
  • 足首関節トルク
  • 底屈速度
  • 足部外反角度

これにより、

「見た目」では分からない足首内部の力学変化が解析されました。

結果①|前額面足首トルクの変化

観察された傾向

  • かかとが高くなるほど 足首の前額面トルクは減少
  • ハイヒール条件では 裸足と比較して約25%低下

一見すると、

「かかとが高い方が足首に優しい」

と感じるかもしれません。

しかし重要なのは、

“どこで負担が減り、どこに移動したか” です。

メカニズム|圧力中心(COP)の移動

足首トルクは、以下の関係で決まります。

\tau = r \times F

  • τ:足首トルク
  • r:モーメントアーム
  • F:地面反力

かかとが高くなると、

  • 圧力中心(COP)が足首に近づく
  • モーメントアームが短くなる

結果として、

足首で発生するトルクは減少します。

ただしこれは、

足指・足底で行われていた制御が“構造的に省略された”状態とも言えます。

解説

図|かかとの高さによって変化する足首への力学的負担

この図は、かかとの高さが変わることで

・足首にかかる内外方向のトルク

・地面反力の作用位置(モーメントアーム)

・接地直後の足首の底屈速度

がどのように変化するかを示しています。

特に、かかとが高くなるほど足首トルクは減少する一方で、底屈速度は増加するという、

安定性と衝撃制御の「トレードオフ」が視覚的に確認できます。

※ 各色の線は、個々の被験者データを示しています。

結果②|足首底屈速度の増加

観察された傾向

  • かかとの高さが増すほど 接地直後の足首底屈速度は増加
  • ハイヒール条件では 裸足比で約70%以上増加

これは衝突モデルからも説明できます。

\omega_f = \frac{L_m m_m v_m + L_t m_t v_t}{I_m + I_t}

かかとが高いほど、回転エネルギーが足首に集中しやすくなるのです。

解説
図|かかとの高さが「足首の底屈速度」をどれだけ加速させるか

この図は、かかとの高さが異なる条件で走ったときに、

接地直後の足首の底屈速度(足首が前に倒れ込む速さ)が

どの程度変化するかを示しています。

裸足(0mm)を基準とすると、

  • かかとが 6mm → 12mm → 26mm と高くなるにつれて
  • 足首の底屈速度は 段階的に大きく増加 していきます。

黒い四角は平均値、灰色の点は各被験者のデータを示しており、

個人差があっても「かかとが高いほど底屈速度が速くなる」という傾向は一貫していることが分かります。

また、灰色の実線は衝突モデルによる理論予測ですが、

実測値とよく一致しており、

この変化が偶然ではなく、力学的に説明可能な現象であることを示しています。

臨床的な意味|どこに負担が移るのか

底屈速度が増すということは、

  • 前脛骨筋
  • 足関節周囲筋

に対する 急激な制動要求 が増えることを意味します。

短期的には「安定している」ように感じても、

  • 繰り返し負荷
  • 筋疲労
  • 代償動作

が起きやすくなる構造を内包しています。

結果③|足部外反角度の変化

観察された傾向

  • かかとが高くなるほど 足部外反角度は減少
  • 一見すると 内外方向の安定性が増したように見える

しかしこれは、

足指・足底による微調整が減った結果、構造的に「動かなくなった」安定

である可能性が高いと考えられます。

解説
図|かかとの高さが「足の横ブレ(外反)」をどう変えるか

この図は、ランニング中の 足の横方向の動き(前額面の安定性) が、

かかとの高さによってどのように変化するかを示しています。

(a) 足首の内外方向の変位

接地直後から立脚期前半(最初の50%)にかけて、

足首がどれだけ内側・外側に動いたかを示しています。

(b) 地面反力のモーメントアーム

足首にかかる横方向の力が、

どの位置で作用しているか(=横ブレを生む力の距離)を示しています。

(c) 足の外反角度

立脚期前半における足の外反角度を条件別に比較しています。

これらを総合すると、

  • かかとの高さが高い条件ほど、足の外反角度は小さくなる
  • つまり、足は横方向に動きにくくなっている

ことが分かります。

総合考察|かかとの高さがもたらす“トレードオフ”

本研究が示しているのは、

  • かかとを高くすると → 足首トルクは減る
  • しかし同時に → 底屈速度は増え → 足指・足底の役割は低下する

という 明確なトレードオフ構造 です。

この「足指・足底で制御していた役割が、シューズ構造によって別の形に置き換えられる」という視点は、Hand-Standing理論でも中核として扱っている考え方です。

私の臨床視点|「良い・悪い」ではなく「前提条件」

私は、

ハイヒール=悪、ミニマル=善

とは考えていません。

重要なのは、

そのシューズ構造を使いこなせる足指・足部の機能があるかどうか

です。

足指の接地・感覚入力が低下した状態で

薄底・低ヒールを選べば、

別の部位に負担が移ることもあります。

まとめ|ランニングシューズ選びの本質

ランニングシューズ選びで本当に大切なのは、

・クッションの厚さ
・ブランド
・流行

ではありません。

「自分の足が、どこまで動ける状態なのか」

これを理解した上で、

・かかとの高さ
・ソール構造
・足指の自由度

を選ぶことが、
長期的なランニング継続とケガ予防につながります。

ランニング以前に整えるべき「足元の前提」

足指がうまく使えない状態では、
どんなシューズを選んでも限界があります。

日常環境の中で、

・足指が広がる
・足底感覚が入る
・接地の情報が脳に届く

こうした「足が働きやすい環境」を整えることが、
ランニング以前の土台になります。

ここまでお伝えしてきた内容は、
あくまで「足首・足部で何が起きているのか」を
力学的に整理したものです。

構造から考えるシューズ選びの具体基準

では、こうした前提を踏まえた上で、
私たちは日常の中で何を基準に
シューズを選べばよいのでしょうか。

多くの場合、

・クッション性
・安定性
・ブランドや流行

が先に語られますが、
本質的に重要なのは
「足がどう動く前提で設計されているか」です。

・かかとの高さ(ドロップ)
・接地位置
・ソールの硬さとねじれ
・足指の自由度

これらはすべて、
今回解説してきた
足首トルク・底屈速度・前額面の安定性と
直接的に結びついています。

つまり、
シューズ選びは感覚の問題ではなく、
構造の問題なのです。

この視点をもう一段、

日常レベルに落とし込んだ内容として、

以下の記事では、

・なぜ「良さそうな靴」が合わないことがあるのか

・足の構造から見た「やってはいけない靴選び」

・足指・アーチ・接地が噛み合う条件

を、臨床と構造の両面から整理しています。

▶︎ 足を変形させない靴選びの5つのポイント

足指の研究から生まれた「環境づくり」という視点

足指研究所では、20年以上の臨床経験と、東京大学・石井直方名誉教授と実施した観察研究を通して、

「足指が使いやすい環境が整うと、姿勢・重心の安定性に関わる“変化傾向”が見られることがある」

という視点を大切にしています。

足指は本来、「広がる・伸びる・接地する」という生理的な動きを持ちますが、

靴・靴下・床の滑りやすさなどによって、その働きが阻害されることがあります。

私たちは、

「どうすれば日常で足指が動きやすい環境を作れるか」

という点を中心に開発と研究を続けています。

【研究データ|足指・姿勢・筋活動の観察記録】

2020〜2022年、東京大学・石井直方名誉教授の指導下で実施。

延べ96名を対象に、以下の構造的特徴の推移を多角的に観察しました。

  • 足指の動き・配置
  • アーチ構造
  • 姿勢指標
  • 体幹支持筋・口腔周囲筋・下肢筋の活動傾向

“足指が使いやすい環境づくり”を行った際、

足指・姿勢・呼吸に関連する筋活動などに構造的な変化傾向が見られました。

研究データの詳細はこちら

【足指が使いやすい体へ|4つのアプローチ】

日常で“足指が働きやすい環境”をつくるための基本ポイントです。

1. ひろのば体操(足指をゆるやかに伸ばす)

2. 靴の見直し(足指が押しつぶされない設計)

3. 小股歩き(足指が自然に使いやすい歩き方)

4. 室内環境の調整(滑りやすい床・スリッパを避ける)

詳しいケア方法はこちら

【YOSHIRO SOCKS|構造とものづくり】

——足指が使いやすい“環境づくり”をめざした生活用品

足指の働きを妨げる「環境」そのものに着目し、

奈良の専門工場とともに、糸・密度・摩擦・張力などを精密に検証してきました。

● 構造のポイント

姿勢の安定性に配慮した
摩擦構造

自然な足指の開きを支える
立体フォルム

重心バランスを考慮した
密度・張力設計

“広げる・伸ばす”動きを引き出す
テンション配置

開帳・扁平傾向に配慮した
縦横方向テンション

母趾〜小趾が整列しやすい
張力バランス

※ いずれも医療的効果を示すものではなく、あくまで「足指が働きやすい状態をサポートする生活用品としての構造」の説明です。

● 製造のポイント

日本製

高密度

極薄

高耐久

高グリップ

吸湿・速乾

  • 日本製:専門工場が ±1mm 単位でテンション管理
  • 高密度:700nmクラスの極細繊維
  • 極薄:約2mmの軽さと安定性
  • 高耐久:生活用品としての強度
  • 扇形フォルム:足指が自然に広がりやすい形状

YOSHIRO SOCKS の構造と設計はこちら

免責事項

本記事は一般的な情報提供であり、治療や効果を保証するものではありません。個人差があります。医療が必要な際は専門医へご相談ください。商品は医療効果を目的としたものではありません。

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