【医療監修】足指の解剖学入門⑩ 短母趾屈筋 ― 親指で地面をつかめない原因を解剖学で解説

はじめに|足の解剖学は「物理」で考えると分かりやすい
こんにちは、足指研究家の湯浅慶朗です。
体の構造は医学の分野ですが、整形外科で扱う多くの問題は、
力の向き・支点・ベクトルといった「物理学」の考え方で説明できます。
足の筋肉も同じです。
どこに付着し、どの方向に引っ張るのかが分かれば、
なぜその筋肉が必要なのか、なぜ不調が起きるのかが自然と理解できます。
今回は、足の親指を曲げる筋肉
短母趾屈筋(たんぼしくっきん)について、
解剖・役割・機能低下のしくみを順を追って解説します。
短母趾屈筋とは?

短母趾屈筋(Flexor Hallucis Brevis)は、
足の親指(母趾)を曲げるための筋肉です。
歩くとき、踏ん張るとき、バランスを取るときに
「地面をつかむ」動作を支えています。
短趾屈筋と同様、
歩行・姿勢・安定性の土台となる筋肉です。
筋肉は「引っ張ることで動かす」

筋肉は伸びたり縮んだりして関節を動かしているわけではなく、
縮んで骨を引っ張ることで動きを生み出しています。
短母趾屈筋は、
かかと側の骨と親指の付け根をつないでおり、
かかと側から引くことで、親指を曲げる構造になっています。

どこにある筋肉なの?
短母趾屈筋は 足の裏 にあります。
専門的な付着部位
起始
・立方骨
・外側楔状骨
・内側楔状骨
停止
・母趾 基節骨の底面
作用
・母趾を曲げる
・踏み込み時の安定性を高める
つまり、
足指そのものに付着している筋肉です。
短母趾屈筋の役割
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短母趾屈筋の役割は、とてもシンプルです。
- 地面を踏みしめる
- 踏み込み時に力を伝える
- 立位・歩行時の安定を保つ
具体的には、
- 階段を上るとき
- ジャンプや踏ん張り
- 歩行の蹴り出し
- バランスを取る動作
こうした場面で常に働いています。
なぜ短母趾屈筋が重要なのか
短母趾屈筋が正常に働くことで、
- 親指で地面を押せる
- 足のアーチが安定する
- 姿勢が崩れにくくなる
- 転倒しにくくなる
という連鎖が起こります。
逆に言えば、
この筋肉が使えなくなると、
足元から全身が不安定になるということです。
短母趾屈筋の機能低下で起こること
短母趾屈筋の働きが弱くなると、次のような変化が起こりやすくなります。
歩行が不安定になる
親指で踏み込めず、歩くたびに力が逃げやすくなります。
バランスを崩しやすくなる
立位や方向転換でふらつきやすくなります。
階段がつらくなる
踏み込み時に親指が使えず、疲れやすくなります。
足のアーチが崩れやすくなる
結果として、扁平足傾向が強くなることがあります。
足指の変形が起こりやすくなる
「浮き指」が短母趾屈筋を使えなくする
足が靴の中で滑りやすい状態になると、
無意識に足指を浮かせてバランスを取ろうとします。

これが長期間続くと、
- 足指を使わない
- 短母趾屈筋が働かない
- 筋力と機能が低下する
という流れが生まれます。
筋肉は「使わないと弱くなる」
これは足指でも同じです。
まずはセルフチェック
グー(筋力チェック)
足指をしっかり「グー」にできますか?
- 第3関節まで自然に曲がる → 短母趾屈筋が働いている可能性が高い
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チョキ(機能チェック)
足指を上下に弾く動きがスムーズにできますか?
- 指が動かない・引っかかる → 機能低下のサインかもしれません
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短母趾屈筋は「鍛える前に伸ばす」
短母趾屈筋が硬くなると、
正しく働くことができません。
この筋肉は
親指を曲げる筋肉なので、
反対の動き=親指を反らすことで伸ばせます。
足指の再教育としての「ひろのば体操」
ひろのば体操では、
- 足指を広げる
- 親指を反らす
- 足裏の筋に動く余地をつくる
ことで、
短母趾屈筋を含む足底筋を
やさしく使える状態へ導くことを目的としています。
▶︎ ひろのば体操
目安:1日1回5分
歩くことも立派なトレーニング
短母趾屈筋は、
- かかとで着地
- つま先がしっかり上がる
- 親指で蹴り出す
この一連の動作で自然に使われます。
1日6,000歩歩けば、
片足3,000回の機能トレーニングになります。
定期チェックを忘れずに
ストレッチや歩行を続けたら、
定期的に「グー」「チョキ」を確認しましょう。
- 動きがスムーズになる
- 力が入りやすくなる
これが、
短母趾屈筋が正しく使われ始めたサインです。
Hand-Standing理論との接続|「足は逆さまの手」である
ここまで短母趾屈筋の役割を見てきましたが、
この筋肉の重要性は 単独では完結しません。
理由はひとつ。
足は“地面に置かれた手”として設計されているからです。
私はこれを
Hand-Standing理論 と呼んでいます。
手と足は、役割が反転した同一構造
手を思い浮かべてください。
- 指で物をつかむ
- 指先で微調整する
- 親指が安定性を担う
もし親指が使えなければ、
力は逃げ、細かな操作はできません。
これは足でも同じです。
足は
「体重を支えるために逆さに置かれた手」
と考えると、構造が非常に分かりやすくなります。
親指は「支点」、短母趾屈筋は「把持力」
Hand-Standing理論では、
- 親指=母指
- 掌=足底
- 指でつかむ力=地面反力を受け止める力
として捉えます。
このとき短母趾屈筋は、
「親指で地面をつかみ、支点を固定する筋肉」
に相当します。
つまり、
親指で地面を押せる → 支点が安定する → 足全体で体重を受け止められる
という流れが成立します。
短母趾屈筋が使えない=支点が消える
短母趾屈筋が使われなくなると、
- 親指が浮く
- 支点が消える
- 足が“面”で接地できなくなる
結果として、
- 重心が不安定になる
- 足首・膝・骨盤で代償が起こる
- 姿勢制御が上位へ逃げる
という 構造的連鎖 が始まります。
これは
「筋力が弱いから」ではありません。
支点を作れない構造 になっているだけです。
Hand-Standing理論が示す本質
Hand-Standing理論が伝えたいのは、
「姿勢は体幹で作るもの」
「筋トレで安定させるもの」
という考え方ではありません。
姿勢は、最初に“接地面”で決まる
その最前線にあるのが
親指と短母趾屈筋 です。
次につながる解剖学的テーマ
この視点を持つと、
次の筋肉との関係が自然につながります。
これらはすべて、
Hand-Standing構造が崩れた結果 として説明できます。
まとめ|短母趾屈筋は「Hand-Standingの起点」
短母趾屈筋は、
- 親指を曲げる筋肉 ではなく、
- 地面に対して“つかむ支点”を作る筋肉
です。
Hand-Standing理論では、
ここが すべての始点 になります。
足元の構造を理解することが、
姿勢・歩行・全身バランスを理解する
最短ルートになります。


