足指ドクターによる解説
YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗
足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、YOSHIRO SOCKS・ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。MRC認定歯科医院の顧問の経歴もあり。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(7万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。東京大学石井直方名誉教授の弟子でもある。
背景
これまで、靴を履くことが扁平足の発生に寄与するかどうかは議論が分かれていました。従来の見解では、靴を履くことが扁平足を引き起こすことはないとされていました(Kelsey, 1982)。しかし、RaoとJoseph(1992)の調査では、学校児童において靴を履いている子どもたちの間で扁平足の発生率が有意に高いことが示されました。これにより、靴を履くことが足の内側縦アーチの発達を妨げる可能性が指摘されています。
内側縦アーチの発達は、6歳未満が非常に重要な時期だと言われています(Rose et al., 1985)。もし靴を履くことがこのアーチの発達を妨げる要因であるならば、靴を履き始める年齢が扁平足の発生率に大きく影響するはずです。この仮説をもとに、幼少期の靴の使用が扁平足の発生にどのように関係しているかを評価したのが今回の研究です。
足指を自由に動かせる環境が、健全なアーチの形成に不可欠です。この研究は、幼少期の靴の使用がその発達を妨げる可能性を示唆しています。
扁平足の発生率と靴を履き始める年齢
靴を履き始めた年齢 | 正常足 (数値と割合) | 高アーチ (数値と割合) | 扁平足 (数値と割合) |
1~5歳 (n=926) | 825 (89.10%) | 71 (7.67%) | 30 (3.24%) |
6~15歳 (n=520) | 440 (84.62%) | 63 (12.12%) | 17 (3.27%) |
16歳以上 (n=400) | 334 (83.50%) | 59 (14.75%) | 7 (1.75%) |
まず、表1をご覧ください。この表では、靴を履き始めた年齢と扁平足の発生率の関係が示されています。具体的な結果は以下の通りです。
• 1〜5歳で靴を履き始めた場合:扁平足の発生率は3.24%
• 6〜15歳で靴を履き始めた場合:発生率は3.27%
• 16歳以降に靴を履き始めた場合:発生率は1.75%
この結果は、特に6歳未満の早い段階で靴を履き始めた場合、内側縦アーチの発達が抑制される可能性(p < 0.001、表1参照)を示唆しています。6歳という年齢は、足指や足全体の筋肉・骨格が成長し、アーチが形成される非常に重要な時期です。
6歳未満という足のアーチ形成の重要な時期に、靴を履くことで足指の自由が奪われる可能性があります。この結果は、幼少期に足指をしっかり使う環境を整える重要性を強く示唆しています。
年齢による足の変化
年齢区分 (年齢) | 正常足 | 高アーチ | 扁平足 |
16~25歳 (n=945) | 834 (88.25%) | 82 (8.68%) | 29 (3.07%) |
26~35歳 (n=315) | 274 (86.98%) | 33 (10.48%) | 8 (2.54%) |
36~45歳 (n=408) | 346 (84.80%) | 51 (12.50%) | 11 (2.70%) |
46~55歳 (n=157) | 127 (80.89%) | 25 (15.92%) | 5 (3.18%) |
56歳以上 (n=21) | 18 (85.71%) | 2 (9.52%) | 1 (4.76%) |
さらに、成人の年齢と足の形状の関係については表2をご覧ください。この表では、対象者の年齢に応じた足形の割合が示されています。16歳から25歳の若年層では、正常な足の割合が88.25%と最も高く、加齢とともにやや低下します。ただし、年齢による大きな変化は見られず、幼少期の靴の使用が足の形状に与える影響が強調されています。
この結果から、足の形状は大人になってから大きく変わることは少ないと考えられます。つまり、幼少期に足指をどれだけ使い、自然な発達を促せるかが、長期的な足の健康に大きく影響するということです。
日常の歩行や立位時間との関連
歩行/立位の時間 (時間) | 正常足 | 高アーチ | 扁平足 |
< 2 (n=801) | 677 (84.52%) | 101 (12.61%) | 23 (2.87%) |
2~4 (n=472) | 421 (89.19%) | 37 (7.84%) | 14 (2.97%) |
4~6 (n=250) | 221 (88.40%) | 24 (9.60%) | 5 (2.00%) |
> 6 (n=323) | 280 (86.69%) | 31 (9.60%) | 12 (3.72%) |
次に、表3をご覧ください。この表は、現在の日常的な歩行・立位時間と扁平足の発生率との関連を示しています。興味深いことに、日常的な立位・歩行時間が長いほど扁平足の発生率が高くなるわけではありません。これから分かるのは、扁平足の原因が単に歩行や立位の時間ではなく、足指を含む足の使い方や環境にあるということです。
このデータから、足の健康は単に歩行や立位の時間だけでは決まらないことが明らかです。重要なのは、日常生活の中で足指をしっかり使える環境を整えることです。特に足指の動きが制限されない靴選びや、裸足で過ごす時間を増やすことが、足本来の機能を維持する鍵だと感じます。
幼少期の靴の使用時間と足指への影響
(時間/日) | 幼少期の靴使用時間正常足 | 高アーチ | 扁平足 |
< 8 (n=734) | 665 (90.60%) | 50 (6.81%) | 19 (2.59%) |
> 8 (n=192) | 161 (83.85%) | 20 (10.42%) | 11 (5.73%) |
表4では、6歳未満の靴の使用時間が扁平足に与える影響が示されています。1日8時間以上靴を履いていた場合、扁平足の発生率が有意に高いことが分かりました。この結果は、足指が自由に動かせる時間の確保が、アーチの形成や足全体の健康にとって重要であることを強調しています。
幼少期に足指を自由に動かす時間を増やすことが、扁平足予防の鍵となります。このデータはその重要性を示しています。
靴の種類と足指の自由度
靴の種類 | 正常足 (数値と割合) | 高アーチ (数値と割合) | 扁平足 (数値と割合) |
室内シューズ・サンダル (n=565) | 501 (88.67%) | 49 (8.67%) | 15 (2.65%) |
つま先を覆う靴 (n=361) | 325 (90.03%) | 21 (5.82%) | 15 (4.15%) |
最後に、表5では、6歳未満で使用された靴の種類が扁平足に与える影響について示されています。特に、サンダルや室内シューズなど足指が自由に動かせる靴を履いていた場合、閉じた靴を履いていた場合よりも扁平足の発生率が低い傾向が見られました。この結果は、靴選びの重要性を示すものであり、足指を解放することの必要性を再確認させてくれます。
足指が自由に動く環境がいかに重要かを再認識させられます。靴選びの際には、足指の動きや解放感を意識することが、足の健康を守る鍵です。
靭帯の緩さと肥満が偏平足の有病率に与える影響
足形タイプ | ゆるい靭帯 (%) | 正常靭帯 (%) |
正常 | 83.19 | 86.84 |
高アーチ | 7.08 | 10.68 |
偏平足 | 973 | 2.48 |
本研究では、靭帯が緩い被験者および肥満の被験者が偏平足の有病率が高いことが明らかになりました(表 VIおよびVII参照)。この結果は、靭帯の状態や体重が足の構造に直接的な影響を及ぼす可能性を示唆しています。
再現性を確認するために実施した研究では、24足を対象に評価を行いました。その結果、両回の評価で同一の足形タイプ(正常、偏平足、高アーチ)が確認されました。アーチ幅の測定値の平均差は0.21mmであり、標準偏差は2.75mmでした。再現性係数は5.5mmと算出され、測定の信頼性が高いことが証明されました。
年齢による偏平足の有病率への影響
スクリーニングを実施したすべての年齢層において、偏平足の有病率に有意な差は見られませんでした。これは、骨格が成熟した後では、年齢が進むにつれて偏平足の有病率が大きく変化しないことを意味します。この結果は、子どもにおいて年齢が上がるにつれて偏平足の有病率が減少するという過去の研究(Morley, 1957; Rao and Joseph, 1992)とは対照的です。こうした理由から、本研究では年齢を変数として考慮しませんでした。
靴を履き始めた年齢 | 正常 (%) | ゆるい靭帯高アーチ (%) | ゆるい靭帯偏平足 (%) | ゆるい靭帯正常 (%) | 正常靭帯高アーチ (%) | 正常靭帯偏平足 (%) | 正常靭帯
<= 5歳 | 85.07 | 2.99 | 11.94 | 89.41 | 8.03 | 2.56 |
6~15歳 | 81.48 | 11.11 | 7.41 | 84.79 | 12.17 | 3.04 |
>= 16歳 | 78.95 | 15.79 | 5.26 | 83.73 | 14.7 | 1.57 |
また、被験者が仕事中に立ち続ける時間の長さが偏平足の有病率に影響を与えることはありませんでした。この結果は、長時間の体重負荷が偏平足の原因にはなりにくいことを示唆しています。この観察結果は、靭帯の緩さや肥満を調整したデータ分析でも確認されました(表 VIIIおよびIX参照)。
靴を履き始めた年齢 | 正常 (%) | 非肥満高アーチ (%) | 非肥満偏平足 (%) | 非肥満正常 (%) | 肥満高アーチ (%) | 肥満偏平足 (%) | 肥満
<= 5歳 | 89.04 | 8.46 | 2.49 | 89.43 | 2.44 | 8.13 |
6~15歳 | 83.54 | 12.97 | 3.49 | 88.23 | 9.24 | 2.52 |
>= 16歳 | 83.39 | 15.61 | 0.99 | 83.83 | 12.12 | 4.04 |
靴を履き始めた年齢と偏平足の関連
靴を履き始めた年齢が偏平足や高アーチ足の有病率に与える影響についても検討しました。早期に靴を履き始めた被験者では、偏平足の有病率が最も高く、一方で高アーチ足の有病率が最も低い傾向が観察されました(表 VIII参照)。これは、靴を履くタイミングが足のアーチ構造に影響を与える可能性を示しています。特に、RaoとJoseph(1992)の研究では、6歳未満の子どもにおいて靴を履く習慣が偏平足の発生率を高める可能性が指摘されています。この時期は内側縦アーチの発達における重要な時期であり、この期間における靴の使用が有害な影響を及ぼす可能性があります。
これらの結果は、Roseら(1985)の仮説を支持するものであり、内側縦アーチの発達における重要な時期が6歳未満であることを示唆しています。さらに、本研究でも偏平足の有病率が低い場合には高アーチ足の有病率が高い傾向が確認されました。この結果は、アーチ発達を促進する要因と抑制する要因が反対方向に作用する可能性を示しています。
靴の使用習慣と調査の信頼性
本研究のサンプル選択においては、靴を履き始めた時期が異なる被験者を十分な数含める必要がありました。そのため、特に記憶が曖昧になりやすい高齢者に関して、靴の使用開始時期に関する正確な情報を得ることが課題となりました。しかし、被験者の回答は非常に自信を持ったものであり、特にインドの農村地域においては、靴を履き始めるタイミングが学校入学や卒業といった明確なライフイベントに関連していることから、記憶の信頼性は高いと判断されます。
また、偏平足に関する認知度が低い地域で調査を行ったため、靴の使用開始に関する回答が被験者自身の足の状態に基づいて偏るリスクは低いと考えられます。こうした点から、靭帯が緩い被験者の間で靴を早期に履き始める傾向が見られた(表 VIII)としても、それが偏平足を予防するための行動である可能性は低いと考えています。
本研究の結果は、靴の使用習慣が偏平足や高アーチ足の発生率に影響を与える可能性を示唆しており、内側縦アーチの発達における重要な要因を理解するための貴重な知見を提供するものです。
足指の役割とこの研究の関係
私の視点から特に重要だと感じたのは、足指の自由度が足の発達に大きく関与している点です。この研究結果を足指の視点から読み解くと、以下のようなポイントが浮かび上がります。
• 足指の動きの制限がアーチ発達を妨げる
幼少期に靴を長時間履くことで、足指の自由な動きが制限されます。足指が地面を掴む感覚を育てることは、内側縦アーチの形成に不可欠ですが、靴によってその機会が失われると、扁平足のリスクが高まります。
• 靴のデザインが足指の機能を左右する
つま先が覆われた靴は足指の動きを制限しやすい一方で、サンダルのように開放的なデザインの靴では足指が比較的自由に動くことが可能です。この違いが扁平足の発生率に影響している可能性があります。
• 足指と足底筋の筋力低下
靴の中で足指が動かない状態が続くと、足底の筋力が低下し、結果としてアーチを支える力が弱くなります。このことが扁平足の発生に繋がると考えられます。
結論と私たちへの教訓
この研究を通じて、幼少期に靴を履き始めるタイミングや足指の自由度が、足の発達、特に扁平足の発生率に深く関わっていることを改めて実感しました。特に6歳未満という内側縦アーチが形成される重要な時期に、足指をしっかり動かせる環境を整えることがいかに大切かを痛感しています。私自身、この問題に向き合い、より良い足の使い方を提案するために活動を続けています。
足指の健康を守るために、私が皆さんにぜひ取り入れてほしいのは以下の3つの取り組みです。
1. 裸足で過ごす時間を増やす
裸足で過ごす時間を意識的に増やすことで、足指が自由に動き、自然な感覚や筋力が育ちます。家の中や安全な場所では、ぜひ裸足で歩くことを試してください。この習慣が足の自然な発達を促し、健康なアーチを形成する土台になります。
2. 足指に優しい靴を選ぶ
足指を解放し、自然に動かせる靴を選ぶことが大切です。足先が広く、柔軟性がある靴、そして適度なフィット感を持つ靴を選ぶことがポイントです。私が開発に携わった YOSHIRO SOCKS は、足指が本来の力を発揮できるようデザインされています。この靴下を日常に取り入れることで、足指が自由に動きやすくなり、全身の姿勢にも良い影響を与えます。
3. 足指を鍛えるエクササイズを取り入れる
足指を使った運動を日常生活に取り入れることも効果的です。例えば、足指をグーチョキパーにするエクササイズや、ひろのば体操のようなシンプルで効果的な運動を取り入れることで、足底筋を鍛え、アーチの発達をサポートできます。ひろのば体操は、私が提案する足と体全体のバランスを整えるためのエクササイズです。この運動を習慣にすることで、扁平足の予防や改善につながるだけでなく、全身の姿勢にも良い影響を与えます。
私からのメッセージ
この研究結果を通して、足指が持つ大きな可能性とその重要性を強く感じました。足指を自由に動かし、健康な足のアーチを育てることは、ただ足の健康を守るだけではなく、全身のバランスや運動能力、さらには日常生活の快適さにもつながります。ぜひ今日から少しずつ、足指の健康を意識した取り組みを始めてみてください。
私もこれからも、YOSHIRO SOCKS やひろのば体操を通じて、多くの方の足と体の健康をサポートしていきます。一緒に健康な足指と体を育てていきましょう!
ちなみに我が家の子どもは、2人とも小学校に入るまでは靴や靴下を履かずに外で過ごしています。変な目で見られることもありますが、おかげで姿勢も歯並びも親に似ずキレイです。
1)Bland JM, Altman DG. Statistical methods for assessing agreement between two methods of clinical measurement. Lancet l986;i:307-10.
2)Bray GA, Jordan HA, Sims EA. Evaluation of the obese patient. I .Analgorithm. JAMA 1976:235:1487-91.
3)Harris RI, Beath T. Army foot survey: an investigation of foot ailmentsin Canadian soldiers. Ottawa: National Research Council of Canada,1947.
4)Kelsey JL. EpidemiologNew York: OxfordUniversity Press, 1982:178-82.
5)Morley AiM. Knock-knee in children. Br Med J 1957:2:976-9.
6)Rao UB, Joseph B. The influence of footwear on the prevalence of flat foot: a survey of 2300 children. J Bone Joint Surg (Br]l992:74-B:525-7.
7)Rose GK, Welton EA, Marshall T. The diagnosis of flat foot in the child. J Bone Joint Surg [Br] l985:67-B:7l-8.