認知症予防の鍵は姿勢にあり?足指ケアで脳を守る新常識

足指ドクターによる解説

YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗

足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(7万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。

目次

はじめに

認知症の原因の一つとして、前頭葉への血流不足が挙げられます。前頭葉は、思考や計画、意思決定、注意力などの高次脳機能を司る重要な脳の領域です。この部位への血流が低下すると、脳の機能がうまく働かず、認知機能の低下が引き起こされる可能性があります。「それがどうして足指と関係あるの?」と思われるかも知れませんが、近年、「足指」の機能が認知機能と密接に関連していることが注目されています。本記事では、認知症と足指の関係、具体的なメカニズム、そして予防策について詳しく解説します。

概要

上の写真は脳の活動 (血流) を評価する核医学検査です。上から見下ろした左側の健康な人の脳のSPECT検査(脳の血流状態や脳の働きを調べる検査)では、完全で対称的な活動が示されています。右側の認知機能に障害がある人の脳スキャンでは、全体的な活動が著しく低下しており、脳の後半部分が著しく劣化していることがわかります。

2022年の科学報告(Scientific Reports)による研究では、前かがみ姿勢(猫背)が認知機能低下の指標となることが明らかになりました。研究は411人を対象に、脊柱の前傾(猫背)が大きいほど、認知機能の低下リスクが高まることを示しています。この結果から、姿勢の異常が認知症の早期発見における有用な指標になる可能性が示唆されています。

また、2019年に行われた研究では、頸椎の前弯(ロルドーシス)の喪失が、椎骨動脈の血流動態に与える影響を調査しました。30人の頸椎前弯を失った患者と30人の健常者を比較し、椎骨動脈の血流量、直径、ピーク収縮期速度が有意に低下していることが確認されました。これにより、頸椎前弯の喪失(ストレートネック)が脳への血流不足を引き起こし、脳機能に悪影響を与える可能性が示唆されました。

これら2つの研究から導かれる重要な点は、頸椎の姿勢異常が脳や脳血流に悪影響を与える可能性があり、姿勢の改善が脳の機能維持(認知症の予防・改善)に重要であるということです。

認知症と姿勢のメカニズム

認知症と姿勢の関係について、以下に詳細なメカニズムを説明します。姿勢、特に首(頸椎)の姿勢異常が脳の血流や機能にどのように影響を及ぼし、それが認知症リスクの増加につながるかを解説します。

1. 頸椎の姿勢異常と脳血流の関係

頸椎の構造と役割

  • 頸椎(首の骨)は7つの椎骨からなり、生理的な前弯(ロルドーシス)を持っています。
  • この前弯は、頭部の重量を効果的に支え、衝撃を吸収する役割を果たします。

ストレートネック(頸椎前弯の喪失)

  • ストレートネックとは、頸椎の自然な前弯が失われ、頸椎が直線的になる状態を指します。
  • 足指の変形、長時間のデスクワーク、スマートフォンの使用による不良姿勢などが原因で発生します。

椎骨動脈の圧迫

椎骨動脈は頸椎の横を通り、脳幹や小脳、後頭葉などに血液を供給する重要な血管です。

  • ストレートネックになると、頸椎のアライメントが変化し、椎骨動脈が伸長されて血管が細くなってしまいます。
  • 研究例:「Decreased Vertebral Artery Hemodynamics in Patients with Loss of Cervical Lordosis」では、頸椎前弯の喪失が椎骨動脈の血流を有意に低下させることが示されています。
  • 頭を前に突き出す姿勢は、頸椎をずらす原因になります。C1 と C2 の位置が変化すると、椎骨動脈を介した脳への血流が減少する可能性があります。
  • 新しい研究では、頸椎前弯の矯正は脳血流の即時増加につながる可能性があることが示されています。

脳への血流不足

  • 椎骨動脈が圧迫されると、脳への血流が減少します。
  • 脳への酸素や栄養素の供給が不足し、神経細胞の機能低下や損傷を引き起こします。
  • 特に、脳の後部や小脳、脳幹などの機能が影響を受けます。

2. 前方頭位(Forward Head Posture, FHP)と脳機能

前方頭位とは

  • 前方頭位(ストレートネック)は、頭部が通常の位置よりも前方に出ている姿勢異常です。
  • 猫背や反り腰、モニターの長時間使用、スマートフォンの過度な使用が原因で増加しています。
  • 頚椎の角度によって頭を支えている筋肉に負荷が変わります。

筋肉の緊張と神経圧迫

  • 頭部が前に出ることで、首や肩の筋肉(僧帽筋、胸鎖乳突筋など)に過度な負荷がかかり緊張します。
  • 筋肉の緊張が増すと、周囲の神経や血管を圧迫します。

脳波への影響

  • 研究例: 「Effect of Forward Head Posture on Resting State Brain Function」では、前方頭位が脳の安静時機能に影響を与えることが示されています。
  • 前方頭位の被験者は、前頭葉や頭頂葉で脳波のガンマ波活動が増加しており、これは脳の過剰な興奮やストレス状態を示します。
  • 長期的な脳の過興奮状態は、神経細胞に負担をかけ、認知機能の低下に繋がる可能性があります。

3. 姿勢異常による呼吸機能の低下と酸素不足

上気道の狭窄

  • ストレートネックや前方頭位では、首の位置が変化し、気道(上気道)が圧迫されます。
  • 気道の狭窄により、呼吸が浅くなり、酸素の取り込み量が減少します。

呼吸筋の機能低下

  • 不良姿勢は、横隔膜や肋間筋などの呼吸筋の動きを制限します。
  • これにより、換気効率が低下し、血中酸素濃度が下がります。

脳への酸素供給不足

  • 脳は全身の酸素消費量の約20%を占める高エネルギー消費臓器です。
  • 酸素供給が不足すると、エネルギー産生が低下し、神経細胞の機能が損なわれます。
  • 長期的な酸素不足は、神経細胞の死滅やシナプス機能の低下を引き起こし、認知機能の低下に繋がります。

ストレートネックの原因

ストレートネックの原因は、猫背や反り腰などの姿勢の問題で起こります。だからと言って体幹にアプローチをしても治るわけではありません。姿勢の問題は「足趾機能不全」や「足指の変形」によって起こるからです。足趾機能不全や足指の変形は、重心の位置が変化することで全身のバランスが崩れ、姿勢が次第に悪化します。これが、猫背反り腰といった姿勢の問題として現れるのです。

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小指の機能不全

「内反小指」と同じ症状。外側重心となり、骨盤が前傾することでストレートネックになります。

親指の機能不全

「外反母趾」と同じ症状。内側重心となり、骨盤が後傾することでストレートネックになります。

2〜4指の機能不全

「屈み指」と同じ症状。かかと重心となり、骨盤が前・後傾することでストレートネックになります。

2〜4指の機能不全

「浮き指」と同じ症状。かかと重心となり、骨盤が前・後傾することでストレートネックになります。

このように足趾機能不全や足指の変形により、ストレートネックとなり、首こりや肩こりが発生します。頭が前方に移動することで口呼吸や低位舌、さらには上気道の閉塞による睡眠時無呼吸症候群を引き起こすリスクも高まります。

このように、足趾機能不全や足指の変形は全身にわたる健康問題を引き起こす可能性があるため、早期の対処と予防が重要です。適切なケアと習慣の見直しを行うことで、これらの問題を未然に防ぐことができます。

足趾機能不全とは

足の指(足趾)が正常に機能しなくなる状態を足趾機能不全といいます。通常、足の指は歩行や立位、バランスの保持において重要な役割を果たしますが、機能不全が生じると、これらの動作が困難になり、歩行や姿勢に問題が発生します。足の指がうまく動かない、足の指に力が入らない、と感じたら足趾機能不全です。まずは下の3つの動きが全てできるかどうか確認してみて下さい。

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全ての指を曲げることができるか
全ての指をひらくことができるか
意識的に親指だけを上げることができるか

親指がうまく曲げられない、ひらかない、上に上げることができないのであれば「親指の機能不全」です。小指がうまく曲げられないとか、ひらかないのであれば「小指の機能不全」です。第2〜4指が曲げられなかったり、ひらかないのであれば「2〜4指の機能不全」ということになります。

足指の変形

足指は、立位や歩行時において体重を支える重要な役割を果たします。特に足のアーチは、体全体のバランスを保つために重要です。足指にはそれぞれの役割がありますが、足指が変形すると、足部の筋力が低下し、足のアーチが崩れ、足全体のバランスが乱れます。これが膝、腰、そして背中にまで影響を及ぼし、姿勢の悪化を招きます​(Hand-Standing理論)。まずは自分の足指を観察し、外反母趾内反小趾浮き指屈み指・寝指などの変形がないか確認しましょう。

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かがみ指

指が下向きに曲がりっぱなしで伸ばすことができない状態のことを指します。

外反母趾

足の親指の付け根側(親指の付け根側に向かって)に向かって曲がってしまっている状態を指します。

内反小趾

足の小指が内側(親指側に向かって)に曲がる状態のことを指します。

親指の浮き指

親指が他の指の爪と比べて上方向に曲がって浮いてしまう状態を指します。

小指の浮き指

小指が地面から浮いてしまう状態を指します。

寝指

指の爪が横を向いている状態のことを指します。

セルフチェックシートで簡単チェック

外反母趾・内反小趾かどうかを簡単にチェックするシートもあります。A4サイズの用紙に印刷して、立った状態で足を乗せてみましょう。

足趾機能不全と足指変形の改善方法

「ひろのば体操」による足指の機能回復

足趾機能不全の改善には、適切なリハビリテーションや運動療法が有効です。日本において、この分野で注目されているのが「ひろのば体操」です。足趾機能不全の場合には、1日3回(1回5分程度)以上を目安に行うことを推奨しています。また、ひろのば体操のあとは足指が動きやすくなるため、足指のパー・グー・チョキの練習を5分程度行うことをオススメしています。

ひろのば体操は、足指を中心に体の歪みを調整するため、結果的に首や背骨にかかる負担も軽減されます。これにより、ストレートネックの原因となる首の前方突出や背中の湾曲を改善する効果が期待できます。正しい姿勢をサポートすることで、ストレートネックによる不調を軽減できます。

YOSHIRO SOCKSによる足指の変形改善

足指の変形を改善するに役立つ方法として、「YOSHIRO SOCKS」という特殊な靴下が挙げられます。1日8時間以上履くこと、6,000歩以上のウォーキングを推奨しています。YOSHIRO SOCKSは、足指を正しい形状に整えるためにデザインされた特殊な靴下で、次のような機能を持っています。

  1. 足指の独立サポート: 各足指を個別にサポートし、自然な形状に戻すことを助けます。
  2. 血行促進: 足底への適度な圧力で血流を改善。
  3. バランスの改善: 足裏のバランスを整えることで姿勢や歩行をサポート。
  4. 足趾機能の強化: 足指の筋力を高め、変形を防ぐ。

これらにより、外反母趾・内反小趾・浮き指・屈み指などの足の変形を予防・改善し、足指や足底のバランスを整えることで、体全体の姿勢が正され、ストレートネックの改善に役立ちます。

足趾機能不全の予防と日常生活での注意点

適切な靴選び

足趾機能不全を予防するためには、日常生活での足の使い方や姿勢に注意することが重要です。長時間の立ち仕事や歩行を避ける、適切な靴を選ぶ、定期的に足のストレッチやマッサージを行うなど、足にかかる負担を減らすことが求められます。適切な靴の選び方は、下記の記事を参考にしてみてください。男性の場合にはNew BalanceのM990女性にはハルメクのYOSHIRO MODELをオススメしています。

また、足の筋肉や関節を常に柔軟に保つために、ひろのば体操を日課にするのも効果的です。さらに、YOSHIRO SOCKSを日常的に使用することで、足の指を自然に動かせる環境を整え、足趾機能不全の予防につなげることができます。

足指の機能を回復させる歩き方

足趾機能不全の予防や改善には、歩き方を工夫することが重要です。その中でも「小股で歩く」ことが効果的とされています。大股で歩くと、足趾をうまく使えず、足の筋肉や神経に負担がかかりやすくなります。一方、小股で歩くことで、足指をしっかりと地面に着けることができ、足趾の機能を維持・強化することができます。

・後ろ向きで歩く
・後ろ向きで歩く歩幅・スピードで前向きに歩く
・5分程度意識的に小股で歩く

左右の膝が前後に離れすぎないようにすることがコツです。小股で歩くことで、足の筋肉や関節が適切に動き、バランスが取りやすくなります。これにより、足趾機能不全の進行を防ぐだけでなく、全身の姿勢や歩行の安定性も向上します。普段の歩き方を見直し、意識的に小股で歩くことを習慣づけることで、足の健康を守り、日常生活の質を向上させることが期待できます。

認知症が治った!

私がひざ痛に悩まされるようになったのは、3年前に転倒してからです。右のひざ関節を痛め、医師からは人工関節を入れる手術を勧められました。しかし、心臓が悪かったため手術は断念せざるを得ませんでした。

そこで、3週間に1回、ひざの動きをよくし、痛みをおさえるヒアルロン酸注射を打つようになりました。ただし、注射は一時しのぎにしかなりませんでした。3週間たつころには効果が薄れて、再びひざがズキズキと痛み出すのです。

家の中では手すりや壁伝いに歩き、外出するときは杖が頼りでした。思うように歩けないため、好きな外出も、しだいに少なくなっていきました。

私は73歳まで仕事を続け、退職後は妻と海外旅行を楽しみ、いろいろな国へ出かけたものです。地域の「歩こう会」の世話役もしていて、まさか自分が歩けなくなるなんて思ってもみませんでした。

ですから、1日じゅう家の中でじっとしている生活はとてもつらかったものです。

また、転倒した原因がふらつきだったため、脳の検査も受けました。その結果、私は認知機能がやや低下していたようです。確かに、今記憶をたどってみても、そのころのことはよく思い出せません。病院では記憶力や判断力の減退を遅らせる薬を処方され、それを飲むようになりました。

娘の勧めで、湯浅慶朗先生を訪れたのは、昨年の10月です。

湯浅先生からは、足指を広げて伸ばす「足指つかみ(ひろのば体操)」と「YOSHIRO SOCKS」を勧められました。私の足指はとてもかたくて、最初は、指と指の間をなかなか広げることができませんでした。ですから、足指の間に手の指を入れるのもひと苦労でした。

それでも、毎日、朝食後と夕食前に5分ずつやるようにしたら、徐々に足指が開くようになってきました。そして、1ヵ月後にはひざの痛みが軽くなり、立つ力がついてきたのです。

年末には姿勢もよくなりました。以前は肩が丸まって頭が下がり、柱に後頭部をつけることができませんでした。それが、頭を上げて柱にピタリとつけられるようになったのです。

初めて湯浅先生の元を訪れたときは、正座をしようとしてもお尻が10㎝ぐらい浮いていたのが、ちゃんとつくようにもなりました。

足指伸ばしを始めて4ヵ月たつ今は、家の中では手すりや壁を頼らなくても歩けます。外出時は不安なので杖を持参しますが、歩幅が広くなり、歩く速度も速くなりました。距離も2kmぐらいは平気で歩けるようになりました。

人間、何歳になっても回復するものなのですね。今の目標は、夏までに、杖を使わずに歩けるようになることです。

週3回デイケアに行ったり、妻と国内旅行に出かけたりと、日々をまた活動的に楽しんでいます。デイケアでは私がいちばん元気かもしれません。計算問題も素早くできるようになり、一時は認知症を心配していた娘やケアマネージャーも、私の回復ぶりを喜んでくれています。

 

YOSHIRO

認知症は加齢のせいではありません。認知症の予防には、歩くことが大変有効だといわれていますが、悪い姿勢のままではその効果も落ちてしまいます。。老老介護などのリスクをへらすためにも、足指を伸ばしてしっかり歩くことが重要です。

この記事を書いた人

湯浅慶朗のアバター 湯浅慶朗 ひろのば体操の開発者

足指研究の第一人者。理学療法士。病院理事・副院長も歴任。東京大学・国際医療福祉大学と研究を行う。テレビ出演は『NHKガッテン』『NHK BS 美と若さの新常識』『NHK サキどり』『ガイアの夜明け』ほか多数出演、著書は『たった5分の「足指つかみ」で腰も背中も一生まがらない!』(PHP出版)など多数。ハルメクとオシャレな矯正靴を共同開発しています。

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