【医療監修】足を変形させない正しい靴選びの科学的ポイント8選|膝痛・外反母趾を防ぐエビデンス付きガイド

足指ドクターによる解説

YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗

理学療法士(Physiotherapist)、足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、ひろのば体操・YOSHIRO SOCKS・ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(10万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。東京大学 石井直方 名誉教授の弟子でもある。

目次

靴選びは“足指の自由”から始まる

靴を選ぶという行為は、ただのファッションや履き心地の問題ではありません。現代人の多くが経験する「浮き指」「外反母趾」「膝痛」「O脚・X脚」といった不調は、すべて足指の機能不全に起因しているケースが少なくありません。

足指がしっかりと開き、伸びて、地面を捉えられていれば、足全体のアライメントが整い、それが脚部→骨盤→脊柱→頭部へと波及する“足指からの運動連鎖”が正常に機能します。正しい靴選びは、そのスタート地点に立つための第一歩です。

靴選びのポイント

1. ひも靴で足の滑りを防ぎ、指を守る

2. 平ひもで甲を安定させ神経入力を最適化

3. かかとの芯が足の車軸を安定させる

4. シャンク入りで足のブレを防ぐ

5. 広めのトウボックスで指の機能を守る

6. アーチは自力で支える。フラットインソールが基本

7. ヒール差1〜2cmが姿勢を整えるカギ

8. トゥスプリングは15°以下。指が使える設計に

1. ひも靴が最適な理由

足指が変形する大きな原因の一つが「足が靴の中で滑ること」にあります。足が前滑りを起こすと、それを止めようと足指が屈曲して踏ん張る動作が長時間続き、これが「かがみ指」「寝指」「内反小趾」などの足趾変形や足指機能低下を招きます。ひも靴は、足と靴を一体化させて踵を確実に固定することで、この“靴内滑り”を防ぎます。そして、踵が安定することで膝・骨盤・脊柱へのねじれや歪みの連鎖も抑制でき、足指から体幹へと繋がるアライメントの基盤が整います。

足指が自由に動けるためには、靴の中で足がブレないことが絶対条件です。ひも靴は甲・踵をしっかり固定できる構造で、足のズレを防ぎ、足指の無駄な緊張や屈み指を抑制します。

たとえば、ローファーやスリッポンでは踵が浮き、歩行中に前滑りを起こしやすく、足指で常に踏ん張る状態になります。これが長期的に見れば、変形や機能不全を招く原因になるのです。

2009年、英国レディング大学(University of Reading)の Hagen M らが、異なる靴ひも締めパターン(アイレット数・締め具合)を用いた走行実験を行いました。結果、アイレット数を増やしきつめに締めた条件では、足底前部のピーク圧・靴内滑り量ともに有意に低く、足–靴間の連動性が高まることで下肢負荷が軽減されたと報告されています。

Hagen M, et al. (2009). Effects of Different Shoe‑Lacing Patterns on the Biomechanics of Running Shoes. J Sports Sci., 27(2), 129‑135.【DOI: 10.1080/02640410802482425

2024年、イタリア・ボローニャ大学(University of Bologna)の Tedeschi R らによるレビューでは、ひも締め具合およびアイレット数最適化が、足背部・中足骨下のピーク圧を低減し、過回内(オーバープロネーション)傾向の予防につながる可能性」が指摘されました。

Tedeschi R, et al. (2024). Harnessing Foot Mechanics: The Role of Lacing Techniques in Enhancing Comfort and Reducing Injury Risk. Appl Sci., 14(22), 10190.【DOI:10.3390/app142210190CC BY 4.0

2. 靴ひもは「平ひも」を選ぶ

靴ひもには大きく分けて「丸ひも」と「平ひも」がありますが、足指と足部全体の安定性を考慮するなら、断然「平ひも」がおすすめです。平ひもは面での接触面積が広く、局所的な圧迫がなく、均一に締めることが可能です。

これは足指への神経入力にも影響します。特に神経終末が集中する足背部に対して柔らかく安定した締め付けが行えることが、足指の屈筋群の緊張抑制につながると考えられます。

イギリスの理科教員 David Muir 氏は、科学雑誌『New Scientist』の寄稿において、「平紐は表面積が広くなるため摩擦が増え、結び目がほどけにくくなる。さらに、幅方向にねじれる柔軟性があり、他のひもに絡みつくことで摩擦が増す」と述べています。

Muir D. “It’s not the knot.” New Scientist, 12 March 2014. 

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ただし、現時点では平紐と丸紐の性能を直接比較した明確な研究データは限られていますね。

3. 踵がしっかりしている靴を選ぶ

踵が柔らかく潰れるような靴は、足の軸を安定させられず、足指が支えとして機能しにくくなります。踵部が不安定になると、脛骨・膝・股関節へと負荷が連鎖し、関節痛やO脚・X脚を誘発します。

ヒールカウンター(踵の芯材)は、足の重心を正中に保つための“車軸”のような役割を担っており、その剛性は極めて重要です。

Goldbergら(1983年)らの研究によると、ランニングシューズにヒールカウンター補強を施すことで後足部(rearfoot)の安定性が向上することを報告しています。ヒール部の強化により、着地時のかかとのブレや過回内などを抑制する効果が期待されます。

Goldberg DA, Whitesel DL. Heel counter stabilization of the running shoe. J Orthop Sports Phys Ther. 1983;5(3):143-145.【DOI: 10.2519/jospt.1983.5.2.82

香港理工大学のLamら(2020年)の研究は、ヒールカウンターの硬さが足関節の横方向の動きを抑制し、着地時の安定性を高めることを報告しています。一方で、硬すぎるヒール構造は膝関節への動的負荷を高める可能性もあり、かかと部分の剛性と、膝への負荷バランスを取った設計が必要とされています。

Lam W-K, Chan C-W-C, Leung A-K-L, et al.Effects of collar height and heel counter stiffness on cushioning and joint stability during landing.【DOI: 10.1080/02640414.2020.1785728

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この論文は、「ヒールカウンターの硬さ(剛性)が、足関節の安定性にどう影響するか」を定量的・実験的に検証した数少ない査読論文です。

4. ねじれない靴底(シャンク入り)が理想

靴の底がグニャグニャとねじれやすいと、足の指で地面をしっかりつかむことがむずかしくなります。

靴がねじれてしまうと、足首が外にぐらついたり、内側に傾いたりしやすくなり、足の指もバランスをとろうとして、力が入りすぎて曲がってしまうことがあります。

このような状態が続くと、足の形がくずれてしまう原因にもなります。

シャンクとは?

シャンクとは、靴底の中足部(足の土踏まず付近)に入る補強材で、ねじれ剛性(靴底が左右に捻じれるのを防ぐ力)を高める役割があります。

英国ラフバラ大学のLeeら(2024年)は、スパイクのアウトソールを対象に「ねじれ剛性 (torsional stiffness)」を高める設計により、ねじれや曲げに対する他の剛性特性にも影響が出ることを報告しており、“ねじれにくい靴底設計”が機能的に重要な設計要素であることを示しています。

Lee J.R., Harland A., Roberts J., Price D., Jadoul G. The interdependence of functional properties of a football boot outsole during the shape optimisation process. Sports Eng. 2024;27:29. 【DOI:10.1007/s12283-024-00464-6

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靴底がねじれやすい構造になっていると、歩行時や立位時に中足部や足関節が不安定になり、足の変形や膝・腰への負荷が増加する恐れがあることを示唆していますね。

5. 足指が自由に動けるトウボックス

トウボックス(靴のつま先部)が狭いと、足指をひらく動きが制限され、足指の神経入力や足底圧の分散機能が著しく損なわれます。とくに親指・小指の自由度が制限されると、内外側への重心移動が妨げられ、膝関節への負担が増大します。

イギリスのスタッフォードシャー大学のら(2013年)の研究チームによると、トウボックスの形状・容量が異なる靴を用いた歩行実験で、足底圧および指間圧に有意な影響があることを報告しています。

Branthwaite H., Chockalingam N., Greenhalgh A. The effect of shoe toe box shape and volume on forefoot interdigital and plantar pressures in healthy females. J Foot Ankle Res. 2013;6:28. 【PMCID: PMC3737013

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足指には“動く自由”が必要です。締めつけではなく、広がれる空間こそが、足の健康を守ります。

6. インソールはフラットタイプを選ぶ

インソールはフラットなタイプ(アーチサポート付きではない)を選ぶべきです。なぜなら、足のアーチは本来自力で支えられるべき構造であり、外部からアーチを支えるサポート型インソールを長期的に使うと、足底の内在筋群や足指屈筋が使われず萎縮し、足の機能自体が低下したり、扁平足開帳足に移行する可能性が高いのです。

Protopapasら(2020年)は、12週間カスタムオーソティックを装着した若年成人で、足底内在筋の断面積が9.6〜17 %程度減少したことを報告しています。

Protopapas K., Perry S.D. The effect of a 12‑week custom foot orthotic intervention on muscle size and muscle activity of the intrinsic foot muscle of young adults during gait termination. Clin Biomech (Bristol). 2020;78:105063. 【DOI: 10.1016/j.clinbiomech.2020.105063

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インソールで支えるのではなく、自分の足の筋肉でアーチを保つこと。それが本来の“足の機能”です。

7. 踵が少し高い設計が望ましい(ヒール差1〜2cm)

完全なフラットソールではなく、若干踵が高く設計されている靴は、ふくらはぎ筋やハムストリングスの緊張を分散させ、骨盤の前傾・後傾バランスを安定させやすくなります。これが間接的に足指の踏み込みと地面反力の処理効率にもつながるのです。

単に踵だけの高さで見るのではなく、前足部と後足部の高低差が1〜2cmの靴を選ぶと良いと思います。

スリッパリーロック大学のLindenbergらの研究によると、スニーカーに24mmのヒールリフトを装着して前方ホップを行った場合、着地時の膝の曲がり方(屈曲角度)はわずかに増加する一方で、膝の曲がるスピード(屈曲の移動速度)は有意に遅くなることが報告されています。このことは、かかとの高さが過剰であると着地時の衝撃吸収反応が遅れ、膝への負担が増すリスクがあることを示唆しています。

Lindenberg KM, et al. (2011). The influence of heel height on sagittal plane knee and hip biomechanics. Journal of Applied Biomechanics, 27(2), 114–121.【PMID: 21904697

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“ペタ靴”ばかりだと、かえって脚が張ったり、姿勢が崩れたりしますよ。1〜2cmだけでも、かかとに高さがあると体はグッと楽になります。

8. トゥスプリングは15°以下に抑える

靴の中の角度が15度以内
アウトソールのトゥスプリングではない

トゥスプリングとは、靴のつま先が反り返っている角度のこと。これは転がりやすさのための設計ですが、反りすぎていると足指が接地時に使われなくなり、筋活動の低下、浮き指の固定化につながります。

ケムニッツ工科大学のSichtingらによる近年の研究(2020年)では、トゥスプリング(靴のつま先の反り上がり)が大きくなると、歩行時に足指(MTP関節)の動きが制限され、足趾屈筋の筋活動量が減少することが示されています。とくに40°のトゥスプリングでは、10°と比較してMTP関節の総可動範囲が約16%減少し、筋肉の負の仕事量は最大35.6%も低下しました。

Sichting F, et al. (2020). Effect of the upward curvature of toe springs on walking biomechanics in humans. Scientific Reports, 10(1), 13099. 【PMID: 32943665

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このような構造を長期間使用することで、足の内在筋の萎縮や足指の機能低下(浮き指や足底腱膜炎)が進行する可能性があると指摘されています。

総まとめ:足指を活かす靴、それがすべての起点

このように、正しい靴選びは「足指が正しく動くこと」を目的とした設計から始まります。そしてその足指の自由こそが、歩行・姿勢・体幹・噛み合わせまでを変える第一歩になります。

現代の靴文化は“便利さ”や“デザイン”に傾きすぎ、本来の足指の機能を奪っています。いまこそ足元を見直すときです。

科学と臨床の両方から導き出した靴選びで、健康と美しい姿勢を取り戻しましょう。

ポイントを押さえた靴選びをして、「足」の習慣を変えよう

足が変形している人に共通していること。それは、「靴の変形」です。 意外なことに、靴を履くときに多くの人がかかとを踏んでいます。なかには、つま先を地面にトントンと叩き、なかば強引に履く人も......。 靴のかかとを踏んづけて、芯が曲がってしまうと、もう元には戻りません。 そのような乱暴な履き方をしていると、かかとが崩れ、靴が変形してしまいます。 靴が変形すれば......そう、足も同じように変形するんです。 かかとを踏むクセがある人は、今日からやめましょう!

靴を履くときに、靴べらを使う

靴を履くときのポイントは、「靴べら」。靴べらは、「靴を履きやすくする」ためのアイテムでもありますが、「靴のかかとの崩れを防ぐ」という役割ももっているのです。 私は、外出先でも携帯用の靴べらを使って履きます。それもないときは、クレジッ トカードや名刺を靴べらの代わりに用いることも。履くときの摩擦を防ぐことができ れば、靴のかかとを守ることができます。 また、靴べらを使えば、靴はおのずと長持ちします。せっかく気に入って買った靴 ですから、長持ちしたほうがいいですよね。 家に靴べらがないという人は、100円ショップなどでも売っているので、家に常 備しておくといいでしょう。

正しく履いて、足指を最大限に使おう

靴べら以外にも、正しい靴の履き方にはポイントがあります。 靴は、立った状態で履くのが基本。

とくに、ひも靴などは、ほとんどの人は、座った状態で履くのではないでしょうか。でも、これ、足指にはNGの習慣です。 なぜなら、座った状態と立った状態では体重のかかり方が違ってくるからです。 座ったままだと体重が乗らないので、足のアーチ(甲)が高くなります。そのまま 体重をかけないで靴ひもを結ぶと、立ちあがったときにアーチが下がり、靴ひもがゆ るんでしまいます。

正しい靴の履き方は、立った状態で靴べらを使って履いたら、かかとを靴にピタッ と密着させ、靴を正しい位置に合わせます。このとき、かかとを地面に軽くトントン と叩くようにするとうまくいきます。 そうしたら、地面に片ひざを立て、足に体重が乗るようにします。そのままの状態 で靴ひもを結ぶと、きっちりと足が固定されます。

靴ひもを結ぶときは、つま先に近いほうからしっかりと通していきます。このとき、靴ひもは穴の外側から内側へ通していくのがポイント(くわしくは動画でご紹介しています)。下から上に通す場合よりも、甲の部分がきっちり固定できます。 なお、甲の部分さえしっかり固定できれば、靴の上部のひもが多少ゆるくても、足が靴の中で動いてしまうようなことはありません。 靴を脱ぐときも、かかとが崩れないように気をつけましょう。座ってひもをゆるめてから、かかとの部分を持ってそっと脱ぐと、靴が長持ちします。

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