はじめに
変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis:膝OA)は、年齢とともに増える代表的な膝のトラブルです。米国整形外科学会(AAOS)は、膝OAが高齢者の生活の質を左右する主要要因であると指摘しており、その社会的影響は広く議論されています。
一般的には「加齢」「体重」「遺伝」「膝のケガ」「スポーツ歴」などが要因として語られます。しかし、10万人以上の足と膝を見てきた臨床経験から言えるのは——
“膝OAの背景には、見落とされやすい足元の構造がある”
ということです。
本記事では、医学的知見と足指・姿勢のバイオメカニクスを組み合わせながら、
「靴」「歩行」「足指の使われ方」
が膝にどのように影響するのかを、科学的かつ構造的に解説します。
1. 従来の医学で語られる “代表的要因”
変形性膝関節症の発症・進行と関連が指摘される要因としては、次のようなものがあります。
・年齢
・体重
・遺伝
・膝の外傷歴
・重労働/スポーツ歴
・栄養状態
・筋力の低下
・全身の炎症傾向
これらは確かに重要ですが、「足元の構造」「靴の設計」 まで踏み込んだ議論は医学の中でもまだ多くありません。
しかし近年、欧米を中心に “靴そのものが膝にどれほど影響するのか” が再検討され始めています。
2. 最新の議論:靴選びは膝の負担に影響するのか?
過去10年で、歩行と膝OAの関係について次のような新しい視点が増えてきました。
● 議論が増えている要因
・トゥスプリングが強い靴(つま先が反り上がる)
・かかとが高い靴
これらは足指の動きを制限し、膝のねじれ・荷重ラインの偏り に影響する可能性があります。
“膝の軟骨”だけを見ても問題は解けず、
足部〜膝〜股関節まで1本のラインとして評価する必要がある
というのが、国際的なバイオメカニクス研究で広がっている考え方です。
3. 2006年 ラッシュ医科大学の研究
Shakoor & Block(Rush Medical College) が2006年に発表した研究は、靴と膝の負荷について非常に示唆に富むものでした。
引用論文:
Shakoor N, Block JA. Arthritis Rheum. 2006;54(9):2923–2927.Walking barefoot decreases loading on the lower extremity joints
● 内容
被験者にさまざまな靴・裸足で歩いてもらい、
膝・股関節にかかる力(関節モーメント)を評価。
● 結果
研究者らは次のように述べています。
“膝OA患者は、現代の靴より裸足で歩く方が関節への負荷が低くなる場合がある。”
これは、靴の構造によって
・膝のねじれ(内外反モーメント)
・膝の荷重ライン
・股関節へのストレス
が変化しうることを示唆しています。
● 結論
“現代の靴は下肢OAの生体力学を悪化させる可能性がある。”
“靴と歩行習慣がOAの増加にどう影響しているか再評価する必要がある。”
※これは治療効果を示すものではなく、あくまで「膝にかかる力学的負担の違い」を比較した研究です。
4. 足指 → 膝までの“構造連鎖”
足指が正しく使えない
↓
足首のロッカーファンクションが崩れる
↓
歩行の軌道が外側へ流れやすくなる
↓
膝が外側に倒れたようなラインになる
↓
大腿骨と脛骨の位置関係がズレやすくなる
これは“膝の痛みが改善する”と述べるものではなく、
足指〜膝の関節配置に起こりやすい構造的傾向 を説明したものです。
臨床で膝OAの方を診ていると、次のような共通点がよく見られます。
これらは「膝OAに影響する可能性がある下肢の力学的特徴」として科学的にも長く議論されています。
5. 結論|靴は“膝の健康環境”を左右する要素のひとつ
医学的には多因子による影響が前提ですが、
靴の構造・歩行の癖・足指の使われ方
が膝に負担をかける“力学的条件”になり得ることは、研究や臨床の双方で共通した見解です。
● 足の自然な形状を尊重した靴が重要
・つま先が窮屈でない
・足指が上下左右に動きやすい
・屈曲点がMP関節付近
・靴底が硬すぎない
・過度なヒール差がない
こうした靴は、
“足指が自然に使われやすい環境を整えるもの”
として位置づけられます。
靴は、足の自然な構造を妨げず、身体を守るための道具
——これは足の健康を考える上で非常に重要な視点です。


(※特定の靴がOAを治すものではなく、あくまで一般的な健康・姿勢環境づくりの話です。)
足指の動き・配置を観察するための研究記録

東京大学・石井直方名誉教授の指導下で、2020年〜2022年にかけて延べ96名を対象に実施した足指の機能・可動域・構造変化に関する観察研究です。
この記録は、日常生活の中で“足指を広げる・接地させることを意識した生活習慣づくり”を行った参加者を対象に、足指の可動性・足幅・足の配置など、構造的な推移を観察したものです。
計測は 8週間〜24ヶ月にわたり、
・足指がどの方向へ動きやすいか
・指の並びがどの程度そろいやすいか
・アーチの状態に関係する足部構造がどう推移するか
といった “動きやすさの傾向” を平均値としてまとめた記録です。
外反母趾角
開始時の外反母趾角は19.1°
8週間後の外反母趾角は12.3°
8週間目の平均値は、開始時と比べて、外反母趾角が平均6.8°変動する傾向が平均値として確認されました。
※開始前と24ヶ月目の平均値の差
※グラフは観察記録における平均値の推移です。

※本データは治療効果を示すものではなく、足指の“動きやすさ・配置の推移”を記録した観察データであり、因果関係を証明するものではありません。
足指が動きやすい体をつくる日常ケアと環境の整え方
足指が使いやすい環境を整えるためには、次のようなケアが役立つことがあります。
- 足指をゆるやかに反らすストレッチ
- 靴の見直し
- 足元の圧迫を避け、動きやすさを保つ工夫
1|足指をゆるやかに反らすストレッチ
ひろのば体操は、足指の屈筋・伸筋、足底の筋・腱の滑走(すべり)を促し、
“動かしやすい状態を目指すためのストレッチ”として取り入れられる方法です。
2|靴の見直し
(足指の動きを妨げない設計を選ぶ)

靴の構造が足に合っていない場合、靴下やセルフケアの効果を実感しにくいことがあります。特に、足指の動きを妨げるデザインは避けたいところです。
推奨される靴の特徴としては、
- トゥスプリングが小さい
- つま先が圧迫されにくい構造
- 屈曲点がMP関節と一致
- 靴底にねじれを防ぐシャンク入り
- ヒール差は2cm以下
などが挙げられます。

3|“小股歩き”で自然な足指運動を引き出す
大股で歩こうとすると、接地の瞬間に足指が十分に働く前に体重が移動し、屈筋に頼った“つかむ・曲げる”動作が増えやすくなります。
これに対して、小股歩きは、
- 足を骨盤の真下に落としやすい
- 足裏全体でフラットに着地しやすい
- 足指がまっすぐ伸びたまま接地しやすい
という特徴があり、自然な足指の使い方を引き出しやすくなります。
アムステルダム自由大学・Hak ら(2013)は、健常成人の歩行を解析し、ストライド長を短くすることは後方の安定性を高め、ストライド頻度を増やすことは左右方向の安定性を高める傾向があると報告しています。(参考:Hak et al., 2013, PLoS ONE)
4|室内履きと滑り対策:足指変形の環境要因を断つ
スリッパや草履など「滑りやすい履き物」は、歩行中に足がズレないよう無意識に指を屈ませてしまい、外反母趾・内反小趾・屈み指・浮き指・寝指の一因になることも。






- 室内では極力スリッパをやめ、滑らない床マットや5本指ソックスを活用
- 足元の冷え対策にはレッグウォーマーを併用
- スリッパ代わりの“滑らない室内用シューズ”も有効

足元環境を整えるための生活用品という考え方
日常生活で足指を使いやすい状態をつくるためには、足が滑りにくく、過度に締め付けない素材を選ぶことが重要です。
とくに次のポイントは、足元環境づくりで注目されます。
- 摩擦による“滑走の抑制”
- 足指の間隔を確保しやすい設計
- 過度な圧迫を避けるバランス
- 足指の動きを妨げにくいテンション
ここからは、私が研究の中で感じてきた「足指が使いやすい環境づくり」に関する具体例として、生活用品の設計思想についてご紹介します。(特定の商品による効果を示すものではありません)
YOSHIRO SOCKS|構造のこだわり

YOSHIRO SOCKS は「足指が使いやすい環境を整える」ために設計された生活用品です。
開発の原点にあったのは、妻から『小指が地面に触れた日は、膝まわりの“力の入り方の感覚が違う”と感じた』と話してくれたことが、私が足指の使い方と姿勢バランスの関係を深く考える大きなきっかけになりました。
私はそこで、「足指が少し使いやすくなるだけで、日常の負担は変わるのではないか」と確信しました。
20年以上、理学療法士として多くの足を診てきた中で、足指が使いにくい“環境”そのものが、立ち方・歩き方・姿勢に大きく影響することを繰り返し実感してきました。
そこで私は奈良の専門工場の職人とともに、糸の太さ・密度・張力・摩擦・圧力・縫製角度まで細かく検証し、足指を動かしやすい“環境づくり”を目指した構造を追求しました。
YOSHIRO SOCKS の主な構造
(5つのこだわり)
1|日本製(専門工場による精密なものづくり)

立体縫製・編み立て・染色・検品のすべてを国内で一貫管理し、±1mmのズレも許さない職人技で仕上げています。
細かいテンション差が履き心地に影響するため、国内生産にこだわっています。
2|高密度(髪の毛の約20分の1の繊維)

700nm(ナノレベル)の極細繊維を高密度で編成。足裏に吸い付くようなフィット感を生み、靴の中で足が滑りにくい環境をつくります。
“滑らない構造”は、足指が動きやすい下地になります。
3|極薄(約2mmでも安定する薄さ)

靴内のかさばりを抑え、素足に近い感覚で足と靴が一体になりやすい設計です。
薄くてもヘタれにくいのは、繊維と密度のバランスによるものです。
4|高耐久(長期間使える繊維強度)
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特殊繊維と高密度の編み構造により、日常使用でも伸び・ヨレが起こりにくい強度を確保。
毎日履く生活用品としての耐久性を重視しています。
5|足指が広がりやすいフォルム(扇形の足に基づく設計)
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YOSHIRO SOCKSは、靴を履かずに生活する人々の足を分析した研究で示される、“まっすぐ伸び、前方へ扇状に広がる”本来の足の形を参考に設計されています。
一般的な五本指ソックスとは異なり、母趾から小趾へ向かう “本来の扇形ライン” を意識した立体的な形状に仕上げています。
一部の研究では、摩擦係数が低い靴下ほど靴内での滑り(relative sliding)が増える傾向が指摘されています(2006, 2021, 2023 など複数研究)。

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