【医療監修】なぜ裸足ランニングが再注目されるのか|足指・進化・生体力学

目次

はじめに|足は本来、裸足で使われるように進化してきた

こんにちは、足指研究家の湯浅慶朗です。

ヒトの足は、数百万年にわたる進化の過程で「裸足で歩き、裸足で走る」ことを前提に形づくられてきました。

靴という人工物が日常的に使われるようになったのは、人類史から見ればごく最近の出来事です。

足部の中でも特に重要な役割を担ってきたのが足指です。

足指は単に体重を支えるための構造ではなく、地面との接触を通じて身体の状態を把握し、姿勢や動作を調整する役割を担ってきました。

近年、裸足ランニングが再び注目されている背景には、

「裸足が良い」「靴が悪い」といった二元論ではなく、

ヒトの足が本来どのような構造と機能を持っているのかを、生体力学と進化の視点から捉え直す流れがあります。

本記事では、裸足ランニングに関する研究知見を整理しながら、足指と足部機能の本質について考えていきます。

なお本記事は、足指と姿勢の関係について研究・臨床の両面から検討してきた立場として、背後にある構造を整理することを目的としています。

裸足ランニングと人類進化の背景

人類の二足歩行は、他の霊長類とは異なる進化的特徴です。

長距離移動を可能にするため、足部には縦・横のアーチ構造が形成され、足指は推進力と安定性の両立に深く関与するよう進化してきました。

Nature誌に掲載された Jungers(2010)は、人類が進化史の99%以上を裸足で過ごしてきた点を指摘し、

ヒトの足部解剖学的特徴が「裸足での二足歩行・走行」を前提として特化してきた可能性を示しています。

この視点に立つと、裸足ランニングは新しいトレンドではなく、

進化的に長く使われてきた身体の使い方の一つと捉えることができます。

垂直方向の地面反作用力と足部運動学

同一ランナーが同じ速度で走行した場合でも、

足の接地様式によって地面反作用力の立ち上がり方や足部の運動学的挙動は大きく異なります。

一般に区別される接地様式には、

  • 後足部着地(rear-foot strike:RFS)
  • 中足部着地(mid-foot strike:MFS)
  • 前足部着地(fore-foot strike:FFS)

があります。

Liebermanら(2010)は、裸足ランナーに多く見られる FFS や一部の MFS では、

衝撃が一点に集中するのではなく、足部・下腿・アキレス腱・足部アーチの弾性構造を通じて分散される傾向を示しました。

スクロールできます

ここで重要なのは、「衝撃がなくなる」のではなく、

身体構造を使って衝撃の処理様式が変わるという点です。

靴を履くランナーと裸足ランナーの違い

現代のランニングシューズを履いたランナーでは、

クッション構造を前提とした後足部着地(RFS)が一般的です。

一方、裸足ランナーや裸足に近い環境で育った集団では、

前足部または中足部での接地が自然に選択されるケースが多く報告されています。

図:裸足ランナーとシューズ着用ランナーの接地準備姿勢の違い
ケニア・カレンジン族の同年齢児における、裸足(左)とシューズ着用(右)の接地直前の足部角度の違い。

Jungers(2010)は、裸足ランナーに見られる特徴として、

  • 歩幅がやや短くなる
  • 下腿と足関節のコンプライアンス(しなやかさ)が高まる
  • 足部の弾性構造が活用されやすくなる

といった点を整理しています。

靴を履かない習慣

習慣的に裸足で靴を履いていないカレンジン族の思春期女性(前足着地)
習慣的に裸足で靴を履いていないカレンジン族の青年男性(前足着地)

思春期まで裸足

思春期まで裸足で走っていた成人のカレンジン族ランナーが、靴を履いた状態で走っている様子(中足部着地)
思春期まで裸足で走る習慣があった成人のカレンジン族ランナーの、靴を履いていない状態(前足着地)

習慣的に靴を履いている

習慣的に靴を履いている、靴を履いた状態のカレンジン族の青年
習慣的に靴を履いているカレンジン族の思春期の学生が、靴を履いていない状態で歩行している様子(後足部着地)

これは「裸足が優れている」という主張ではなく、

足部構造と運動様式の組み合わせによって、力の出し方・逃がし方が変わることを示しています。

現代のランニング環境が足指機能に与える影響

現代の生活環境では、足指の動きが制限されやすい条件が重なっています。

  • 靴のトゥボックスが狭い
  • 靴紐がゆるい
  • 足底感覚が遮断されやすい
  • 床環境が均一で滑りやすい
  • 足指の動きを制限する素材・構造の靴下

こうした環境が続くと、足指の「広がる・伸びる・接地する」という生理的な動きが使われにくくなります。

その結果として、

といった足指変形が生じるケースも少なくありません。

これらは単なる形の問題ではなく、

足部からの感覚入力や支持基底面の不安定化と深く関係していると考えられます。

裸足ランニングの議論が示している、もう一つの重要な視点

裸足ランニングに関する議論は、「走り方」や「靴の有無」にとどまりません。

私が足指の研究を通じて感じているのは、末端(足指)の使われ方が、全身の姿勢制御や出力条件にまで影響するという点です。

この構造を整理するために、私は Hand-standing理論 と呼んでいる考え方を提示してきました。

これは、身体の末端が安定してはじめて、中枢からの出力が解放されるという視点です。

逆立ちを想像すると分かりやすいのですが、

手指が床を捉えられた瞬間、肩・体幹・下肢までが一体となって安定します。

足指も同様に、接地条件が整うことで、姿勢制御のブレーキが外れ、全身の協調運動が生じやすくなります。

裸足ランニングで前足部や足指が使われやすくなる現象も、

この構造と重ねて理解することができます。

(▶︎ Hand-standing理論の解説はこちら

結論|裸足ランニングが問いかけている本質

裸足ランニングが再び注目されている理由は、

「裸足が正しいから」ではありません。

それは、

  • ヒトの足がどのように進化してきたのか
  • 足指がどのように姿勢や動作に関与しているのか
  • 環境が足部機能にどのような影響を与えるのか

という本質的な問いを、私たちに突きつけているからです。

足指を中心に足部機能を捉え直すことは、

ランニングに限らず、歩行や姿勢、日常動作を考える上でも重要な視点になります。

進化が残してきた足の構造を理解すること。

そこに、現代の足トラブルや姿勢の問題を考えるためのヒントがあると、私は考えています。

参考文献

Lieberman, D. E. et al. (2010). Foot strike patterns and collision forces in habitually barefoot versus shod runners. Nature, 463, 531–535.

Jungers, W. L. (2010). Barefoot running strikes back. Nature, 463, 433.

足指の研究から生まれた「環境づくり」という視点

足指研究所では、20年以上の臨床経験と、東京大学・石井直方名誉教授と実施した観察研究を通して、

「足指が使いやすい環境が整うと、姿勢・重心の安定性に関わる“変化傾向”が見られることがある」

という視点を大切にしています。

足指は本来、「広がる・伸びる・接地する」という生理的な動きを持ちますが、

靴・靴下・床の滑りやすさなどによって、その働きが阻害されることがあります。

私たちは、

「どうすれば日常で足指が動きやすい環境を作れるか」

という点を中心に開発と研究を続けています。

【研究データ|足指・姿勢・筋活動の観察記録】

2020〜2022年、東京大学・石井直方名誉教授の指導下で実施。

延べ96名を対象に、以下の構造的特徴の推移を多角的に観察しました。

  • 足指の動き・配置
  • アーチ構造
  • 姿勢指標
  • 体幹支持筋・口腔周囲筋・下肢筋の活動傾向

“足指が使いやすい環境づくり”を行った際、

足指・姿勢・呼吸に関連する筋活動などに構造的な変化傾向が見られました。

研究データの詳細はこちら

【足指が使いやすい体へ|4つのアプローチ】

日常で“足指が働きやすい環境”をつくるための基本ポイントです。

1. ひろのば体操(足指をゆるやかに伸ばす)

2. 靴の見直し(足指が押しつぶされない設計)

3. 小股歩き(足指が自然に使いやすい歩き方)

4. 室内環境の調整(滑りやすい床・スリッパを避ける)

詳しいケア方法はこちら

【YOSHIRO SOCKS|構造とものづくり】

——足指が使いやすい“環境づくり”をめざした生活用品

足指の働きを妨げる「環境」そのものに着目し、

奈良の専門工場とともに、糸・密度・摩擦・張力などを精密に検証してきました。

● 構造のポイント

姿勢の安定性に配慮した
摩擦構造

自然な足指の開きを支える
立体フォルム

重心バランスを考慮した
密度・張力設計

“広げる・伸ばす”動きを引き出す
テンション配置

開帳・扁平傾向に配慮した
縦横方向テンション

母趾〜小趾が整列しやすい
張力バランス

※ いずれも医療的効果を示すものではなく、あくまで「足指が働きやすい状態をサポートする生活用品としての構造」の説明です。

● 製造のポイント

日本製

高密度

極薄

高耐久

高グリップ

吸湿・速乾

  • 日本製:専門工場が ±1mm 単位でテンション管理
  • 高密度:700nmクラスの極細繊維
  • 極薄:約2mmの軽さと安定性
  • 高耐久:生活用品としての強度
  • 扇形フォルム:足指が自然に広がりやすい形状

YOSHIRO SOCKS の構造と設計はこちら

免責事項

本記事は一般的な情報提供であり、治療や効果を保証するものではありません。個人差があります。医療が必要な際は専門医へご相談ください。商品は医療効果を目的としたものではありません。

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