足指ドクターによる解説

YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗
理学療法士(Physiotherapist)、足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、ひろのば体操・YOSHIRO SOCKS・ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(10万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。東京大学 石井直方 名誉教授の弟子でもある。
はじめに:その「口テープ」、本当に大丈夫ですか?
「マウステーピング」という言葉を聞いたことがありますか?
TikTokなどのSNSで話題となっているこの睡眠法は、「口にテープを貼ることで鼻呼吸を促進し、睡眠の質を高める」とされています。
私はこれまで10万人以上の足・姿勢・呼吸に悩む患者さんを見てきましたが、「睡眠中に口を塞ぐ」という行為には、医学的に大きなリスクがあると感じています。
今回は、カナダの研究チームが発表した最新の科学的レビューと、私の視点で見る「足指と姿勢の関係性」も踏まえ、決して簡単にマネすべきではない理由をわかりやすく解説します。
なぜ口呼吸が問題視されるのか?
まず前提として、私たち人間の呼吸は、本来「鼻呼吸」が基本です。

鼻には加湿・加温・異物のフィルター機能が備わっており、体内環境を守る大切な役割を果たしています。

ところが、アレルギー性鼻炎、花粉症、鼻中隔弯曲(びちゅうかくわんきょく)、扁桃肥大などがあると鼻の通りが悪くなり、自然と口呼吸に移行してしまうのです。

アデノイドは口呼吸が原因と言われていますが、実はそうではありません。機会があれば記事で紹介したいと思います。
口呼吸が習慣化すると、次のような健康被害が報告されています。
- 睡眠の質の低下
- いびきや睡眠時無呼吸症候群
- 口腔内の乾燥やむし歯、口臭
- 顎のズレや顔貌の変化
そのため、「口呼吸を防いで、鼻呼吸を取り戻そう」とする動きが近年注目されており、その手段のひとつとして“マウステーピング(口テープ)”を取り入れる人が増えてきました。

実際に、一部の医療機関や睡眠専門クリニックでも、軽度の睡眠障害に対してマウステープの使用を勧めるケースがあります。
「テープを貼るだけで鼻呼吸が促されるなら、簡単で続けやすい」という理由で、SNSを中心に広まり、健康習慣として定着しつつあるのです。

口テープは対処療法です。膝が痛いから湿布を貼るのと同じです。
最新研究レビューが示した「マウステーピングの真実」
それでは、この“マウステーピング”と呼ばれる健康法に関して、2024年にアメリカの研究チームが世界中の医学論文とTikTokなどのSNSの主張を比較した【スコープレビュー(包括的文献調査)】の発表を見てみましょう。
レビューの中で取り上げられた177本の研究のうち、実際に「夜間のマウステーピング」に関する研究として採用されたのは9件だけでした。
そのうち、一定の効果が見られたのは数件のみです。
① 睡眠時無呼吸(OSA)には一部効果あり?
9件の研究のうち、数件は軽度の睡眠時無呼吸において、口をテープで閉じることでいびきや呼吸の乱れが改善されたという結果が出ています。
- いびきの頻度が303.8回/時 → 121.1回/時に大幅減少
- AHI(無呼吸低呼吸指数)も8.3 → 4.7に改善
- 血中の酸素飽和度も上昇
といった統計的に有意な改善が報告されました。
また、アメリカの別の研究では、顎を前に出す装置(MAD)との併用で、無呼吸発作の頻度が半分近くまで減少する結果も確認されました。

数値的には改善されても、根本的なカラダの構造上の問題(下顎後退・低位舌・気道閉塞など)は解決していないので、睡眠時無呼吸が治ったとは言えないです。
② でも…ほとんどの研究では「効果なし」または「限定的」
それ以外の研究では、「いびきが減る」「睡眠の質が上がる」といった効果を明確に示したものはほとんどありませんでした。
- 喘息患者を対象にした大規模試験では、マウステープに効果なし
- いびき対策で使った人も、特別な改善は確認されていない
- TikTokなどのSNSで語られる「虫歯予防」「顔の形が整う」といった主張も、医学的根拠はなし。
つまり、「マウステーピングが効くのはごく一部の人、しかも症状が軽い場合のみ」というのが現時点での結論です。

虫歯と呼吸は無関係です。虫歯は血液の問題で細菌が増えるだけなんです。これも機会があれば記事にしたいと思います。
SNSでの主張の多くは科学的に裏付けられていない
研究チームは、TikTokの人気動画50本も調査しました。その結果は衝撃的でした。
- 「よく眠れる」「朝スッキリ起きられる」
→ 36%が主張 - 「虫歯予防になる」「口臭が減る」
→ 約25%が主張 - 「免疫力が上がる」「美肌になる」
→ 複数の動画で登場
しかし、そのほとんどが根拠となる医学論文を示しておらず、実際の研究と矛盾している場合もありました。

体験談はとても重要だと思います。数多く集めればエビデンスにもなります。ただ、口呼吸は「結果」であって「原因」ではないので、目を向けるべきは他にあります。
結論:使う前に知っておきたいこと
一定の人には効果がある可能性あり
- 軽度の睡眠時無呼吸症の人
- CPAP(人工呼吸器)を使用していて口から空気が漏れる人

そもそも睡眠時無呼吸は上気道閉塞と低位舌によって起こるので、姿勢を変えないと治らないんです。結局は「足指」にたどり着きます。
使用に注意が必要な人
一方で、次のような人は注意が必要です。
・鼻づまりやアレルギーがある人
・中~重度の睡眠時無呼吸がある人
・喘息や呼吸器疾患がある人
マウステーピングは呼吸を妨げる可能性があり、かえって危険を伴うことがあります。

鼻詰まり・アレルギー・喘息の原因が口呼吸だと言われていますが、それはないと思います。私がその3つの全てが持病でしたので。
深刻なリスク:命に関わるケースも
さらに深刻なのは、4件の研究が上気道(空気の通り道)の重度の狭窄または閉塞により口呼吸をしている人が、寝ている間に無理に口を閉じてしまうと、呼吸ができなくなって窒息する危険があると報告していたことです。
とくに注意すべきは、鼻が詰まりやすい方や呼吸器系に既往症のある方です。

もし、鼻が詰まっている状態で口までふさいでしまえば、酸素の供給路が完全に塞がれる=窒息のリスクが生じます。
以下のような方は、絶対にマウステーピングを試してはいけません。
- 花粉症やアレルギー性鼻炎がある
- 鼻中隔弯曲がある
- 扁桃腺が大きく、のどが狭い
- 睡眠時無呼吸症候群と診断されている
- 呼吸器の病気がある
また、子どもに対してマウステーピングを行うのは非常に危険です。絶対にやめてください。
世界中の医学的に認定された睡眠専門家の間では、マウステーピングを推奨していません。
2024年1月にマクマスター大学の医師らが発表した見解では、睡眠中に口をテーピングする行為(マウステーピング)は、科学的根拠が乏しく、軽度のいびき軽減には一定の可能性があるものの、重度の睡眠時無呼吸症候群などではリスクが高く推奨されないと指摘されました。証拠の質は限定的であり、臨床現場での一般的な使用は慎重に検討すべきと結論づけられています。

2012年から行ってきたセミナーでもお伝えしていましたが、歯科医院では足指や姿勢のことはさておき、相変わらず口テープを推奨していました。
口テープより先に整えるべきは「足指」と「姿勢」
しかし、本当に考えるべきなのはここからです。
そもそも──なぜ私たちは、口を閉じれなくなってしまったのでしょうか?

それは「鼻が詰まっているから」「意識が足りないから」だけではありません。
もっと根本的な問題、つまり姿勢の崩れにあります。
そして、その姿勢を支えている最も土台の部分──それが足指なのです。
姿勢が崩れると、頭部が前に出て、下顎が引っ張られるように落ち込み、自然と口が開いてしまう状態になります。
このとき、舌も正しい位置(口蓋)に収まらず、気道は狭くなり、呼吸は浅くなっていく…。
つまり、口呼吸とは「結果」であって、原因ではないのです。
その原因を無視して、ただ口をテープで塞ぐだけでは、体は根本的には何も変わりません。むしろ危険です。
だからこそ、私が提唱するのは「足元からの呼吸改善」。
足指の機能と姿勢のバランスを整えることで、自然に口が閉じ、鼻呼吸が戻ってくるのです。
足指と口呼吸──意外な関係とは?
私はこれまで、「足指の変形」や「浮き指(指が地面につかない状態)や屈み指」が、実は呼吸パターンに影響を与えていることを、多くの臨床データから確信しています。

浮き指や屈み指があると、体は後方重心になり、自然と首が前に出て、猫背やストレートネックになります。

この姿勢では、胸郭(肋骨まわり)が圧迫されることや、ストレートネックによって上気道(空気の通り道)が狭くなったり舌の位置が下がることで、深い鼻呼吸がしづらくなるのです。

その結果、浅く速い口呼吸が習慣化し、夜間のいびきや口の乾燥、さらには睡眠の質の低下にもつながります。詳しくはこちら↓


セファロがあるクリニックなら、頚椎角度と上気道を対比させて観察すれば良いと思います。どうすれば広がるのかわかるようになります。首のストレッチは意味ないですけど。
もうひとつは、ストレートネック・頚椎前弯型の姿勢では、頭部が前に突き出るため、顎の下にある筋肉(舌骨上筋群・舌骨下筋群)が後ろ方向や下方向に引っ張られて下顎は後方に下がり、咬合面(噛み合わせの面)が後ろにずれてしまいます。






その結果、下顎頭や関節円板に大きな負荷がかかり、変形や摩耗、吸収が進むことがあります。この状態が悪化すると、顎関節に痛みや雑音が生じ、最終的には開口障害(口呼吸)を引き起こして顎関節症へと進行します。詳しくはこちら↓


「お口ポカン」の原因はココです。根本的には姿勢を良くする以外に方法はありません。
つまり、姿勢が悪いと「空気の通り道」が狭いままでるし、下顎骨も後方に引っ張られたままなので、口テープをすると逆効果になる可能性もあるのです。口呼吸を改善したいなら、テープで口をふさぐ前に、
- 足指の機能を取り戻す
- 姿勢をニュートラルに戻す
- 胸郭を拡げる習慣を持つ
といった“足元からの改善”が重要なのです。
「呼吸の質」を高めたいなら、まず足元から見直して
実は、鼻呼吸や姿勢の乱れは「足指の機能不全」や「靴・靴下の選び方」から始まることもあるんです。
たとえば私が開発した「YOSHIRO SOCKS」は、足元から神経と姿勢のつながりを整える構造で、鼻呼吸を促す間接的なサポートにもなります。
マウステープを貼る前に、まずは全身のバランスや生活習慣の見直しから始めてみてください。
足元から鼻呼吸を促す「ひろのば体操」
「ひろのば体操」は、足指をゆっくり広げながら動かす簡単なエクササイズです。
毎日たった1〜2分続けるだけで、姿勢や呼吸にもよい影響が出ることが臨床の現場でも確認されています。
履くだけで足指が目覚める「YOSHIRO SOCKS」

「ひろのば体操」とあわせて使いたいのが、私が2012年から開発を続けてきた機能性靴下YOSHIRO SOCKS(ヨシローソックス)です。
履くだけで、「足指を使って立つ」感覚が自然と脳に届くように設計されています。
つまり、意識しなくても「鼻呼吸しやすい姿勢」に導くサポートギアなのです。
園児調査で実証された「足指と口呼吸」の関係
私自身、2017年にある保育園で園児を対象とした足指機能改善の調査を行いました。
この調査では、園児にYOSHIRO SOCKSを着用させ、ひろのば体操を8週間にわたって継続的に実施してもらいました。
その結果、次のような明確な変化が見られました。
- 浮き指率:86%→44%
- 屈み指率:100%→77%
- 理想姿勢の割合:28.3%→69.6%
- 口呼吸率:36.3% → 18.1%(約半分に減少)
- 口唇閉鎖力(口を閉じる力):5.6N → 7.9N(約1.41倍)
これは、単に口をふさぐのではなく、足元の機能を整えることによって呼吸の質が変わることを示す、非常に示唆に富んだ結果でした。
しかも対象は、無意識下の呼吸傾向がそのまま現れる幼児。だからこそ、この変化には大きな意味があります。
姿勢や足指が整えば、意識せずとも「口が閉じられるようになる」という事実を、データとして証明できた瞬間でした。
YOSHIRO SOCKSの呼吸に対する効果(科学的根拠)
外反母趾角
開始時の外反母趾角は19.1°
8週間後の外反母趾角は12.3°
8週間目の平均値は、開始時と比べて、外反母趾角が6.8°改善。外反母趾角改善の作用が確認されました。
※開始前と8週間目の平均値の差
※グラフは臨床試験における平均値の推移
※結果には個人差があり、100%の結果を保証するものではありません。
※石井直方名誉教授(東京大学)監修

背筋力
開始時の背筋力は50.7kg
装着後の背筋力は70.7kg
YOSHIRO SOCKS装着後の平均値は、開始時と比べて、背筋力が平均39%(最大57%)向上。姿勢の改善の作用が確認されました。
※60代女性の平均背筋力は72.28±9.18 kg
※開始前と装着後の平均値の差
※グラフは臨床試験における平均値の推移
※結果には個人差があり、100%の結果を保証するものではありません。

口呼吸
開始時の口呼吸の割合は36.3%
8週間後の口呼吸の割合は18.1%
8週間目の平均値は、開始時と比べて、口呼吸の割合が18%改善。呼吸の改善の作用が確認されました。
※人間本来の呼吸法は「鼻呼吸」。口呼吸が無防備な呼吸法なのに対し、鼻呼吸は非常に優れた防御システムを持つ呼吸法。
※開始前と8週間目の平均値の差
※グラフは臨床試験における平均値の推移
※結果には個人差があり、100%の結果を保証するものではありません。
