はじめに
こんにちは、足指研究家の湯浅慶朗です。
足指のトラブルを調べていくと、多くの人が「足指が浮いている」という共通した状態に行き着きます。
外反母趾、内反小趾、寝指、屈み指──名称は違っても、足指が地面に適切に接していないという点では共通しています。
この「浮き指」という状態を構造的に考えるうえで、必ず理解しておく必要がある筋肉があります。
それが 長母趾伸筋 と 長趾伸筋 です。
これらは「足指を上に持ち上げる筋肉」です。
一見すると、歩行中につまずかないために必要な、良い筋肉のように思えるかもしれません。
しかし私は、2006年から足指を専門に診てきた中で、
これらの筋肉が“使われすぎる構造”こそが、浮き指の出発点になる
という事実を、何度も目にしてきました。
この記事では、
「長母趾伸筋・長趾伸筋が悪い」のではなく、
なぜこの筋肉が働き続ける状態が生まれるのか
その構造を、できるだけ平易な言葉で説明していきます。
長母趾伸筋とは何か
長母趾伸筋とは、ふくらはぎの前側から足の親指につながる筋肉です。
役割はシンプルで、親指を上に引き上げることです。
歩行中で言えば、
つま先が地面に引っかからないように、足指を持ち上げる働きを担っています。
どこに付着しているのか
- ふくらはぎ(腓骨と下腿骨間膜)から始まり
- 足首を越えて
- 親指の先まで伸びています
つまりこの筋肉は、
足首の動きと、親指の位置を同時にコントロールする構造を持っています。
長趾伸筋とは何か

長趾伸筋は、長母趾伸筋とほぼ同じ位置関係にあり、
親指以外の4本の指(第2〜5趾)を上に持ち上げる筋肉です。
こちらも役割は同じで、
足指を地面から離す方向に引く筋肉です。
本来、これらの筋肉は「一時的に働く」もの
重要なのはここです。
長母趾伸筋・長趾伸筋は、
常に働き続けるための筋肉ではありません。
歩行周期で言えば、
- つま先が地面から離れる瞬間
- 次の一歩でつまずかないための一瞬
この短い局面で働く筋肉です。
ところが実際の臨床では、
この筋肉が 常に緊張し続けている足 を多く見かけます。
なぜ、伸筋が働き続けてしまうのか
理由は筋トレ不足ではありません。
構造の問題です。
足が「滑る環境」に置かれている
- 靴の中で足が前後に滑る
- 靴下の中で足指が安定しない
- 指で地面を押せない
このような環境では、
足は無意識に「引っかからない戦略」を取ります。
その結果、
足指を常に持ち上げておく
という状態が生まれます。
これが、
長母趾伸筋・長趾伸筋が使われ続ける構造です。
浮き指は「結果」であって、原因ではない
多くの人は「浮き指」を見て、
「指が弱い」「筋力がない」と考えます。
しかし実際には逆です。
- 指で支えられない
- 地面反力が入らない
- その結果、指を浮かせるしかない
浮き指は、防御反応として生まれる状態なのです。
Hand-Standing理論で考えると分かりやすい
私はこの構造を説明するために、
Hand-Standing(ハンドスタンディング)理論を用いています。
想像してみてください。

- 手で逆立ちをしている状態
- 指を床につけず、浮かせたままバランスを取る
この状態では、
安定して立ち続けることはできません。
足でも同じことが起きています。
- 足指が地面から浮く
- 支持面が失われる
- 体は不安定になる
その不安定さを補うために、
ふくらはぎ、膝、股関節、体幹へと負担が移動していきます。
伸筋が働き続けると、体はどうなるのか
ここで重要なのは、
「どんな症状が出るか」ではありません。
力の流れがどう変わるかです。
- 足指で地面を押せない
- 重心がかかと寄りになる
- 足首は背屈位で固定されやすくなる
この構造が続くと、
といった状態が、構造的に説明できる形で連なっていきます。
大切なのは「鍛える前に、使える構造を取り戻すこと」
長母趾伸筋・長趾伸筋が硬くなっている足に、
「指を使え」「踏ん張れ」と指示しても、
構造上それはできません。
まず必要なのは、
- 足指が地面に触れられる形
- 指が支点として使える配置
この前提が整ってはじめて、
筋肉は本来の役割に戻っていきます。
まとめ
- 長母趾伸筋・長趾伸筋は「足指を上げる筋肉」
- 本来は一時的に働く補助的な筋肉
- 足が滑る環境では、常に使われ続けてしまう
- その結果として「浮き指」という状態が生まれる
- 浮き指は原因ではなく、構造の結果
- Hand-Standing理論で考えると理解しやすい
足指の問題を考えるとき、
「どの筋肉が弱いか」ではなく、
「どの筋肉が働き続けてしまっているか」
この視点が欠かせません。
次の記事では、
この構造をさらに細かく制御している
短母趾伸筋・短趾伸筋 について解説していきます。

