はじめに|「親指の病気」と思った瞬間、全体像は見えなくなる
こんにちは。足指研究家の湯浅慶朗です。
外反母趾の相談を受けていると、
非常によく似た質問をされます。
- 「小指は関係ありますか?」
- 「親指だけが問題ですよね?」
この問いに対し、私はいつもこう答えます。
「多くの場合、親指と小指は“同時に起きている”」
外反母趾と内反小趾(テーラーズバニオン)は、
別々の病名として扱われます。
しかし臨床の現場では、
両方を併発している足が圧倒的に多いのが実情です。
この記事では、
- なぜ同時に起こりやすいのか
- なぜ片方だけを見ても解決しないのか
- 足指を「一本ずつ」見ることの限界
を、構造と荷重の視点から整理していきます。
第1章|外反母趾と内反小趾は「反対側の変形」ではない
一般的な説明では、
- 外反母趾:親指が外へ
- 内反小趾:小指が内へ
と説明されます。
この説明自体は間違っていません。
しかし、ここで多くの誤解が生まれます。
「たまたま反対側に起きただけ」
「別々の原因がある」
という理解です。
実際には、
同じ足の中で、同じ力学が働いていることがほとんどです。
第2章|足は「横幅」で安定する構造を持っている
足部は、
- 内側(母趾側)
- 外側(小趾側)
の両端で支えられることで、
横方向の安定性を保っています。
この横方向の支えを担っているのが、
- 中足骨
- 骨間筋
- 横アーチ
です。
横アーチが機能しているとき、
- 親指は内側で踏ん張れる
- 小指は外側で支えられる
という 「両端支持」 が成立します。
第3章|横アーチが崩れると、両端が同時に壊れる
ここが最も重要なポイントです。
横アーチが不安定になると、
- 中足骨が左右に広がる
- 足幅が広がる
- 両端の指に張力が集中する
という状態が起こります。
その結果、
- 母趾は内転筋に引かれて外反
- 小趾は外転筋が使えず内反
という 「左右同時の変形傾向」 が現れやすくなります。
つまり、
外反母趾と内反小趾は、横アーチ機能低下という“同じ原因”の両端表現
なのです。
第4章|「親指だけ治す」発想が危険な理由
外反母趾に対する一般的な対応は、
- 親指を広げる
- 親指を固定する
- 親指の角度を戻す
といった 母趾単独アプローチ です。
しかしこの方法では、
- 外側支持(小趾)が戻らない
- 横アーチが再構築されない
- 荷重の逃げ場が変わらない
という問題が残ります。
結果として、
親指の角度は変わっても、歩行中の負担感は変わらない
というケースが少なくありません。
第5章|小趾は「飾り」ではなく、重心制御の要である
小指は軽視されがちですが、
実は 歩行と姿勢制御において非常に重要です。
小趾は、
- 踵から前足部への重心移動
- 外側支持による安定
- 推進力の最終調整
を担っています。
小趾が機能しないと、
- 重心が外側に偏る
- 小指に過剰な負担がかかる
- 内反小趾が進行しやすくなる
という悪循環が生まれます。
第6章|靴環境が「両端同時破壊」を加速させる
靴の中で足が滑ると、
- 指で掴む
- 屈筋が優位になる
- 骨間筋が使われにくくなる
この状態が続くと、
- 横方向の制御が失われる
- 両端が内側へ引き込まれる
結果として、
親指も小指も「使えない」状態になる
のです。
第7章|なぜ医療では分けて診断されるのか
これは医療の限界でもあります。
- 外反母趾:整形外科
- 内反小趾:別疾患
として分類されることで、
- 部分最適
- 局所治療
になりやすくなります。
しかし足は、
一本ずつ独立して動く構造ではない
という事実を忘れてはいけません。
第8章|「形」よりも「使われ方」を見るという視点
臨床で重要なのは、
- 角度
- 見た目
だけではありません。
- 立った瞬間どうなるか
- 荷重時にどちらへ逃げるか
- 歩行中にどこが使われていないか
といった 動的評価 です。
見た目が軽度でも、
- 機能的には重度 というケースは非常に多く見られます。
第9章|外反母趾と内反小趾を「同時に考える」意味
外反母趾と内反小趾を同時に考えると、
- 足幅
- 横アーチ
- 骨間筋
- 荷重の流れ
という 足全体の構造 が見えてきます。
これは、
「どこが悪いか」ではなく「どこが使われていないか」
という視点への転換です。
多くの方に見られる「足指の状態」の一例(参考資料)
本記事で述べてきた
「足指が使われやすい環境」という考え方について、
臨床の現場でどのような状態が記録されてきたかを示す
補助的な観察資料として、以下の例を掲載します。
以下は、医療的な効果や症状の改善を示すものではありません。
日常生活の中で、
足元の使い方や生活環境を意識されていた方の
足指の状態を記録した一例を、参考資料としてまとめたものです。
同様の結果が得られることを示すものではなく、
状態や経過には個人差があります。
足指の状態に関する記録例(参考)
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※掲載内容は、特定の結果や変化を保証するものではありま
まとめ|母趾と小趾は「別々に壊れた」のではない
- 外反母趾と内反小趾は同時に起こりやすい
- 原因は横アーチと荷重制御
- 一本ずつ見ても全体像は見えない
- 足は「両端支持」で成り立っている
外反母趾を考えるとき、
親指だけを見ている限り、
答えは半分しか見えていません。
足は常に「全体」で応答しています。
本記事では、外反母趾の一側面について掘り下げてきましたが、
実際には足指・アーチ・歩行・生活環境が複合的に関係しています。
外反母趾を全体構造から理解したい方は、
以下の記事で体系的に解説しています。

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