足指の解剖学入門⑩ 短母趾屈筋とは?

足指ドクターによる解説

YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗

足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(7万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。日本で初めて「足指外来」を設立。

目次

はじめに

カラダは医学分野と言われますが、整形外科分野の疾患はほとんど「物理学」で説明・解決することができます。私的には「ベクトル」がそのほとんどを占めているように感じています。物理学の原理を整形外科に応用することで、疾患の発生メカニズムや治療法の開発がより科学的かつ効率的に行えるようになります。物理学は、力、エネルギー、運動などの基本原理を通じて、生体力学や運動学を解明できる面白い分野です。

足の解剖学(筋肉編)も序盤まで来ましたが、まだまだ重要な情報がたくさんありますので、最後までご覧いただければと思います。この記事では、短母趾屈筋の解剖学的特徴や機能、重要性について詳しく解説します。母趾屈筋の働きを理解し、そのケアやトレーニング方法を学びましょう。

短母趾屈筋とは?

短母趾屈筋(たんぼしくっきん、Flexor Hallucis Brevis)は、足の親指(母趾)を曲げる筋肉です。この筋肉は足の裏に位置し、短趾屈筋と同じで、歩行や走行、バランスを取るときに非常に重要な働きをしています。「地面をつかむ」とか「しっかり踏ん張る」という時に使う筋肉ですね。

豆知識

筋肉は基本的に、収縮する(ちぢむ)ことで関節を動かしています。短趾屈筋は、「踵に近い骨」と「親指の付け根」にくっついている筋肉。わかりやすく言えば、踵のほうから筋肉を引っ張ることで親指の関節を曲げていることになります。

どこにあるの?

短母趾屈筋は、足の裏にあります。この筋肉は、足の親指の骨につながっていて、親指を曲げることができます。

専門家向け

【起始】

・立方骨(りっぽうこつ、Cuboid bone)
・外側楔状骨(がいそくけつじょうこつ、Lateral Cuneiform bone)
・内側楔状骨(ないそくけつじょうこつ、Medial Cuneiform bone)

【停止】

母趾の基節骨(きせつこつ、Proximal Phalanx)の底面

【作用】

短母趾屈筋は、母趾を曲げる動きを助けます。これにより、地面をしっかりと踏みしめることができます。

つまり、この筋肉は足指に付着していますよ、ということです。

どんな役割をしているの?

短母趾屈筋の仕事は、親指を曲げることです。これにはいくつかの重要な役割があります。

力を入れるとき:階段を上るときやジャンプするときなど、親指を強く曲げることで力を発揮します。

歩くとき:親指を曲げることで、地面をしっかりと蹴り出すことができます。

バランスを取るとき:立ったり歩いたりするときに、足の指をうまく使ってバランスを取ります。

なぜ大切なの?

短母趾屈筋は、歩くときに親指を曲げて地面をしっかりと押すのを助けます。これによって、安定して前に進むことができます。短趾屈筋と同じで、しっかりと踏ん張れるので、正しい姿勢で立つことができ、転びそうになってもグッと耐えることができるのはこの筋肉のおかげなんです。

簡単にまとめると

場所:足の裏
仕事:親指を曲げる
大事な理由:歩くとき、バランスを取るとき、力を入れるときに必要

短母趾屈筋は、毎日の生活で足を使うときにとても大切な役割を果たしています。この筋肉がしっかりしていると、歩くのも走るのも上手になりますよ。

短趾屈筋の筋力低下

短母趾屈筋(たんぼしくっきん)の筋力が低下すると、足や歩行にいくつかの問題が発生することがあります。

歩きにくくなる

短母趾屈筋が弱くなると、足の指をうまく曲げられなくなります。これにより、地面をしっかりと押すことができなくなり、歩くのが不安定になります。特に、長い距離を歩くと疲れやすくなります。

バランスを取るのが難しくなる

足の指を使ってバランスを取るのが難しくなり、立っているときや歩いているときに転びやすくなります。特に、不安定な場所や滑りやすい場所では危険です。

階段を上るのが大変になる

短母趾屈筋が弱くなると、階段を上るときに足の指で力を入れるのが難しくなります。これにより、階段を上るのが大変になり、疲れやすくなります。

足の形が崩れる

短母趾屈筋が弱くなると、足のアーチ(足の裏のカーブ)が崩れやすくなります。これにより、足が平らになってしまう「偏平足(へんぺいそく)」になりやすくなります。偏平足は、歩くときに足が疲れやすくなったり、痛みが出たりすることがあります。

足の指が変形する

短母趾屈筋が弱くなると、足の指が変形しやすくなります。例えば、親指が上を向く「浮き指」により、足の筋力が落ちれば「外反母趾(がいはんぼし)」などの問題が起こることがあります。

「浮き指」が短母趾屈筋の筋力低下をまねく

靴下や靴の中で足が滑るようになると、足指を浮かせて滑らないように踏ん張ろうとします。これが長時間・長期間繰り返されると、ずっと足指を浮かせた状態になるため、短趾屈筋が働かず、筋力が低下することもあります。これが短趾屈筋の筋力が落ちる原因です。

浮き指のままでは、歩く時に足指がうまく使えていない状態。筋肉を鍛える前に、適切に足指が使えるように「ひろのば体操」や「YOSHIRO SOCKS」で足指をまっすぐにして鍛えると効率的です。

筋肉を鍛えるには、この筋肉がどこに付着しているかを知ることです。「踵骨と足指」に付着しているので、足指の曲げ伸ばしをすることで鍛えることができる筋肉ということです。つまりは、歩く時に足指でしっかりと地面を蹴って、踵着地の時につま先がしっかりと上がっていること。1日6,000歩ほど歩けば、片足3,000回のトレーニングになります。

セルフチェック

浮き指になると、短母趾屈筋の筋力が落ちて、足の筋肉が思うようにつかなくなります。まずはグーとパーができるかチェックを行いましょう。

グー(短母趾屈筋の筋力チェック)

短母趾屈筋の筋力が落ちていない人は、足指の「グー」がスムーズにできます。もしこれができない場合には、短母趾屈筋の筋力が低下していると思ってください。

第3関節までしっかり曲がるかチェック

チョキ(短母趾屈筋の機能チェック)

短母趾屈筋の機能不全による浮き指は、足指の「チョキ:上から下に弾く」がスムーズにできなくなります。もしこれができない場合には、短母趾屈筋の機能が低下していると思ってください。

全ての指が広がるかチェック

短母趾屈筋のエクササイズ

ひろのば体操

短母趾屈筋が硬くなったり機能不全を起こしたら「伸ばす」ことが大切です。そのために「ひろのば体操」というものを開発していまいます。「ここの筋肉を伸ばしているんだな」と意識することで、より効果的にストレッチを行うことができます。1日1回5分を目安にやってみましょう。

ひろのば体操の正しいやり方
このとき伸びているよ

短母趾屈筋は親指を曲げるための筋肉なので、その反対の動きである親指を反らせる動作でストレッチを行うことができます。

YOSHIRO SOCKS

足指や足部の骨格を本来の形状に戻すことで、足裏や足背の筋肉を正常に働かせるために開発したものです。短母趾屈筋が硬くなっても、機能不全を越しても、本来の筋肉の柔らかさ・機能に戻すように作られています。

足指の変形、カラダの歪み、歩行が不安定なのは、靴よりも靴下の影響のほうが大きいため、まずは靴下を変えることをお勧めします。

定期チェック

ひろのば体操を行ったら、定期的に「グー」と「チョキ」をやってみましょう。この筋肉が伸びれば伸びるほど、スムーズに行えるようになるのがわかると思います。

この記事を書いた人

湯浅慶朗のアバター 湯浅慶朗 ひろのば体操の開発者

足指研究の第一人者。理学療法士。病院理事・副院長も歴任。東京大学・国際医療福祉大学と研究を行う。テレビ出演は『NHKガッテン』『NHK BS 美と若さの新常識』『NHK サキどり』『ガイアの夜明け』ほか多数出演、著書は『たった5分の「足指つかみ」で腰も背中も一生まがらない!』(PHP出版)など多数。ハルメクとオシャレな矯正靴を共同開発しています。

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