【医療監修】子どもの運動能力は「裸足か、靴か」ではなく“足指がどう使われて育ったか”で変わる

※ 監修・解説:足指研究家・湯浅慶朗
はじめに
子どもの運動能力は、生まれ持った才能だけで決まるものではありません。
どのような環境で身体を使い、どのような刺激を受けて成長してきたかによって、その発達の方向性は大きく左右されます。
なかでも見落とされがちなのが、「足元の環境」です。
裸足で過ごす時間が多いのか、それとも幼少期から常に靴を履いて生活しているのか。この違いが、バランス能力、ジャンプ力、走る力といった基礎的な運動能力にどのような影響を与えるのかは、これまで十分に整理されてきたとは言えません。
本記事では、南アフリカとドイツという異なる生活文化を背景とした国際研究をもとに、裸足で育つことと靴を履いて育つことが、子どもから青年期にかけての運動能力にどのような違いをもたらすのかを、論文の内容に忠実に解説していきます。
研究の背景|なぜ「履物習慣」が注目されたのか
運動能力の発達は、小児期から青年期にかけての重要な成長課題です。
バランス能力、跳躍力、走行能力といった基礎的な身体能力は、将来的なスポーツパフォーマンスだけでなく、日常生活での転倒リスクや姿勢の安定性にも深く関わります。
足は身体の最下部に位置し、地面と直接接する唯一の部位です。特に足指は、接地感覚の入力、重心の微調整、推進力の生成に関与しています。裸足で過ごす環境では、足指が広がり、地面の感覚を直接受け取りながら動く機会が増える一方、靴を履く環境では足指の動きや感覚入力が制限される可能性があります。
この研究では、裸足文化が残る南アフリカと、日常的に靴を履く文化のドイツという対照的な環境を利用し、履物習慣と運動能力の関係を多角的に検証しました。
研究方法|どのように検証されたのか
対象者
- 年齢:6〜18歳
- 総参加者数:810名
- 裸足習慣あり:385名
- 靴習慣あり:425名
実施された運動テスト
1.バランステスト(動的姿勢制御)
後方バランス課題を用い、幅の異なる平均台(6cm・4.5cm・3cm)を後ろ向きに歩行。
歩数をスコア化し、動的な姿勢制御能力を評価しました。
2.立ち幅跳びテスト(推進力・下肢筋力)
踏み切り線からの跳躍距離を測定。
裸足条件・靴条件それぞれで複数回実施し、最大値を分析に使用しました。
3.20m短距離走テスト(瞬発力)
磁気センサーまたはスピードゲートを用いて正確にタイムを計測。
裸足条件・靴条件の両方で評価しました。
分析方法
- 年齢層:6〜10歳、11〜14歳、15〜18歳
- 調整因子:性別、民族、BMI、身体活動レベル(PAQスコア)、テスト順序
- 交絡因子を調整した統計解析を実施
結果|年齢と履物習慣による違い
6〜10歳
- 裸足習慣のある子どもは バランス能力・立ち幅跳びで高いスコア
- 靴習慣のある子どもは 短距離走で速いタイム
幼少期では、裸足環境がバランス能力や跳躍力に寄与する一方、靴のサポートがスプリント能力に影響する傾向が確認されました。
11〜14歳
- 短距離走では靴習慣のあるグループが優位
- 裸足による利点はやや減少
思春期に入ると、身体発達の影響が大きくなり、履物習慣による差は一部で縮小します。
15〜18歳
- 裸足習慣のある青年は 立ち幅跳びで再び優位
- 短距離走では靴習慣のあるグループが速い
青年期では、裸足環境で培われた足指・足部の推進力がジャンプ能力に反映される一方、スプリントでは靴の構造的サポートが影響すると考えられます。
議論|履物が運動能力に影響する理由
本研究の結果から、履物習慣は年齢や運動課題によって異なる影響を示すことが明らかになりました。
私自身、足指や足部の研究を続けるなかで感じてきたのは、運動能力の土台は「筋力」よりも「接地と制御」にあるという点です。裸足での活動は、足指が広がり、地面からの感覚入力を多く受ける機会を増やします。その結果、バランス能力や推進力に関わる神経‐筋の協調が育まれやすくなります。
一方で、靴はクッション性や反発性によって、短距離走のような瞬発的な動作を補助する役割を果たします。これは、裸足と靴が「優劣」ではなく、「異なる役割」を持っていることを示しています。
研究の制約と今後の課題
本研究は、異なる国・文化圏を比較しているため、気候、生活習慣、運動環境の違いが完全に統制されているわけではありません。今後は、同一環境下での長期縦断研究が求められます。
結論|裸足か靴か、ではなく「環境の使い分け」
本研究は、幼少期における裸足環境が、バランス能力や跳躍力の発達に関与する可能性を示しました。一方で、短距離走のような課題では靴の構造的サポートが有利に働く場面も確認されています。
重要なのは、裸足か靴かを二者択一で考えることではありません。
成長段階や活動内容に応じて、足指が自然に働く環境をどれだけ確保できるかが、子どもの運動能力の土台を形づくる鍵になると考えられます。
足元の環境は、運動能力だけでなく、将来的な姿勢や身体の使い方にもつながっていきます。
この研究が、子どもの足と身体の発育を見直す一つの視点となれば幸いです。
補足考察|足指の発達と運動能力低下は、同じ構造の延長線上にある
本研究は「裸足で育つか、靴を履いて育つか」という生活習慣の違いに注目していますが、
私はこの結果を 足指機能の発達という構造的な問題 として読み解いています。
臨床および研究を通じて一貫して確認されているのは、
といった足指変形は、成長後に突然生じるものではないという点です。
多くの場合、幼少期から
- 足指が広がれない
- 足指で十分に接地できない
- 足底からの感覚入力が乏しい
といった 「使われ方の偏り」 が積み重なり、
それが成長とともに形として固定化していきます。
ハンドスタンデング理論から読み替える今回の研究結果
私が提唱しているハンドスタンデング理論では、
「姿勢や運動制御は、末端(足指・手指)から中枢へ向かって構築される」
と考えます。
今回の研究で示された、
- 裸足習慣のある子どもほど バランス能力やジャンプ力に特徴が現れた
という結果は、
足指 → 足底 → 姿勢制御 → 運動能力
という運動制御の流れを、
疫学的データによって裏づけた一例として読み替えることができます。
「裸足が良い」ではなく、「足指が働ける環境かどうか」
この研究から導かれる本質は、
- 裸足か
- 靴か
という二元論ではありません。
重要なのは、
足指が機能的に使える環境かどうかです。
靴を履いていても、
- 足指が潰れない
- 靴や靴下の中で足が滑らない
- 接地感覚が適切に入る
環境であれば、足指機能は育ちます。
一方で、
- 靴下や靴の中で足が前後に滑る
- 指が曲がった状態で固定される
環境では、裸足であっても機能は育ちにくい。
これは、外反母趾・浮き指・寝指などの臨床データからも一貫して確認されている傾向です。
湯浅慶朗としての結論
本研究は、
「足指がどのように使われて育ったかが、運動能力の土台を左右する可能性」
を示した、非常に重要なデータだと考えています。
この知見は、
- 足指変形の予防
- 姿勢・運動能力の再教育
- 子どもの身体づくり
を考えるうえで、臨床と研究をつなぐ強い根拠になります。


