生体力学:裸足ランニングが再び注目される理由

足指ドクターによる解説

YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗

足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、YOSHIRO SOCKS・ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。MRC認定歯科医院の顧問の経歴もあり。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(7万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。東京大学石井直方名誉教授の弟子でもある。

目次

はじめに

私たちの足は数百万年にわたる進化の中で、裸足での歩行やランニングに適応し、その形状や機能を特化させてきました。その中心には足指があり、私たちの身体を支える「土台」として重要な役割を果たしています。この記事では、裸足ランニングの進化的背景を踏まえながら、足指の役割や現代のランニングシューズが足に与える影響、そして健康な足を取り戻すための具体的な方法について掘り下げていきます。

裸足ランニングはNature世界トップクラスの総合科学誌)の2010年1月28日号に「Barefoot running strikes back(著者:William L. Jungers)」で掲載され、人間の進化と裸足ランニングに関する研究を取り上げており、スポーツ医学やランニングシューズの設計に与える影響について考察しています。

裸足ランニングの進化的背景

人間の二足歩行は、他の霊長類とは一線を画する進化的特徴であり、裸足での移動はその基盤を成してきました。人類の歴史の99%以上を裸足で過ごしてきたため、私たちの足は裸足での使用を前提に設計されています。その間、足は歩行やランニングに特化した形状に進化し、特に足指は地面と直接接触してバランスを保つ重要な役割を担ってきました。

特に裸足でのランニングでは、足指が地面を掴む力が発揮され、エネルギーのロスを最小限に抑えることが可能です。足指は、単なる「支え」ではなく、地面からの反力を感じ取り、身体全体の動きを調整するセンサーとしても機能します。この自然な足の使い方は、効率的で安定したランニングフォームを維持するために不可欠です。


垂直方向の地面反作用力と足の運動学(フットキネマティクス)

スクロールできます


同じランナーが時速3.5メートルのスピードで行った3種類の足の着地における垂直方向の地面反作用力と足の運動学の比較を示します。

靴を履くランナーと裸足ランナーの違い

現代のランニングシューズを履くランナーは、かかとから地面に着地する「後足部着地(RFS)」が一般的です。この方法では、シューズのクッション性に頼るため、足指の役割が軽視されがちです。一方、裸足ランナーは、足指を活用した「前足部着地(FFS)」や「中足部着地(MFS)」を選択することが多く、足本来の機能を最大限に引き出します。

これらの写真は、ケニア出身のカレンジン族のランナー、12歳の裸足の少女(左)とランニングシューズを履いた同じ年齢の少年を写したもの。裸足の少女が前足部での接地を準備しているのに対し、シューズを履いた少年はかかとから接地しようとしていることが、足の角度の違いから確認できます。
FFSやMFSの利点

バランスの向上:足指を活用して地面との接触を最適化。

エネルギー効率の向上:アキレス腱や足アーチに弾性エネルギーを蓄積し、それを解放することで効率的な動きを実現。

全身の安定性の強化:足指が地面を掴むことで、身体全体が安定する。

一方で、RFSでは足指の動きが制限されるため、結果として筋力低下や整形外科的な問題を引き起こすリスクが高まります。

YOSHIRO

今でもかかとから地面に着地するランナーがほとんどです。やってみるとわかるのですが、つま先から接地して走った方が疲れにくくなり、足腰のトラブルが激減します。

現代のランニングシューズの課題

多くの現代のランニングシューズは、快適性や安定性を提供する一方で、足指の自由な動きを制限しています。狭いトゥボックス(つま先部分)を持つデザインは、足指を押しつぶし、外反母趾や筋力低下を引き起こす要因となり得ます。結果として、足の自然なアライメントが崩れ、膝や腰など他の部位にも負担がかかります。

靴を履かない習慣

習慣的に裸足で靴を履いていないカレンジン族の思春期女性(前足着地)
習慣的に裸足で靴を履いていないカレンジン族の青年男性(前足着地)

思春期まで裸足

思春期まで裸足で走っていた成人のカレンジン族ランナーが、靴を履いた状態で走っている様子(中足部着地)
思春期まで裸足で走る習慣があった成人のカレンジン族ランナーの、靴を履いていない状態(前足着地)

習慣的に靴を履いている

習慣的に靴を履いている、靴を履いた状態のカレンジン族の青年
習慣的に靴を履いているカレンジン族の思春期の学生が、靴を履いていない状態で歩行している様子(後足部着地)
YOSHIRO

ちなみに私は前足着地で走ります。足は足長が25.8cmですが、実際に履くランニングシューズは28.0cmです。それくらいサイズを上げないと足指が機能的に使えないし、走っていて膝や腰が痛くなります。

足指の重要性を活かすための提案

足指は、私たちの身体を支える中心的な存在であり、その健康を維持することが全身のパフォーマンス向上につながります。以下のような取り組みを通じて、足指の機能を最大限に活用しましょう。

1. 足指のトレーニング

ひろのば体操や足指を動かすエクササイズを取り入れ、筋力を強化。

2. 足本来の形をサポートする靴下選び

はだしの状態(外反母趾)
YOSHIRO SOCKS装着(親指はまっすぐ)

足指を本来の形に近づけるYOSHIRO SOCKSや裸足に近い感覚のシューズを選ぶ。

3. 裸足での活動の実践

安全な環境で裸足で歩いたり走ったりする習慣をつけ、足指の自然な機能を回復。フラットな場所(室内やグラウンドなど)で裸足で歩くよりも、砂浜や芝生で裸足で歩く方が格段に足指の機能は回復します。裸足ランニングは、いきなりアスファルトで始めると足裏を怪我するので、まずは砂浜や裸足の場所から開始して、足裏の皮膚が強くしていきましょう。

結論

裸足ランニングは、足指を含む足全体の可能性を引き出す自然な方法であり、その実践はランニングの効率や快適性を高めるだけでなく、全身の健康にも良い影響を与えます。進化が私たちに与えた足指の力を最大限に活かすためには、足指を中心に据えたライフスタイルを取り入れることが重要です。今こそ足指の役割を再認識し、健康で力強い足を育む一歩を踏み出しましょう。

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