はじめに|なぜ「足が健康な人」と「不調が多い人」が生まれるのか
こんにちは。足指研究所の湯浅慶朗です。
私は理学療法士として、これまで10万人以上の足と姿勢を見てきました。
その中で、ずっと抱いてきた疑問があります。
「なぜ、足に悩まない人と、慢性的な不調を抱える人がいるのか」
年齢や体重、運動量だけでは説明できない違いが、確かに存在します。
そのヒントの一つが、
“どこで体重を支えて歩いているか”
――つまり 足底圧の分布 にあります。
この視点を強く裏付ける研究が、
アフリカ(マラウイ)とヨーロッパ(オランダ)の成人を比較した足底圧研究です。
足の健康は「アーチの高さ」では決まらない
多くの人は、足の健康を語るとき、
- 扁平足かどうか
- アーチが高いか低いか
に注目します。
しかし、この研究が示しているのは、
「形」よりも「使われ方」 の重要性です。
- 静的な足の形状
- 歩行中の足底圧分布
- 足圧の移動(ロールオフ)
が詳細に解析されました。
その結果、非常に興味深い違いが明らかになっています。
マラウイ人の足に共通していた「圧の使い方」
① 中足部で“長く”体重を支えている
マラウイの参加者は、
- かかとで強く着く
- つま先で強く蹴る
という歩き方ではありませんでした。
足の中央(中足部)で、比較的長い時間体重を受け止める
これが大きな特徴です。

左パネル: マラウイグループのMP分布。
中央パネル: オランダグループのMP分布。
右パネル: マラウイグループとオランダグループのMPの差。
結果として、
- 前足部への急激な負荷が少ない
- かかとへの衝撃が分散される
という足底圧パターンが形成されていました。
② アーチは「低い」のに、足は不安定ではない
静的な計測では、
- マラウイ人の内側縦アーチは低め
- 扁平足に分類される割合も高い
という結果が出ています。
| 項目 | マラウイ平均(SD) | オランダ平均(SD) |
| 内側角度 (°)* | 139.69 (9.47) | 144.05 (8.83) |
| 舟状骨高さ/足長比率* | 0.17 (0.03) | 0.20 (0.03) |
| 舟状骨高さ (mm)* | 44.88 (6.56) | 52.76 (7.87) |
| 足長 (mm) | 266.02 (15.77) | 270.22 (17.59) |
| 足幅/足長比率* | 0.46 (0.03) | 0.44 (0.02) |
| アーチインデックス (AI)* | 0.28 (0.03) | 0.21 (0.06) |
| 低アーチ (%) | 76.6 | 26.0 |
| 通常アーチ (%) | 22.1 | 33.8 |
| 高アーチ (%) | 1.3 | 40.3 |
しかし重要なのは、
アーチが低い=機能していない、ではない
という点です。
マラウイ人の足では、
- 足底全体で圧を受け止め
- 一点に負担を集中させない
という “機能的に働くアーチ” が形成されていました。
③ ロールオフが「なめらか」
歩行中の足圧中心(CoP)の軌跡を見ると、
- かかと → 足中央 → 前足部 への移動が非常に滑らかです。

左上のパネル: オランダ人マラウイの CoP パスを含むオランダ人グループの MP 分布。
右上のパネル: 相対 vCoP 比較: マラウイ グループからオランダ人を待ったもの。
下のパネル: 内外側 (左のパネル) と前後 (右のパネル) 方向の CoP パス差。
これは、
- 歩行中に急激なブレーキがかからない
- 足部で衝撃を吸収できている
ことを意味します。
一方、ヨーロッパ型の足で起きやすいこと
オランダの参加者では、
- 前足部・かかとへの圧が強く
- 中足部の関与が短い
という傾向が見られました。
これは、現代の日本人の足底圧分布ともよく似ています。
臨床では、このような足に、
- 前足部痛
- 足底筋膜への負担
- 足指が使われない歩き方
が重なっているケースを多く見ます。
重要なのは「裸足かどうか」ではない
この研究で誤解してはいけない点があります。
マラウイ人も、
決して一日中裸足で生活しているわけではありません。
違いを生んでいるのは、
- 足裏で感じ取れる情報量
- 足指が自由に使える時間
- 足底全体で支える習慣
といった 生活環境の積み重ね です。
現代人の足で起きている構造的な問題
現代の靴・靴下環境では、
- 足指が広がりにくい
- 足底感覚が遮断されやすい
- かかと・前足部に圧が集中しやすい
という条件が揃いやすくなっています。
その結果、
- 中足部が使われない
- 足指が姿勢制御に参加できない
- 上位(膝・腰)でバランスを取る
という 代償的な姿勢戦略 が起こります。
このとき、身体に起きているのは
「足で処理できなくなった負担の移動」です。
本来、足底全体と足指で吸収・制御されるはずだった前後方向の揺れは、
足部で処理できなくなると、次の関節へと押し上げられます。
まず膝関節が前後ブレーキを担わされ、
次に股関節・骨盤の動きが制限され、
最終的に腰椎がバランス制御の役割を代償的に引き受ける。
これは臨床でも非常によく見られる流れです。
では、
足底圧の分散が失われたとき、
なぜ膝や腰が“負担の受け皿”になってしまうのでしょうか。
▶ 足底圧が崩れると、なぜ膝・腰に行くのか

アフリカ人の足が教えてくれる本質
この研究が教えてくれるのは、
「アフリカ人の足が特別」という話ではありません。
足は、本来こう使われる構造を持っている
という事実です。


- 足底全体で圧を受け止める
- 足指が制御に参加する
- 一点に負担を集中させない
この環境が整えば、
足は「壊れにくい構造」で働きます。
足元の環境をどう整えるかという視点
私はこの研究を、
- 裸足に戻るべき
- 特定の民族を真似るべき
という話にはつなげません。
現代の生活の中で、
「足が本来の働きをしやすい環境をどう作るか」
この視点こそが重要だと考えています。
足指と足底感覚を邪魔しない「環境設計」の一例
YOSHIRO SOCKSは、
こうした研究や足底圧データ、臨床観察をもとに、
- 足指が使われやすい状態
- 足底感覚を妨げにくい素材
- 圧が一点に集中しにくい設計
を目指して作られています。
これは治療ではなく、
日常環境を整えるための一つの選択肢 です。
まとめ|足の健康は「使われ方」で決まる
このアフリカとヨーロッパの比較研究が示しているのは、
- 足の健康は形ではなく使われ方
- 足底圧の分布が姿勢と動作を左右する
- 足指が参加できる環境が重要
という、非常にシンプルな事実です。
足元の違和感や不安定さを感じたとき、
まず見直すべきなのは「鍛え方」ではありません。
どこで、どう体重を支えているか。
そこに、すべての出発点があります。
足指の研究から生まれた「環境づくり」という視点
足指研究所では、20年以上の臨床経験と、東京大学・石井直方名誉教授と実施した観察研究を通して、
「足指が使いやすい環境が整うと、姿勢・重心の安定性に関わる“変化傾向”が見られることがある」
という視点を大切にしています。
足指は本来、「広がる・伸びる・接地する」という生理的な動きを持ちますが、
靴・靴下・床の滑りやすさなどによって、その働きが阻害されることがあります。
私たちは、
「どうすれば日常で足指が動きやすい環境を作れるか」
という点を中心に開発と研究を続けています。
【研究データ|足指・姿勢・筋活動の観察記録】

2020〜2022年、東京大学・石井直方名誉教授の指導下で実施。
延べ96名を対象に、以下の構造的特徴の推移を多角的に観察しました。
- 足指の動き・配置
- アーチ構造
- 姿勢指標
- 体幹支持筋・口腔周囲筋・下肢筋の活動傾向
“足指が使いやすい環境づくり”を行った際、
足指・姿勢・呼吸に関連する筋活動などに構造的な変化傾向が見られました。
【足指が使いやすい体へ|4つのアプローチ】
日常で“足指が働きやすい環境”をつくるための基本ポイントです。
1. ひろのば体操(足指をゆるやかに伸ばす)
2. 靴の見直し(足指が押しつぶされない設計)
3. 小股歩き(足指が自然に使いやすい歩き方)
4. 室内環境の調整(滑りやすい床・スリッパを避ける)
【YOSHIRO SOCKS|構造とものづくり】

——足指が使いやすい“環境づくり”をめざした生活用品
足指の働きを妨げる「環境」そのものに着目し、
奈良の専門工場とともに、糸・密度・摩擦・張力などを精密に検証してきました。
● 構造のポイント

姿勢の安定性に配慮した
摩擦構造

自然な足指の開きを支える
立体フォルム

重心バランスを考慮した
密度・張力設計
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“広げる・伸ばす”動きを引き出す
テンション配置
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開帳・扁平傾向に配慮した
縦横方向テンション

母趾〜小趾が整列しやすい
張力バランス
※ いずれも医療的効果を示すものではなく、あくまで「足指が働きやすい状態をサポートする生活用品としての構造」の説明です。
● 製造のポイント

日本製
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高密度
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極薄
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高耐久

高グリップ
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吸湿・速乾
- 日本製:専門工場が ±1mm 単位でテンション管理
- 高密度:700nmクラスの極細繊維
- 極薄:約2mmの軽さと安定性
- 高耐久:生活用品としての強度
- 扇形フォルム:足指が自然に広がりやすい形状

