NEVER GIVE UP
——回復への一歩をあきらめないあなたへ
脊髄損傷で損なわれた神経そのものを医学的に“元どおりに治す”方法は、現時点では確立されていません。
それでも、回復への道が閉ざされたわけではありません。
人には本来、どんな状態からでも前に進もうとする力が備わっています。
「もう一度、自分の足で立ちたい」「歩きたい」という思いは、その力を引き出す大きな原動力になります。
実際に、多くの方が 生活環境の見直し・足元のケア・身体への適切な刺激 を積み重ねることで、少しずつ体の反応が変わっていく体験をされています。
- 足裏の感覚が以前よりわかりやすくなる
- 筋の反応が変わり、動きが出やすく感じられる
- 立つ・座るなどの動作が安定してくる
こうした変化は、医学的に“治る”と表現できるものではありませんが、身体の順応性や可塑性(変化する力)が働いている可能性があります。
どんなに小さな変化でも、それは確かに「前に進んでいる証」です。
あなたの回復の一歩は、今日から始めることができます。
脊髄損傷からの回復例
——現場で実際に寄せられた「本人の声」をもとに構成しています。
以下は、私がこれまで関わってきた方々からいただいた「当時の体験談」をもとに再構成したものです。
いずれも個人の感想であり、回復には個人差が大きいこと、また脊髄損傷は多因子で経過が大きく異なることを最初にお伝えしておきます。
医学的な“治る・改善する”という意味ではなく、
「こうした変化を感じた方もいる」という生活上の変化の記録として読んでください。
① 寝たきり・完全麻痺から「自分の意志で立ち上がれた」と語った74歳男性の例
(胸髄損傷 T5・要介護4)
ある74歳の男性は、胸髄損傷(T5)による完全麻痺で、長い間ベッド上で生活していました。

胸郭から下の感覚がほとんどなく、体幹保持も難しい状態で、当時の介護度は「要介護4」でした。
ご本人は当時こう振り返られています。
「最初は自分では何もできず、1日の大半を眠って過ごしていました。」
継続的なリハビリの中で、少しずつ身体の反応に変化を感じたそうです。

- 寝返りがしやすくなった
- 起き上がりの動きに力が入りやすくなった
- 下肢に“反応が戻るような感覚”があった
- 足裏で床を感じる瞬間があった
その後、ご本人の努力もあり、
座る → 立つ → 歩行器で歩く → 杖歩行 → 屋外歩行 と段階的に生活動作が広がったと語られています。

ご本人の言葉:
「まさか自分が再び立てるとは思いませんでした。人生が明るくなったようでした。」

このケースでも、医学的な可逆性を断定することはできませんが、
継続的な刺激・環境・意欲が変化に影響した可能性は考えられます。
② 「もう歩けない」と言われた70代男性が、屋外30分歩行を可能にした例
(胸髄損傷・不完全損傷)
胸髄損傷後、両上肢のしびれと、胸から下の麻痺を抱えていた70代の男性。

当初は歩行器による介助歩行が必要で、ふらつきが強く、1日の多くをベッドで過ごしていました。
当時、医師からは「回復は難しい」という説明があったそうです。
リハビリを継続する中で、ご本人が記録した変化は以下のようなものでした。
- ふらつきが減り、立ち上がりが安定
- 約1ヶ月で知覚の変化を感じる瞬間があった
- 歩行器なしで屋外を30分歩くことができた
- 3ヶ月後には自宅で杖なし歩行が可能に
- 5ヶ月後には100段以上の階段昇降ができた
- 慢性的なしびれや痛みが気にならない日が増えた
さらに7ヶ月後、当時の介護認定が「要介護3 → 自立(非該当)」へと変更されました。

男性はこう語っています。
「医師から“難しい”と言われていたので、自分でも信じられませんでした。」
これはあくまで彼の体験ですが、
環境調整・運動刺激・生活動作の増加が相互に影響し、身体の順応性が働いた可能性が考えられます。
③ 90代男性・頚椎損傷後の寝たきり状態から「歩行器で屋外散歩」まで広がった例
(頚椎圧迫骨折・要介護4)
頚椎圧迫骨折による頚髄損傷で寝たきりになった90代の男性の例です。

当初は要介護4で、自力での姿勢保持が難しい状態でした。
週1回のリハビリを続ける中で、以下のような変化を“本人が感じた”と記録しています。
- 1ヶ月:寝返り・起き上がりが自力で可能に
- 2ヶ月:車椅子でトイレまで移動し、自立で排泄可能に
- 4ヶ月:歩行器での歩行が安定
- 6ヶ月:屋外散歩を楽しめるまでに
周囲のご家族も驚かれた変化でしたが、医学的断定はできません。

しかし、生活の中で身体を使う機会が増えたことが、機能面の変化につながった可能性は考えられます。
一般的なリハビリと湯浅慶朗のリカバリーとの違い
——「残存機能の活用」か、「潜在機能の再教育」か
脊髄損傷に対するリハビリテーションのあり方は、大きく2つに分けられます。ひとつは、現在の日本の医療機関で広く行われている「残存機能を活用する」リハビリ。もう一つは、私が行っているような「機能を再教育する」アプローチです。
一般的なリハビリは「残った機能でどう生活するか」を重視
多くの医療機関では、脊髄損傷後の回復において「失われた機能の再獲得」は前提に置かれていません。
たとえば、次のような考え方に基づいてリハビリが行われています。
- 脊髄は一度損傷すると回復が難しい
- 歩行や運動機能の再獲得よりも「今ある能力で自立を目指す」
- 車椅子操作や移乗、日常生活動作の訓練が中心
- 適応・補完の訓練(ADL維持)が目標
これは、あくまで「現存する状態での生活の質(QOL)を確保する」という医学的・社会的に非常に意義ある方針であり、多くの方にとって必要な選択肢でもあります。
私のリカバリーは「可能性を引き出す神経教育」が軸
それに対し、私のアプローチでは、“動かなくなった部位”を再び動かす可能性に焦点を当てています。
これは“奇跡を起こす”という意味ではなく、近年の神経科学に基づく次のような仮説に基づいています。
- 中枢神経には「可塑性(プラスティシティ)」がある
- 脊髄神経は一部において再編・再接続・再教育されうる
- 適切な刺激を与えることで“再組織化”が進む可能性がある
- 慢性期でも反応が起きるケースがある
なぜ“再教育”が重要なのか
神経再教育とは、神経系に対して意識的に「正しい動きや感覚入力」を繰り返すことで、脳や脊髄のネットワークを再構成する訓練です。
たとえば、
- 足の裏からの刺激で立位バランスを再学習
- 指の開閉や屈伸運動を通じた筋収縮感覚の再教育
- 荷重・非荷重の感覚フィードバック
- 床接地感覚や圧覚を伴う動作刺激
といった内容を、数ヶ月〜年単位で地道に継続していく必要があります。
湯浅式リカバリー施設の特徴
私が提供しているプログラムでは、次のような方々に対応しています。
- 脊髄損傷(完全麻痺・不完全麻痺)の慢性期患者
- 一般的リハビリを受けたが変化が得られなかった方
- 医療機関で「これ以上の回復は難しい」と伝えられた方
- 年齢や受傷期間に関係なく「少しでも変化したい」と望む方
当施設では、運動学・神経科学・臨床現場の融合によるアプローチを採用しています。
- 中枢神経の機能再構築を目的とした刺激設計
- 足指や足底からの入力を重視したアプローチ
- 医師や理学療法士など多職種との連携
- 生活上の動作に直結するトレーニング構成
まとめ:希望を閉ざさないという選択
一般的な病院のリハビリには社会的な意義と制度的制限があります。
一方で、「もう少し何かできる可能性はないか」と希望を持ち続ける方にとって、私たちのような取り組みは新たな選択肢になるかもしれません。
私は、どこまで機能が回復するかを保証することはできません。
しかし、“少しでも変わるかもしれない”という構造的・科学的可能性を信じて、今日も多くの方と向き合っています。
※本記事で紹介している一部の取り組みや回復事例は、過去に実施していたリハビリテーション内容に基づくものです。2025年〜現在、これらのサービスやリハビリプログラムは提供を終了しております。再現性には個人差があり、すべての方に同様の変化が見られるとは限りません。症状や回復の程度については、必ず専門の医療機関にご相談ください。

