変形性膝関節症の誤解——「軟骨のすり減り=痛み」ではない
最新研究が否定する「すり減り神話」

膝が痛いと、まず医師は「軟骨がすり減っている」と言います。しかし実際には、軟骨の状態と痛みの強さが必ずしも一致しないことが、多くの研究によって報告されています。
ボストン大学のフラミンガム研究(Guermazi et al., 2012)では、膝痛がないにもかかわらず、MRIで関節異常が認められた被験者が89%に上ったと報告されています。この研究は、「構造異常=痛み」ではないという事実を明確に示した重要な論文です。
無症状の中高年を対象としたCulvenorらのメタ解析(2019年、グリフィス大学)では、40歳以上の膝関節においても、症状がないにもかかわらず約19〜43%にMRI上の変形性膝関節症の所見(軟骨損傷・骨棘・骨髄病変など)が認められたと報告されています。この研究は、「画像所見=痛み」ではないという臨床現場の現実を、系統的レビューで裏付けた重要な報告です。
Egloffら(2012年、スイス・バーゼル大学病院)のレビュー論文では、関節症の発症メカニズムは「軟骨の摩耗」だけでは説明できず、筋・靱帯・骨格のアライメント異常と機械的ストレスの連鎖こそが本質的な原因であると示されています。とくに、足部からの荷重連鎖が膝関節に及ぼす影響を明確に指摘しています。
検査と症状が一致しない理由(MRIと疼痛の乖離)
・画像では骨棘や軟骨損傷があっても、痛みをまったく感じていない人がいる
・逆に、画像上は異常がないのに、強い痛みを感じている人も多い
これは、痛みの本当の原因が「骨や軟骨」ではなく、筋肉や神経の炎症、姿勢の崩れ、そして足指の変形や足指の機能不全にある可能性を示唆しています。
足指の変形がなぜ膝痛を引き起こすのか?【逆立ち理論で解くメカニズム】
足指の構造とバランス調整の役割
人は立っているとき、重心を細やかに調整しています。その微調整の主役が「足指」です。


たとえば、親指は重心が内側に倒れるのを防ぎ、小指は外側へ倒れるのを防ぐ役割を持ちます。これらが機能しないと、膝や股関節、腰で無理に支えるしかなくなり、そこに痛みが発生します。
「手の逆立ち理論」で考える足指の重要性

私はこれを「手の逆立ち理論」と呼んでいます。逆立ちをするとき、手の指をしっかり開かないとバランスが取れず、倒れてしまいますよね。足も同じ。足指がしっかり伸びて開いていない状態では、人はまっすぐに立てないのです。
「あおり歩行」の動作解剖と足指の役割
歩行には以下の4つの順序があります。
- かかと着地
- 小指側(外側)へ体重移動
- 中央の指へ体重移動
- 親指で地面を蹴る

この順序の中で、小指・親指が使えないと、重心が左右にぶれて膝がねじれるようになります。これが、膝痛の根源なのです。
小趾/母趾の変形と回外足・回内足の関係




- 親指の変形(外反母趾)があると、体重を内側で支えられず「回内足」に → X脚になりやすく、膝の外側に痛み
アメリカのStatPearlsに収載されたKhan & Kwon(2023)のレビューでは、小趾の変形が、屈筋腱の過緊張や荷重の不均衡、外旋変位と関係し、重心バランスに悪影響を与えることが明らかにされています。さらに、変形が進行すると関節の拘縮や構造変位が“固定化”し、可逆性の低い状態へと移行するリスクがあるとされています。
Khan, M. A., & Kwon, J. Y. (2023). Fifth-Toe Deformities. In StatPearls. StatPearls Publishing.
回外足→O脚→内側痛、回内足→X脚→外側痛
O脚・X脚は「骨の形」ではなく、「足指の支えの崩れから起きるアライメントの異常」です。
内側・外側どちらに偏っても、それを戻そうとする筋肉に過剰な負担がかかり、炎症=痛みが生じます。
ドイツ・エアランゲン大学のBetsch氏ら(2011)の研究では、足部の位置や荷重分布を変えるだけで、骨盤の傾斜や回旋といった上位アライメントに有意な変化が生じることが示されています。
これは、足のわずかな位置変化が骨盤や脊柱にまで影響を及ぼす「運動連鎖(kinetic chain)」の代表的な例であり、膝関節のねじれや痛みにも直結する可能性を示唆しています。
浮き指/かがみ指→反張膝/膝前・後痛

- 浮き指:かかと重心になり、膝を反らす(反張膝)→膝裏の痛み

- かがみ指:ブレーキが常にかかっており、膝が曲がり、太もも前の筋肉が過剰使用→膝前の痛み
間違った靴・靴下が「膝痛の土台」を壊す
滑る靴下とチューブソックスの問題
市販されている靴下、特に綿やシルク素材の靴下には、「シルケット加工(マーセライズ加工)」という光沢と滑らかさを出す加工が施されていることが多く、これが靴の中で足が滑りやすくなる主因になります。さらに、こうした靴下は吸湿性に優れていてもグリップ性能が著しく低下し、歩行時に足指が踏ん張れず、かがみ指や浮き指の原因になります。

また、足の指を個別に覆わないチューブ型ソックス(筒状の靴下)は、4~9gf/cm²前後の横圧が足指にかかることが報告されており、足指を物理的に押し潰し、足趾の可動性や血流を阻害します。
この“圧迫”の影響を可視化するために、私は輪ゴムを使った簡単な実験を行いました。


足の指の付け根あたりにチューブソックスのように輪ゴムを巻き、圧迫環境を再現した上で、被験者に片足立ちのバランステストを行ってもらいます。輪ゴムが足指の自由な動きを制限し、接地反応が遅れ、重心のコントロールが乱れる様子が確認できます。
この実験では、輪ゴムの張力を調整することで、靴下による圧迫の物理的影響を定量的に模倣しており、「わずかな圧でも足指機能を著しく妨げる」ことが視覚的にわかります。
つまり、チューブソックスが無意識のうちにバランス機能や筋膜の柔軟性を損なっている可能性があることを示しているのです。
2. 「滑らない靴下」で筋活動を誘導する
ネブラスカ大学のDai氏らが発表した論文では、靴下の摩擦が低いと、足底–靴下–インソールの界面でズレ(relative sliding)が増加し、剪断応力が減少することで、足部が安定せず筋活動も低下すると報告。
ノースカロライナ州立大学のTiell氏らの研究では、摩擦係数と靴下素材の剛性が、足・靴・靴下の接触力学に与える影響を多体動力学モデルで解析しています。その結果、摩擦が低すぎる靴下は、足の滑動を増やし、接触面に不利な応力がかかる可能性が示されました。
ドイツ・ケルン体育大学のFriedl氏らの研究では、高摩擦性の靴下を着用した条件では、運動中の足部の滑りが大きく減少したと報告されています。逆に滑りやすい靴下は、足指の安定性を損ないやすいという結果が得られました。
Friedl M, et al. (2023). High-friction socks reduce foot sliding during dynamic tasks.
これらの知見からも、滑りにくい靴下環境こそが、足指の機能回復や変形予防にとって極めて重要であることがわかります。
摩擦が低い靴下では、足が靴の中で「前後左右」にズレ続けるため、足指が滑り止めとして常時緊張し、かがみ指や浮き指、内反小趾・外反母趾の進行、さらには足底筋膜炎や膝痛にも繋がる可能性があります。

逆に、高摩擦の靴下=足が靴の中でブレず、姿勢や重心が安定し、足指機能が発揮されやすいということになります。
柔らかすぎる靴/かかとが固定されない靴の弊害

- 踵が固定されないスリッパ・サンダル
- クッション性がありすぎて踏ん張れない靴
- アーチを過剰にサポートするインソール
これらはすべて、足指機能を妨げ、膝の痛みを悪化させます。
カナダ・マギル大学のRobbinsらの研究では、高価格帯のスポーツシューズの広告メッセージが「衝撃吸収性が高い」という誤解を与え、逆に着地衝撃が強くなるという結果が報告されています。これは、クッション性が高すぎる靴が“安心感”を与えすぎることで、本来備わっている衝撃回避行動(姿勢反応)を抑制する可能性を示唆しており、靴の設計と使用者の行動心理が密接に関係していることを示しています。
Tiell M, et al. (2021). Effect of frictional coefficients and sock material on shoe-sock-foot contact mechanics: a finite element study. North Carolina State University.
変形性膝関節症のタイプ別・足指との因果関係まとめ
痛む場所と足指の変形のマッピング
| 膝の痛む部位 | 原因となる足指変形 | 関連するアライメント | 備考 |
|---|---|---|---|
| 膝の内側 | 内反小趾・寝指 | 回外足 → O脚 | 内側の筋肉が過剰使用 |
| 膝の外側 | 外反母趾 | 回内足 → X脚 | 外側の筋肉が過剰使用 |
| 膝の前面 | かがみ指 | 膝屈曲維持 → 大腿四頭筋炎症 | 膝前痛・階段昇降時に悪化 |
| 膝の裏 | 浮き指 | 反張膝 → ハムストリングス過緊張 | 膝伸展時に疼痛 |
解剖学的背景と臨床観察
痛みは関節ではなく筋腱付着部や滑液包、腱膜などに起こることがほとんどです。たとえば:
- 膝前面 → 膝蓋腱・大腿四頭筋
- 膝後面 → 腓腹筋・ハムストリングス腱
- 膝外側 → 腸脛靱帯・内側側副靱帯
- 膝内側 → 半腱様筋・半膜様筋・縫工筋・薄筋




これらの部位に「機械的ストレスが繰り返しかかることによる微細炎症」が、慢性痛の本質です。
2週間ほどで“変化の兆し”を感じる方もいる、足指ストレッチ+靴下ケアの実践ステップ
1. ひろのば体操——足指の可動性とバランス感覚を整える基本エクササイズ
私が現場でお伝えしている「ひろのば体操」は、足指まわりの可動域をゆっくり広げ、固まったバランス反応を呼び戻すための非常にシンプルなストレッチです。
変形性膝関節症の方の多くは、足指の変形や「地面をつかみにくい状態」が長期間続いていることが多く、その影響で膝に負担が集中しやすくなります。
体操そのものは難しい動作ではありませんが、“足指が正しい位置に戻ろうとする感覚”を思い出すために、少しだけ丁寧に行うことが大切です。
- 1日5分、朝と夕方の食事前が続けやすい
- 目安は「足指のパー」を30秒キープ
- 小指と薬指の間に手の指がすっと入るくらいが理想的
続けることで、足指が広がる感覚や、地面を捉えやすくなる“兆し”を感じる方もいます。膝を支える土台が整ってくると、立ち姿勢や歩行の安定にもつながりやすくなります。
2. 「滑らない環境」を整える靴下ケア
足指を動かせるようになってきたら、次は**「その状態を日常生活の中で保つ環境づくり」**が欠かせません。
とくに靴下は、素材・摩擦・圧力によって、足指の動きが大きく左右されます。
- 摩擦が低い靴下 → 靴の中で足が前後左右に滑り、足指が踏ん張れない
- 横方向の圧が強い靴下 → 足指が押しつぶされ、広がりにくい
- 指が個別に分かれない靴下 → 指の接地センサーが働きづらい
この「滑り」と「圧迫」は、どちらも足指の機能を低下させ、結果的に膝や股関節に負担が増えやすい環境をつくってしまいます。
3. YOSHIRO SOCKSで整える“滑らない・潰れない”足指環境
YOSHIRO SOCKSは、臨床データと素材設計に基づき、「足指を使いやすい環境」をつくることに重点を置いて開発された5本指タイプの靴下です。
滑りにくい高密度繊維(Neural Matrix™)と特許取得済みの張力設計により、歩行中の前後左右のズレが抑えられ、足指の感覚入力が得られやすい構造になっています。
- 高摩擦繊維による“ズレにくさ”
- 過剰に締めつけない圧力設定
- アーチを上げすぎないテンション管理
履いている間の“安定感の変化”や“指が動かしやすい感覚”を実感する方が多く、ストレッチと併用することで足指の状態を日常生活内でも保ちやすくなります。
4. 小股歩き——膝のねじれと衝撃を抑える歩行習慣
最後に、歩き方です。
私が提案している「小股歩き」は、歩幅をあえて小さく保ち、足裏で“そっと”地面を押して進む歩行法です。
派手さはありませんが、膝へのねじれと衝撃を抑えることを目的とした、理にかなった歩き方です。
- 小股で歩く
- 階段や坂道では足指を意識して使う
- 靴紐をしっかり締める
- 室内では裸足に近い状態で感覚入力を得る
足指が働きやすい状態で歩くことで、膝関節にかかる力の“偏り”が少なくなり、スムーズに前へ進みやすくなります。
実際のケースと観察された変化の例
ここでは、私がこれまでの臨床経験の中で拝見してきたケースの中から、
「足指のケアを続けたことで、日常生活の中にどのような“変化の傾向”が見られたか」
という視点でご紹介します。
いずれも“効果”や“治療”を断定するものではなく、
取り組み方や生活環境によって、感じ方に大きく個人差があることを前提としています。
Hさん(60代女性)のケース
Fさん(70代女性)のケース
注射を続けていたFさんが、足指ストレッチを取り入れて気づいた“身体の変化”とは
Fさんが右ひざに不安を感じるようになったのは、3年前の転倒がきっかけでした。その後、「関節を守るため」として3週間おきにヒアルロン酸注射を受けていましたが、“落ち着く時期と気になる時期を繰り返す”状態が続き、ご本人の中に「このまま歩けなくなるかもしれない」という心配が強くなっていました。
外出の機会も徐々に減り、家の中では手すりや壁を使って移動することが増加。73歳まで仕事を続け、引退後は海外旅行を楽しんでいたFさんにとって、自由に歩けない日々は大きなストレスだったと話されていました。
さらに転倒後のふらつきが続き、念のため受けた脳の検査で軽度の認知機能低下を指摘され、薬の服用を開始。家族全員が「これからどうなるのだろう」と不安を抱える状況でした。
そんな中、昨年10月に娘さんと一緒に私のもとを訪れてくださいました。初めて足を拝見したとき、足指が強く硬くなり、指と指の間に手の指を通すことが難しい状態でした。
そこで、まずは無理のない範囲でできる「ひろのば体操」 を、1日5分だけ毎日続けていただくようお伝えしました。Fさんは非常にまじめに取り組まれ、日々の変化をノートに記録されていました。1か月ほど経つ頃には、立つときの姿勢の感覚に変化を感じる日があったり、「今日はいつもより歩きやすかった」と記録されていたりと、Fさんご自身が“身体の使い方の違い”に気づかれる場面が増えていきました。

※状態の変化には個人差があり、すべての方に当てはまるものではありません。
年末には、壁に背中をつけた際に後頭部が自然に壁に触れるようになり、「こんなふうに立てるのは久しぶり」と笑顔を見せてくださったのが印象的です。当初、正座をしようとしてもお尻が10cm浮いていたのですが、数か月続けた頃には、ご本人のペースでゆっくり正座ができるようになってきました。家の中の移動でも手すりを頼る頻度が少なくなり、散歩の距離も少しずつ伸びていきました。
休日の外出では、杖を「念のために持つだけ」になり、ご本人もご家族も非常に喜ばれていたのを覚えています。現在では週に3回デイケアに通われ、奥様と一緒に旅行の計画を立てられるほど、行動範囲が広がっています。
日々のコミュニケーションが増えたことも影響してか、ケアマネージャーさんからも「表情や会話の反応が明るくなった」という報告があったそうです。
その後、奥様(80代)にも同じ「ひろのば体操」をお伝えしました。ご夫婦で一緒に取り組まれたことで、生活の中に“足指ケアの習慣”が自然と定着し、散歩の時間が楽しみになっているとのこと。「以前は不安だった外出が、今では二人での大切な時間になっている」と嬉しいお話を聞かせてくださいました。
東京大学との共同研究で得られた知見
2020〜2022年にかけて実施した、東京大学・石井直方名誉教授との共同研究では、足指の使い方・歩行速度・姿勢の指標などに、一定の“変化傾向”が見られたという興味深いデータが得られました。

※本データは外来リハビリテーション現場で記録された「主観的な負担感」の推移であり、特定の製品や方法の効果を示すものではありません。
また、足指環境を整える靴下を8週間使用したグループでは、歩行時の不安が軽減したという声や、膝まわりの「負担感」に変化を感じる方もいました。これらはあくまで個々の“体感”であり、製品の有効性を示すものではありませんが、足指環境の変化が姿勢や歩行の安定に寄与する可能性 を示唆する貴重な一次データだと私は考えています。(※医療上の“治療効果”を示すものではありません)
まとめ|痛む場所ではなく「構造」を整えることが大切です
医療の限界と、自分でできる“構造づくり”
変形性膝関節症と診断され、薬・注射・リハビリを続けている方は少なくありません。
しかし多くの場合、膝が痛む「結果」だけを追いかけてしまい、身体の構造そのものにはアプローチできていないことがあります。
膝に痛みが出ていても、その背景には 足指の機能低下・指の崩れ・足元の滑り といった“根本構造”が潜んでいるケースが非常に多いと、私は現場で感じています。
あなたの痛みが“なぜ起きているのか”。
その 本当の原因に目を向けることが、回復の第一歩です。
足指から変える、膝の不安を減らすための第一歩
以下は、膝周りの負担をため込みやすい方が日常で取り入れやすい“足指の環境づくり”です。
・足指をゆっくり伸ばす・広げる習慣をつくる 固く縮んだ足指は、膝にねじれを伝えやすくなります。
・すべりにくい靴下と、正しく合った靴を選ぶ 靴内ですべる環境は、足指の屈曲癖を生み、膝に連鎖します。
・小股で丁寧に歩く(重心を真下に落とす) 歩幅を少し狭くするだけで、膝へのねじれ負担が減ります。
・足指の感覚を“思い出させる”時間をつくる 触れる・動かす・広げる——これだけでも感覚は変わりやすくなります。
何歳からでも、身体の使い方は変えられる
年齢は関係ありません。
足指の環境が整うと、膝だけでなく 姿勢・歩き方・体の使い方 が連動して変わっていきます。
痛みだけを見るのではなく、
身体の“土台”である足指から見直す。
それが、あなたのこれからの毎日を支える“新しい選択肢”になるはずです。

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