はじめに|“膝外側のケガ”は、実は足指のゆがみから始まっているかもしれません
スポーツや日常の動作中に起こる「外側側副靱帯損傷(がいそくそくふくじんたいそんしょう)」は、膝関節の外側を支える靱帯に損傷が生じる外傷のひとつです。一般的には「足をひねった」「横から強くぶつかった」などの瞬間的な力が原因とされますが、実はそれ以前から“損傷しやすい状態”になっていた可能性があります。
私がこれまで10万人以上の足と姿勢を診てきたなかでわかったのは、膝の靱帯損傷が起きる多くの人に、足指の変形や重心の崩れが見られるという事実です。特に、内反小趾や浮き指などによる“外側重心”は、膝の外側靱帯に慢性的なストレスをかけ、結果として外傷時のダメージを受けやすくする土台となってしまいます。
この記事では、一般的な解剖学的な知識に加え、「なぜ膝の靱帯が傷つきやすい状態になるのか?」という構造的な視点から、再発予防やセルフケアにつながるヒントをわかりやすくご紹介します。
外側側副靱帯損傷とは?|膝の外側を支える大切な靱帯
膝関節は、以下の主要な要素で構成されています。


🔹 骨
- 大腿骨(だいたいこつ)
- 脛骨(けいこつ)
- 腓骨(ひこつ)
これら3つの骨が関節を構成し、体重を支えています。
🔹 靱帯
膝を安定させる4つの主な靱帯
- 前十字靱帯(ACL)
- 後十字靱帯(PCL)
- 内側側副靱帯(MCL)
- 外側側副靱帯(LCL) ←今回の主題
🔹 軟骨・滑液包
- 衝撃を吸収し、関節の滑らかな動きをサポート。
🔹 筋肉・腱
- 特にハムストリングスなどが膝の後方を安定させます。
これらの構造がうまく連携して働くことで、膝関節は正常に機能し、体重を支え、歩行や走行などの動作を行うことができます。
外側側副靱帯損傷の特徴と背景


外側側副靱帯(LCL)は、膝の外側に位置する靱帯で、横方向からの衝撃に対して関節を安定させる役割を果たします。この靱帯が損傷すると、以下のような症状が見られます:
- 外側の痛み・腫れ
- 膝のぐらつき・不安定感
- 特定の動作での激しい痛み(例:片足荷重、横移動)
スポーツや転倒などでの直接的な衝撃だけでなく、長年にわたる姿勢や歩き方の崩れがリスク因子となります。
特に「O脚傾向」や「外側重心」のある人は、歩行時に膝外側の靱帯へ過剰な負荷がかかりやすく、軽いねじれや着地のミスでも損傷が起きやすくなっているケースが少なくありません。
なぜ“足指”が原因になるのか?
これは後続の「原因・メカニズム」章で詳述しますが、
- 靴の中で足が滑る → 足指が浮く・曲がる → 外側重心になる → 膝が外に開く(O脚) → LCLにストレスが集中 という流れが、多くの損傷リスクの根本にある構造連鎖です。
症状
外側側副靱帯損傷では、膝の外側に負担がかかることで、次のような症状が見られることがあります。
1)膝の外側に痛みや圧迫感がある
2)膝がぐらつく・不安定に感じる
3)膝の曲げ伸ばしで痛みが出る
4)膝の腫れや内出血が生じることがある
5)歩行・階段・走行時に違和感がある
6)膝の可動域が狭く感じる
7)関節の安定感が低下しているように感じる
スポーツ中の接触・転倒・ひねり動作などをきっかけに発症するケースが多い一方、日常生活でも起こり得ます。
これらの症状が続く、悪化している、歩行に支障がある場合は、まず整形外科などの医療機関で適切な評価を受けることが大切です。
そのうえで、膝の安定性は関節そのものだけでなく、足指・重心・姿勢・靴環境といった全身のバランスと関係することがあります。
外側に体重が偏りやすい歩き方や、滑りやすい靴・靴下、足指の変形がある場合、膝外側に負担がかかりやすくなるため、日常生活の中で足元を見直すことが予防や再発対策のヒントになる場合があります。
症状だけに目を向けるのではなく、「なぜ膝の外側に負荷が集中したのか?」という視点を持つことが重要だと私は考えています。
原因・発症のメカニズム
外側側副靱帯損傷は、膝関節の外側にある靱帯に過度な負荷がかかることで起こるとされています。その背景には、突発的な外力だけでなく、身体全体のアライメント(骨格配列)や足元の構造が関係する場合もあります。
一般的に知られている発生要因
外側側副靱帯への負荷が高まりやすい条件として、以下のような要因が挙げられています
1)激しいねじれや転倒
2)スポーツ中の衝突・方向転換動作
3)足首の不安定性・筋力低下
4)膝関節周囲の骨格異常や歪み
5)長時間の立位や反復的な膝の使用
ただし、同じ運動・同じ環境でも、怪我をしやすい人とそうでない人がいます。その違いには、「足元からの全身アライメントの違い」が関係していると考えられます。
構造的メカニズムの視点
正常な膝のアライメント
膝の外側にある側副靱帯(LCL)は、正しい姿勢=ニュートラルポジションのもとであれば過度な引き伸ばしを受けにくい構造です。骨盤や背骨、足のアーチや足指が整っていれば、膝への負荷も均等に分散されやすく、LCLは安定的に働くことができます。


小指機能の低下 → O脚傾向 → 外側負荷の増大


ところが、足の小指の変形(内反小趾)や機能低下があると、足が外側へ倒れやすくなる「回外足」傾向が生じます。これが結果的にO脚のような骨格配列となり、膝外側への張力が高まるとされます。


足指には、以下のような重心制御の役割があると考えられています。
- 親指:内側への倒れを防ぐ
- 小指:外側への倒れを防ぐ
- 中指群:前方への重心の移動を安定させる
これらのバランスが崩れると、地面からの反力をうまく受け取れず、膝や股関節の軸にねじれが生じることがあります。構造的には、それが外側側副靱帯へのストレスの増大につながるとする見方もあります。
足元から膝外側へ伝わる力の流れ(例)
- 靴の中で足が滑る → 小指の機能不全 → 回外足へ
- 回外足 → O脚傾向 → 膝外側に引っ張る力が増大
- 膝がねじれたまま運動 → 外側側副靱帯にストレス集中
こうした流れは、目に見えづらい構造の変化として蓄積されていくため、「なぜ同じ動作で片方の膝ばかり痛めるのか?」といった疑問のヒントになることもあります。
内反小趾だけでなく、「外反足(がいはんそく)」という踵の傾きにも注意が必要です。

外反足では、踵が内側に倒れ、下腿(すねの骨)が外側へ倒れこむことで、O脚傾向が強まることがあります。この影響で膝の外側に捻れ力が加わりやすくなるとする説もあります。


外側側副靱帯損傷のリスクは、足元から始まる姿勢の崩れや膝のアライメントの乱れと密接に関係していると考えられています。日常的な歩行や靴・靴下環境によっても足指の機能が変化するため、膝だけに注目するのではなく、「全身の構造の連鎖」に着目する視点が、再発予防やカラダづくりのヒントになるかもしれません。
セルフチェック|膝の不安定感や足元の変形、見落としていませんか?
外側側副靱帯損傷は、膝外側にある靱帯がストレスを受けた状態です。日常的な動きや姿勢のクセが関係している場合もあるため、まずはセルフチェックで「身体のサイン」に気づくことが大切です。
以下のような症状に思い当たる場合、膝関節の外側に過度な負担がかかっている可能性があります。
1)運動や歩行時に外側の違和感が長引いている
2)膝の外側に腫れや圧痛がある
3)内出血が起きている(青あざなど)
4)膝が“ぐらつく”“抜けそう”と感じる瞬間がある
5)膝を深く曲げる/伸ばすと痛む
6)階段昇降や片脚立ちで不安定さを感じる
これらは、構造の崩れによって膝外側にテンションがかかり続けているサインかもしれません。
姿勢のセルフチェック|O脚・左右差を“見える化”
- 撮影方法 正面から膝下を撮影します(スマホでもOK)。 撮影時は以下の点に注意してください: - 両足の踵を揃える - カメラは正面からまっすぐ(低すぎず・高すぎず) - 靴下は脱ぎ、素足で確認するのが理想です
- チェック方法 画像に線を引く、もしくは目視で「踵の中心」から垂直線を想定し、その線が「膝の中心」を通っているか確認してみましょう。


✅ 正常:踵の中心からの垂線が膝中心を通る
❌ ズレ:線が膝内側/外側を通る、左右差がある
特に、線が膝の内側を通っている=外反足・O脚傾向がある可能性があります。左右差がある場合、外側荷重が偏っている側の膝にストレスが集中しやすくなるとされています。
足指のセルフチェック|変形・機能不全を見逃さない
膝のアライメントは、実は「足指の使われ方」で大きく左右されます。以下のような変形に心当たりはありませんか?






これらの変形があると、足が外側や内側に倒れやすくなり、膝関節にねじれ力が加わるとする考え方があります。
ダウンロード資料|内反小趾チェックシート
内反小趾を簡易的に確認できるPDF資料をご用意しています。
ご自宅でプリントして、足を乗せてチェックしてみてください。
足指の動き・配置を観察するための研究記録

東京大学・石井直方名誉教授の監修のもと、足指の可動性、足幅、足の配置などの“構造的な変化”を記録しました。
この記録は、東京大学・石井直方名誉教授の監修のもと、日常生活の中で“足指を広げる・接地させることを意識した生活習慣づくり”を行った参加者を対象に、足指の可動性・足幅・足の配置など、構造的な推移を観察したものです。
計測は 8週間〜24ヶ月にわたり、
・足指がどの方向へ動きやすいか
・指の並びがどの程度そろいやすいか
・アーチの状態に関係する足部構造がどう推移するか
といった “動きやすさの傾向” を平均値としてまとめた記録です。
以下は、足部バイオメカニクスに関する観察記録であり、治療効果を示すものではありません。足指が動きやすい環境づくりに関連する“構造的特徴の推移”を記録したものです。
外反母趾角
開始時の外反母趾角は19.1°
8週間後の外反母趾角は12.3°
8週間目の平均値は、開始時と比べて、外反母趾角が平均6.8°変動する傾向が平均値として確認されました。
※開始前と24ヶ月目の平均値の差
※グラフは観察記録における平均値の推移です。

足指が動きやすい体をつくる日常ケアと環境の整え方
足指が使いやすい環境を整えるためには、次のようなケアが役立つことがあります。
- 足指をゆるやかに反らすストレッチ
- 靴の見直し
- 足元の圧迫を避け、動きやすさを保つ工夫
1|足指をゆるやかに反らすストレッチ
ひろのば体操は、足指の屈筋・伸筋、足底の筋・腱の滑走(すべり)を促し、
“動かしやすい状態を目指すためのストレッチ”として取り入れられる方法です。
2|靴の見直し
(足指の動きを妨げない設計を選ぶ)

靴の構造が足に合っていない場合、靴下やセルフケアの効果を実感しにくいことがあります。特に、足指の動きを妨げるデザインは避けたいところです。
推奨される靴の特徴としては、
- トゥスプリングが小さい
- つま先が圧迫されにくい構造
- 屈曲点がMP関節と一致
- 靴底にねじれを防ぐシャンク入り
- ヒール差は2cm以下
などが挙げられます。

3|“小股歩き”で自然な足指運動を引き出す
大股で歩こうとすると、接地の瞬間に足指が十分に働く前に体重が移動し、屈筋に頼った“つかむ・曲げる”動作が増えやすくなります。
これに対して、小股歩きは、
- 足を骨盤の真下に落としやすい
- 足裏全体でフラットに着地しやすい
- 足指がまっすぐ伸びたまま接地しやすい
という特徴があり、自然な足指の使い方を引き出しやすくなります。
アムステルダム自由大学・Hak ら(2013)は、健常成人の歩行を解析し、ストライド長を短くすることは後方の安定性を高め、ストライド頻度を増やすことは左右方向の安定性を高める傾向があると報告しています。(参考:Hak et al., 2013, PLoS ONE)
4|室内履きと滑り対策:足指変形の環境要因を断つ
スリッパや草履など「滑りやすい履き物」は、歩行中に足がズレないよう無意識に指を屈ませてしまい、外反母趾・内反小趾・屈み指・浮き指・寝指の一因になることも。






- 室内では極力スリッパをやめ、滑らない床マットや5本指ソックスを活用
- 足元の冷え対策にはレッグウォーマーを併用
- スリッパ代わりの“滑らない室内用シューズ”も有効

足元環境を整えるための生活用品という考え方
日常生活で足指を使いやすい状態をつくるためには、足が滑りにくく、過度に締め付けない素材を選ぶことが重要です。
とくに次のポイントは、足元環境づくりで注目されます。
- 摩擦による“滑走の抑制”
- 足指の間隔を確保しやすい設計
- 過度な圧迫を避けるバランス
- 足指の動きを妨げにくいテンション
ここからは、私が研究の中で感じてきた「足指が使いやすい環境づくり」に関する具体例として、生活用品の設計思想についてご紹介します。(特定の商品による効果を示すものではありません)
YOSHIRO SOCKS|構造のこだわり

YOSHIRO SOCKS は「足指が使いやすい環境を整える」ために設計された生活用品です。
開発の原点にあったのは、妻から『小指が地面に触れた日は、膝まわりの“力の入り方の感覚が違う”と感じた』と話してくれたことが、私が足指の使い方と姿勢バランスの関係を深く考える大きなきっかけになりました。
私はそこで、「足指が少し使いやすくなるだけで、日常の負担は変わるのではないか」と確信しました。
20年以上、理学療法士として多くの足を診てきた中で、足指が使いにくい“環境”そのものが、立ち方・歩き方・姿勢に大きく影響することを繰り返し実感してきました。
そこで私は奈良の専門工場の職人とともに、糸の太さ・密度・張力・摩擦・圧力・縫製角度まで細かく検証し、足指を動かしやすい“環境づくり”を目指した構造を追求しました。
YOSHIRO SOCKS の主な構造
(5つのこだわり)
1|日本製(専門工場による精密なものづくり)

立体縫製・編み立て・染色・検品のすべてを国内で一貫管理し、±1mmのズレも許さない職人技で仕上げています。
細かいテンション差が履き心地に影響するため、国内生産にこだわっています。
2|高密度(髪の毛の約20分の1の繊維)

700nm(ナノレベル)の極細繊維を高密度で編成。足裏に吸い付くようなフィット感を生み、靴の中で足が滑りにくい環境をつくります。
“滑らない構造”は、足指が動きやすい下地になります。
3|極薄(約2mmでも安定する薄さ)

靴内のかさばりを抑え、素足に近い感覚で足と靴が一体になりやすい設計です。
薄くてもヘタれにくいのは、繊維と密度のバランスによるものです。
4|高耐久(長期間使える繊維強度)
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特殊繊維と高密度の編み構造により、日常使用でも伸び・ヨレが起こりにくい強度を確保。
毎日履く生活用品としての耐久性を重視しています。
5|足指が広がりやすいフォルム(扇形の足に基づく設計)
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YOSHIRO SOCKSは、靴を履かずに生活する人々の足を分析した研究で示される、“まっすぐ伸び、前方へ扇状に広がる”本来の足の形を参考に設計されています。
一般的な五本指ソックスとは異なり、母趾から小趾へ向かう “本来の扇形ライン” を意識した立体的な形状に仕上げています。
一部の研究では、摩擦係数が低い靴下ほど靴内での滑り(relative sliding)が増える傾向が指摘されています(2006, 2021, 2023 など複数研究)。

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