足指の解剖学入門③ 短母趾伸筋・短趾伸筋とは?──「浮き指」と歩行不安定を引き起こす足指伸筋の役割

はじめに|足指を「上げている筋肉」は一つではない
こんにちは、足指研究家の湯浅慶朗です。
足指の解剖学入門②では、
長母趾伸筋・長趾伸筋という「大きな伸筋」について解説しました。
足首をまたぎ、
足指を力強く引き上げるこれらの筋肉は、
歩行や走行に欠かせない存在です。
しかし、足指を上げる筋肉はそれだけではありません。
もう一つ、
足の甲に存在し、細かい調整を担う伸筋があります。
それが
短母趾伸筋・短趾伸筋です。
この2つの筋肉は、
強く引き上げるためではなく、
足指の位置とタイミングを微調整するための筋肉です。
そしてこの筋肉が硬くなることで、
「浮き指」や「すり足」が起こりやすくなる構造があります。
短母趾伸筋とは?|親指を“上で固定する”調整役

短母趾伸筋(たんぼししんきん)は、
足の親指を上に持ち上げるための内在筋です。
解剖学的位置
起始:踵骨背側(踵骨洞周辺)
停止:母趾基節骨背側
主な作用
・母趾中足趾節関節の伸展
・親指の位置制御
・歩行中のバランス調整
この筋肉は、
長母趾伸筋ほど大きな力は出しません。
その代わり、
「今、親指をどの位置で保つか」
という制御を行います。
短母趾伸筋が硬くなると何が起こるのか
短母趾伸筋が短縮・過緊張すると、
親指は常に引き上げられた状態になります。

これがいわゆる
親指の浮き指です。
この状態では、
・親指で地面を押せない
・蹴り出しが弱くなる
・内側重心になりやすい
といった変化が起こりやすくなります。
臨床では、
といった連鎖を示す方も少なくありません。
短趾伸筋とは?|第2〜4趾を上で固める筋肉

短趾伸筋(たんししんきん)は、
親指以外の足指(第2〜4趾)を持ち上げる筋肉です。
解剖学的位置
起始:踵骨背側(踵骨洞周辺)
停止:第2〜4趾の伸筋腱
主な作用
・第2〜4趾の伸展
・歩行中の指位置調整
・前足部の安定補助
この筋肉もまた、
「力」ではなく「位置」を司る筋肉です。
短趾伸筋が短縮すると起こること
短趾伸筋が硬くなると、
第2〜4趾が常に浮いた状態になります。
この状態では、
・足指で地面を蹴れない
・前に進む推進力が弱くなる
・すり足歩行になりやすい
結果として、
・ふくらはぎの過緊張
といった変化が現れやすくなります。
Hand-Standing理論との接続|足指が浮くと「支点」が消える
ここで、私が足の構造を考えるうえで軸にしている
Hand-Standing理論につながります。
私は足を、
「地面に置かれた、逆さまの手」
として捉えています。
手で体を支えるとき、
私たちは無意識に次のような使い方をしています。
・親指と小指で支点をつくり
・指全体を地面に触れさせ
・接触面を広げながら力を分散する
足も、構造的にはまったく同じです。
ところが、
短母趾伸筋や短趾伸筋が硬くなり、
足指が常に引き上げられた状態になると、
・指が地面に触れない
・接地が「点」になる
・支点が不安定になる
という状態が生まれます。
これは手で言えば、
指を浮かせたまま、手のひらだけで体を支えようとする状態
に近いと言えます。
当然、安定しません。
その不安定さを補うために、
・足首を固める
・膝をロックする
・体幹や首に力を入れる
といった代償が起こりやすくなります。
つまり浮き指とは、
足指の問題であると同時に、
支持構造の問題なのです。
「浮き指」は結果であって、原因は環境にある
短母趾伸筋・短趾伸筋が硬くなる背景には、
次のような環境要因があります。
・靴の中で足が滑る
・靴下の摩擦が不足している
・足指を使わずに歩く癖
・床環境が滑りやすい
これらの条件が重なると、
体は無意識に「足指を浮かせて安定しよう」とします。

その結果、
伸筋群が常に働き続け、
筋肉が短縮したまま固定されるのです。
セルフチェック|伸筋が硬くなっていないか
チョキ(短母趾伸筋のチェック)
.037.png)
親指と人差し指を分ける
「チョキ」の動きがスムーズにできますか。
動きにくい場合、
短母趾伸筋の過緊張が示唆されます。
グー(短趾伸筋のチェック)
.036.png)
足指をしっかり曲げ、
第3関節まで自然に曲がりますか。
途中で引っかかる場合、
短趾伸筋の柔軟性低下が考えられます。
伸筋は「鍛える」のではなく「ゆるめる」
短母趾伸筋・短趾伸筋は、
弱いから問題なのではありません。
硬すぎることが問題です。
そのため、
いきなり筋トレを行うのではなく、
・足指を伸ばす
・緊張を解く
・本来の長さに戻す
この順番が重要になります。
ひろのば体操という考え方
ひろのば体操は、
足指をゆっくりと伸ばし、
伸筋群の過緊張を解くために考案しました。
▶ ひろのば体操の正しいやり方
「どこが伸びているか」を意識しながら、
1日5分を目安に行うことで、
足指の接地感が変わる方もいます。
足指は「筋肉」より「環境」で変わる
足指は、
意思よりも環境に支配されやすい部位です。
だからこそ私は、
・靴
・靴下
・床環境
といった
足指が置かれている条件を重視してきました。
伸筋が過剰に働かなくても済む環境が整うと、
足指の使い方そのものが変わってくるケースも見られます。
次に読むべき筋肉
次回は、
足指を下から支える屈筋群に進みます。
・短趾屈筋
伸筋と屈筋のバランスが崩れたとき、
足指に何が起こるのか。
そこを理解すると、
「なぜ足指から全身が変わるのか」が
より立体的に見えてくるはずです。
まとめ|足指が浮くのは「筋力不足」ではない
短母趾伸筋・短趾伸筋は、
足指を上げるための筋肉ではありません。
足指を“上で固定してしまう”筋肉です。
浮き指は、
筋力低下ではなく、
環境と使い方の結果として現れます。
まずは、
足指がどう使われているかを知ること。
そこからが、
足指と向き合う第一歩です。


