足指ドクターによる解説
YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗
足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、YOSHIRO SOCKS・ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。MRC認定歯科医院の顧問の経歴もあり。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(7万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。東京大学石井直方名誉教授の弟子でもある。
はじめに
こんにちは、ビーチサンダルが足に与える影響については毎年夏になると議論が沸き起こります。この軽くて便利な履物が足の健康に良いのか悪いのか、多くの専門家がさまざまな意見を持っています。ビーチサンダルが足にとって健康的なのか、それとも問題を引き起こす原因なのか、この記事で詳しく考察してみたいと思います。
ビーチサンダルと健康的な靴の基準
ビーチサンダルと足の健康について話す際は、まず「健康的な靴のデザインとは何か」を考えることが大切です。私たちの経験から、足に優しい靴には以下のような特徴があることがわかっています。
1. 幅広のつま先部分
足指が自然に広がるスペースを確保し、足本来の動きをサポートします。
2. 柔軟なソール
足の筋力を鍛える柔軟性のある靴底が、健康な足を保つために役立ちます。
3. フラットなプラットフォーム
かかとからつま先まで完全にフラットなデザインは、自然なアーチサポートを促進します。
4. 余計なテクノロジーが少ない
足は本来、自然な状態で強く安定しているものです。余計な構造や機能が少ない方が、足の健康に良いとされています。
5. オープンデザイン
足やつま先が光や空気に触れるデザインは、足をより快適で健康的な環境に保ちます。ただし、すべての気候や環境に適しているわけではありませんが、暖かい季節には多くの地域で利用可能です。
僕が愛用しているのはビブラムのKMD Sport 2.0というものです。
これらの特徴を考慮すると、ビーチサンダルは多くの場合、健康的な靴の基準を満たしていると言えます。幅広で柔軟性があり、フラットなデザインのビーチサンダルは、足の筋力を鍛え、慢性的な足の問題(例: 外反母趾や足底筋膜炎)の予防に役立つことが期待できます。
ただし、全てのビーチサンダルが同じ基準を満たしているわけではなく、一部には注意が必要です(詳しくは以下の「問題のある靴のデザイン」を参照してください)。ビーチサンダルは正しく使えば、足の健康を支える素晴らしい履物にもなり得るのです。
ビーチサンダルが足に良いのか悪いのかについては、さまざまな意見があります。オンラインの議論や研究を見ると、ビーチサンダルを「有害」と警告する記事もあれば、逆にそれを支持する研究もあります。こうした意見の食い違いは、結論を出すのを難しくしています。
ビーチサンダルに関する研究の一例
この研究は、国立衛生研究所の支援を受けて、ナジア・シャクール博士によって実施され、Arthritis Care & Research誌に掲載されました。「一般的な履物が膝関節の変形性関節症の関節負荷に与える影響」と題されたシャクールの研究では、クロッグ、運動用の「安定」シューズ、フラットなウォーキングシューズ、ビーチサンダルなど、一般的な靴の種類が膝関節の変形性関節症の被験者の膝への負荷に与える影響を調べました。著者は次のように述べています。
これまでの研究で、裸足で歩くことが膝への負担を軽減する効果があることが明らかになっています。そのため、今回の研究では、異なる種類の靴が膝に与える影響がどのように異なるのかを調査することにしました。
そこで、シャクール博士と彼女の研究チームは、歩行中に膝にかかる力の大きさに注目し、さまざまな靴を履いた場合と裸足の場合を比較しました。この研究結果について、博士は以下のように述べています。
私たちが直感的に「変形性膝関節症の患者に勧め、最適だと思った靴、つまり安定靴とクロッグは、最も深負荷が高いものでした。フラットなウォーキングシューズ、裸足、ビーチサンダルは、膝にかかる負荷が基本的に同じでした。しかし、クロッグと安定靴では、15% 高い負荷が発生します。
これらの研究はまだ初期段階であり、靴の選択を変更することを推奨するのは時期尚早です。しかし、一部の研究では、ヒールが高く柔軟性の低い靴よりも、平らで柔軟性のある靴の方が膝への負担を軽減できる可能性があることが示されています。スタビリティシューズは他の運動靴よりもヒールが高い傾向にあり、その高さが膝への負荷に影響している可能性があります。一方で、靴の平らさと柔軟性が膝への負担を軽減するメリットをもたらすと考えられます。
現実世界の証拠を見る
ビーチサンダルは何千年もの間、人々の生活の一部として使用されてきました。しかし、現代社会では、健康や効果を判断するために研究や調査に頼る傾向があります。このため、長い歴史の中で培われてきた健康習慣や伝統的な知識が見過ごされることも少なくありません。ランダム化比較試験や臨床研究に基づく証拠は重要ですが、同時に、多くの人々に長年役立ってきた経験的な証拠も検討する必要があります。
ビーチサンダルは、アジア、アフリカ、南米など、世界中で何億人もの人々に使用されてきました。私自身も、ネパール、インド、スリランカ、インドネシアを含む南アジアや東南アジアでの旅行を通じて、ビーチサンダルや似たようなシンプルな履物を履いている人々を多く観察しました。特にネパールでの経験は印象的で、ポーターを含む多くの人々がビーチサンダルのような簡単な履物で日常的に歩き回りながら、足の健康を保っていることに驚かされました。一方で、ネパールのトレッキングルートで足の痛みを訴えていたのは、硬くて重いハイキングブーツを履いた西洋人だけだったのです。
この経験から、履物が足に与える影響は、そのデザインや適応性だけでなく、使用者の生活習慣や環境にも大きく依存していることを再認識しました。ビーチサンダルが人々の足の健康を守りながら機能している事例は、シンプルな履物の可能性を示しています。
ビーチサンダルが足の健康に悪影響を与えると主張する人の多くは、発展途上国での現実を目にしたことがありません。これらの地域では、私たちの社会でよく見られる足の健康問題がほとんどなく、ビーチサンダルのような履物が一般的に(かつ効果的に)使われています。
米国足病医学会によると、アメリカの成人の77%が足の痛みや問題を経験しています。一方、1949年に中国とインドで行われた調査では、靴を履いたことのない人や、「軽くて平らで非常に柔軟なサンダル」を使用している人の中で足の問題を抱えていたのはわずか9%でした。その上、これらの問題の大半は皮膚の問題であり、足の骨や筋肉に関わるものではありませんでした。
この事実を基に、ビーチサンダルが一般的に有害な履物であるという主張に疑問を投げかけ、むしろそれが足の健康に悪影響を及ぼさない理由を示すことを目的としています。
ビーチサンダルは発展途上国で広く使用されており、これらの地域では先進国で見られるような足の健康問題が大幅に少ないのが現状です。もしビーチサンダルが足の機能低下や健康問題を引き起こす履物であるならば、発展途上国の多くの人々がビーチサンダルの使用によって足の問題を抱えているはずです。しかし、実際にはそのような事例はほとんど見られません。これは、ビーチサンダルが足に与える影響を再考する必要があることを示唆しています。
したがって、履物と足の健康に関しては、現実世界での観察も重要な判断材料となります。足に関する健康問題については、既存の信念や仮定に固執せず、自分自身で調査し、疑問を持つ姿勢が大切です。その結果、これまでの考えが正しかったと確認できる場合もあれば、従来の常識を見直し、新たな視点へ切り替える必要があることが分かる場合もあります。この柔軟な姿勢が、より良い選択を導く鍵となるでしょう。
問題が発生する可能性がある場所
ビーチサンダルに関する私の見解としては、適切な条件が満たされれば、足の健康に良い影響を与える可能性があるということです。その中でも特に重要なのが、ビーチサンダルのストラップシステムです。サンダルが足の下で滑り落ちないよう、しっかりとフィットするデザインが必要です。
医療専門家がビーチサンダルに対して最も懸念しているのは、ストラップが緩すぎる場合、サンダルを履いたままにするために足指を過剰に曲げたり掴む動作を繰り返してしまう点です。このような動作は、足の自然な機能を妨げ、足指や足そのものに予期しない問題を引き起こす可能性があります。
これを防ぐためには、前足部にぴったりフィットするデザインのビーチサンダルを選ぶことが重要です。また、ヒールストラップが付いたサンダルを選ぶことで、サンダルを足にしっかりと固定し、足指を過剰に使う必要がなくなります。このような工夫によって、ビーチサンダルの快適さを保ちながら、足への負担を最小限に抑えることができます。
ビーチサンダルのデザインと注意点
ビーチサンダルには様々なデザインがありますが、そのすべてが足に優しいとは限りません。例えば、かかとが高い、靴底が硬い、つま先が反り上がっているなど、足の健康に悪影響を与えるデザインも存在します。通常の靴において重要視される「足に優しいデザイン」の基準は、ビーチサンダルにも当てはまります。ビーチサンダルを選ぶ際は、本当に足にとって良い履物とは何かという基本的な視点に立ち返ることが大切です。
季節による履物の切り替えに注意
多くの人が寒い季節にはつま先が覆われた靴やブーツを履き、暖かい季節になると通気性の良いビーチサンダルに切り替えます。しかし、特にかかとの高い靴から、かかとがフラットなビーチサンダルに急に履き替えると、アキレス腱や足首に負担がかかる可能性があります。このような急激な移行は、足の健康に影響を与えるリスクがあるため、段階的に切り替えることが重要です。
ビーチサンダルの使用時に注意するポイント
ビーチサンダルには、そのシンプルな構造ゆえの制限があります。この履物は、ビーチや家の周り、街中でのちょっとした外出など、あまり激しい動きが必要ない場面で最適に機能します。逆に、冒険や激しい運動を伴う場面では不向きです。また、靴底がすり減った場合には、早めに新しいものに交換することが必要です。古くなったサンダルを使い続けると、足への負担が増し、健康に悪影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
ビーチサンダルを快適かつ安全に使用するためには、適切なデザインを選び、使用状況に応じた履き方を心がけることが大切です。これにより、足の健康を保ちながらビーチサンダルを楽しむことができます。
ビーチサンダル:足に健康的か、それとも有害か?
ビーチサンダルが足の健康に良いか悪いかを判断する際には、そのデザインやフィット感が非常に重要であると私は考えています。どんな履物も一概に「良い」「悪い」と評価することはできませんが、特に以下の条件を満たすビーチサンダルは、足にとって優れた選択肢となる可能性があります。
1. デザインの特性
フラットで柔軟な靴底や、足にぴったりフィットするストラップが備わっているかが重要です。これにより、サンダルが足から滑り落ちることを防ぎ、つま先で無理に掴む必要がなくなります。
2. 使用者の準備状況
ミニマリストな履物への移行は、急がず段階的に行うことがとても重要だと私は考えています。急激に切り替えてしまうと、アキレス腱や足首に過度な負担がかかり、思わぬ怪我や痛みを引き起こすリスクがあるからです。焦らず、自分のペースで少しずつ慣らしていくことが大切です。
正しい使い方をすれば、ビーチサンダルは足の自然な機能を引き出すための優れた履物になり得ます。その利点を私自身の視点からお伝えすると、次のような効果があります。
• つま先が自由に広がることで、足指が自然に動き、足全体のバランスが向上します。これは、姿勢や動きの安定性に大きく寄与します。
• 足の固有筋が強化され、バランス感覚が向上します。特に裸足感覚を活かした履物は、足の安定性を高めるうえで非常に効果的です。
• 内側縦アーチが自力で強化されることで、足裏の痛みや不調を予防することができます。これは、足だけでなく膝や腰の健康にもつながる大切なポイントです。
私自身、これらの利点を多くの方々と共有し、実際にその効果を確認してきました。ビーチサンダルを選ぶ際も、自分の足に合ったものを見つけることで、快適さと健康を両立させることができるはずです。
ぜひ、足をもっと自由に、自然な状態に戻していくことを意識してみてください。それは、健康的で快適な日常生活への一歩となるでしょう。そして何よりも、足の大切さを感じながら、慎重にステップを踏み出してほしいと思っています。
最終的な判断はあなた次第
この記事を通じて、ビーチサンダルが足や健康にどのような影響を与えるかについて、新たな視点を提供できていれば嬉しいです。最終的に、自分の足に合った履物を選ぶのは、あなた自身の選択にかかっています。自分の足の形状や機能に合った履物を選ぶことで、より健康的で快適な生活を送ることができると信じています。
ビーチサンダルは、正しい条件のもとで使用すれば、足の自然な機能をサポートする素晴らしい履物になり得ます。特に暖かい季節には、リラックスしたいときの選択肢として最適です。大切なのは、自分の足に本当に合ったサンダルを見つけること。その一足が、快適さと健康の両方を実現する助けになるはずです。
私自身、足の機能がいかに重要であるかを日々研究し、体験してきました。適切な履物を選び、足を正しく使うことが、全身の健康を守る鍵だと確信しています。ぜひ、あなた自身の足にもっと関心を持ち、正しい選択をしてみてください。