足指の解剖学入門⑨ 母指内転筋とは?

足指ドクターによる解説

YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗

足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(7万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。日本で初めて「足指外来」を設立。

目次

はじめに

母指内転筋(ぼしないてんきん、Adductor Hallucis)は、足の親指(母指)を内側に引き寄せる重要な筋肉です。この筋肉は、足の裏に位置し、日常の歩行やバランスを取るのに欠かせない役割を果たしています。母指内転筋は、足の横アーチを支えるだけでなく、親指を正しい位置に保ち、外反母趾の予防にも寄与します。

本記事では、母指内転筋の解剖学的特徴や機能、さらにはその重要性について詳しく解説します。母指内転筋の働きを理解することで、足の健康を維持し、歩行や立位の安定性を高めるための知識を深めることができます。日常生活での快適な動作をサポートするために、この筋肉の役割についてしっかりと学びましょう。

母指内転筋とは?

母指内転筋(ぼしないてんきん、Adductor Hallucis)は、足の親指(母指)を内側に引き寄せる筋肉です。この筋肉は、足の裏に位置し、歩行やバランスを取るのに重要な役割を果たしています。

豆知識

筋肉は基本的に、収縮する(ちぢむ)ことで関節を動かしています。虫様筋は、「足裏の腱」と「足指の根もと」にくっついている筋肉。わかりやすく言えば、足裏のほうから筋肉を引っ張ることで足指を曲げる動作を行います。

どこにあるの?

母趾内転筋は、足の裏側にあります。足の親指を内側に引っ張る力を持っていて、2つの部分に分かれています。

  1. 斜頭(しゃとう、Oblique Head)
    • これは、足の中足骨(ちゅうそくこつ、Metatarsal bones)と呼ばれる骨から始まります。
  2. 横頭(おうとう、Transverse Head)
    • これは、足の付け根の関節(かんせつ、Joints)から始まります。

両方の部分は、足の親指のつけ根の骨(きせつこつ、Proximal Phalanx)にくっついています。

専門家向け

【起始】

斜頭(しゃとう、Oblique Head)
起始:第2~第4の中足骨(Metatarsal bones)、および足底腱膜(Plantar Aponeurosis)

横頭(おうとう、Transverse Head)
起始:第3~第5の中足趾節関節(Metatarsophalangeal joints)の関節包

【停止】

母指の基節骨(きせつこつ、Proximal Phalanx)の基部の内側面

【作用】

母指の内転(ないてん)

つまり、この筋肉は足指に付着していますよ、ということです。

どんな役割をしているの?

親指を内側に引き寄せる:この筋肉は、足の親指を他の指に近づける動きを助けます。これによって、親指が正しい位置に保たれます。

足の安定性を保つ:母趾内転筋は、足のアーチを支えて、歩いたり立ったりするときにバランスを取るのに役立ちます。

なぜ大切なの?

歩行のサポート:母指内転筋がしっかりと働くことで、親指が正しい位置に保たれ、歩行が安定します。
バランスの維持:足の横アーチを支えることで、立った時や歩く時のバランスを取るのに役立ちます。
外反母趾の予防:母指内転筋が弱くなると、親指が外側に曲がりやすくなり、外反母趾(がいはんぼし)の原因となります。

簡単にまとめると

母指内転筋の場所:足の裏に位置し、母指の基節骨に付着
主な役割:母指を内側に引き寄せる(内転)、足の横アーチを支える
重要性:歩行の安定性、バランスの維持、外反母趾の予防に重要

母指内転筋は、足の健康と機能を維持するために非常に重要な筋肉です。日常生活での歩行や立位のバランスを保つために、母指内転筋を強化し、健康を保つことが大切です。

母指内転筋の筋力低下

靴や靴下の中で足が滑ると、母指内転筋の筋力が低下し、いくつかの足の問題や不調が発生する可能性があります。

バランスの低下

母指内転筋が弱くなると、足の親指を正しい位置に保つ力が弱まります。親指がしっかり地面を押せなくなるため、歩くときのバランスが取りにくくなります。これにより、歩行が不安定になり、転びやすくなります。

足のアーチの低下

母指内転筋は足のアーチを支える筋肉の一つです。筋力が低下すると、アーチが崩れやすくなります。足のアーチが低下すると、偏平足(へんぺいそく)になりやすくなり、足全体にかかる負担が増えます。これにより、長時間歩くと足が痛くなることがあります。

足の疲労と痛みの増加

足の親指がうまく機能しなくなると、他の筋肉や関節に余計な負担がかかります。足が疲れやすくなり、特に長時間立っていたり歩いたりすると痛みが増します。

姿勢が悪くなる

母指内転筋の筋力が低下すると、扁平足になり、かかと重心→骨盤の前傾・後傾→猫背・反り腰→ストレートネック→口呼吸・低位舌・顎関節症などに移行します。

セルフチェック

母指内転筋の筋力や機能が落ちると、足の筋肉が思うようにつかなくなります。まずは足で指パッチン(チョキ)ができるかチェックを行いましょう。

チョキ(母指内転筋の筋力・機能チェック)

母指内転筋の筋力や機能が落ちていない人は、足指の「チョキ」がスムーズにできます。足指パッチンが音が出るくらいにできない場合には、母指内転筋の筋力が低下していると思ってください。

小指の第3関節までしっかり曲がるかチェック

母指内転筋のエクササイズ

ひろのば体操

母指内転筋の筋力低下や機能不全になったら「伸ばす」ことが大切です。そのために「ひろのば体操」というものを開発していまいます。「ここの筋肉を伸ばしているんだな」と意識することで、より効果的にストレッチを行うことができます。1日1回5分を目安にやってみましょう。

ひろのば体操の正しいやり方
このとき伸びているよ

母指内転筋は親指を閉じるための筋肉なので、その反対の動きである親指を広げる動作でストレッチを行うことができます。手の指を足の指の間に入れる動作の時ですね。

YOSHIRO SOCKS

足指や足部の骨格を本来の形状に戻すことで、足裏や足背の筋肉を正常に働かせるために開発したものです。母指内転筋の筋力低下や機能不全で親指が動きにくくなっても、本来の足指の動きに戻すように作られています。

足指の変形、カラダの歪み、歩行が不安定なのは、靴よりも靴下の影響のほうが大きいため、まずは靴下を変えることをお勧めします。

定期チェック

ひろのば体操を行ったら、定期的に「グー」と「チョキ」をやってみましょう。この筋肉が伸びれば伸びるほど、スムーズに行えるようになるのがわかると思います。

この記事を書いた人

湯浅慶朗のアバター 湯浅慶朗 ひろのば体操の開発者

足指研究の第一人者。理学療法士。病院理事・副院長も歴任。東京大学・国際医療福祉大学と研究を行う。テレビ出演は『NHKガッテン』『NHK BS 美と若さの新常識』『NHK サキどり』『ガイアの夜明け』ほか多数出演、著書は『たった5分の「足指つかみ」で腰も背中も一生まがらない!』(PHP出版)など多数。ハルメクとオシャレな矯正靴を共同開発しています。

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