【医療監修】生体力学から考える|マラソン後半で失速しない身体の条件とは

はじめに|マラソンは「筋力」よりも「出力条件」で決まる
こんにちは、足指研究家の湯浅慶朗です。
足指と姿勢の関係を、臨床と研究の両面から見てきました。
マラソンは、単なる持久力競技ではありません。
42.195kmという長距離を走り切るためには、筋力・心肺機能だけでなく、全身をいかに効率よく使えるかが重要になります。
特に後半で失速するランナーに共通して見られるのが、
- フォームの崩れ
- 骨盤の不安定化
- 脚の引き上げ不足
- 着地衝撃の増大
といった「動作効率の低下」です。
本記事では、マラソン動作を支える
腸腰筋・大腿四頭筋・足指の関係を、生体力学と姿勢制御の視点から整理します。
マラソン動作を支える腸腰筋の役割

腸腰筋(大腰筋・腸骨筋)は、股関節を屈曲させる筋群であり、ランニングにおいては「脚を前に運ぶ動作」に深く関与します。
腸腰筋が適切に働くことで、
- 脚の引き上げがスムーズになる
- 骨盤が前後に安定しやすくなる
- 歩幅やピッチが過剰に乱れにくくなる
といった特徴が見られます。
一方で、腸腰筋の出力が低下すると、
脚は「前に振り出す」のではなく「落とす」動きになりやすく、後半の失速につながります。
大腿四頭筋は「推進力」ではなく「制御筋」

大腿四頭筋は膝を伸ばす筋肉として知られていますが、マラソンにおいて重要なのは「強く蹴る力」ではありません。
むしろ、
- 着地時の衝撃を受け止める
- 膝関節を安定させる
- 上体のブレを抑える
といった制御筋としての役割が重要になります。
大腿四頭筋が適切に働いていると、
着地のたびに生じる微細なブレが吸収され、フォームの乱れが蓄積しにくくなります。
なぜ筋トレをしても後半で崩れるのか

「腸腰筋も鍛えている」「脚トレもしている」
それでも後半でフォームが崩れるランナーは少なくありません。
その理由は、筋力の問題ではなく出力条件の問題であることが多いからです。
筋肉は、
- 安定した支持基底面
- 適切な姿勢条件
- 安全だと判断できる感覚入力
がそろって初めて、効率よく動員されます。
条件が崩れると、
筋力があっても「使えない状態」になります。
足指はマラソン動作の「起点」になる

足指は、マラソン動作において見落とされがちな部位ですが、
実際には全身の出力条件を左右する末端センサーです。
足指が適切に接地していると、
- 足底からの感覚入力が増える
- 重心位置が安定する
- 体幹・股関節周囲筋が過剰緊張しにくくなる
といった連鎖が生じます。
逆に、
などがある場合、
支持基底面が不安定になり、上位筋の出力が制限されやすくなります。
Hand-standing理論から見るマラソン動作
私はこの構造を Hand-standing理論 と呼んで整理しています。
逆立ちを想像すると分かりやすいのですが、
手指が床を捉えられた瞬間、肩や体幹の力は自然に発揮されます。

足指も同様に、
- 接地条件が整う
- 感覚入力が安定する
ことで、腸腰筋や大腿四頭筋を含む体幹・下肢筋群の出力が引き出されやすくなります。
マラソン後半での失速は、
筋力不足ではなく「末端条件の崩れ」から始まっているケースも少なくありません。
体験談|東京マラソンで「後半が崩れなかった」理由

正直に言うと、
以前の私はマラソンに対して、あまり良いイメージを持てずにいました。
特に膝です。
走り始めは問題なくても、30km前後になるとフォームが崩れ、
「また来たな…」という不安が頭をよぎる。
その不安があるだけで、脚は重くなり、呼吸も浅くなっていきました。
その頃、走り込みを増やすことはできませんでした。
むしろ、膝が気になって距離を控えることも多かったと思います。
そんな中で見直したのが、
走り方そのものではなく、足元の状態でした。
足指が地面にどう触れているのか。
立ったとき、身体をどこで支えている感覚があるのか。
それまで、正直ほとんど意識したことがなかった部分です。
足指を意識してケアするようになると、
「軽くなった」というより、
立っているときの不安定さが減った感覚がありました。
東京マラソン当日も、
「今日は記録を狙おう」という気持ちより、
足元の感覚を崩さずに進もうという意識でスタートしました。
不思議だったのは、
上り坂や下り坂でも、脚を無理に使っている感じが少なかったことです。
後半に入っても、
「どこかが壊れそうだ」という嫌な予感があまり出てこない。
結果として、タイムは3時間40分。
前年より12分以上短縮していました。
ただ、ゴールしたときの正直な感想は、
「速くなった」というよりも、
最後まで崩れずに走れたという感覚でした。
膝についても、
レース中に強い違和感を意識する場面はほとんどありませんでした。
以前のように、後半でかばいながら走る感覚がなかったのです。
今振り返ると、
筋力が急に増えたわけでも、
特別な走り方をしたわけでもありません。
足指の接地感覚が安定したことで、
身体全体の出力条件が崩れにくくなっていた。
私はそう捉えています。
マラソンは、
「どれだけ力があるか」ではなく、
どれだけ崩れずに使い続けられるかの競技なのだと、
東京マラソンを通して改めて感じました。
マラソン動作を安定させるための環境的視点

マラソンパフォーマンスを考える際、
「どれだけ鍛えるか」だけでなく、
- 足指が動きやすいか
- 接地感覚が得られているか
- 姿勢が過剰に緊張していないか
といった環境条件を見直すことも重要です。
これは特定の走法や器具を推奨するものではなく、
身体の構造に沿った条件を整えるという視点です。
まとめ|後半で失速しない身体は「足元」から始まる
- マラソン後半の失速は筋力不足だけでは説明できない
- 腸腰筋・大腿四頭筋は出力条件によって働きが変わる
- 足指は全身の出力を左右する末端センサーである
- Hand-standing理論はマラソン動作にも当てはまる
マラソンパフォーマンスを見直す際、
脚や心肺機能だけでなく、足指を含めた「全身の構造」から考える視点が、
新たなヒントになるかもしれません。


