足指ドクターによる解説

YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗
理学療法士(Physiotherapist)、足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、ひろのば体操・YOSHIRO SOCKS・ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(10万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。東京大学 石井直方 名誉教授の弟子でもある。

■ O脚の次は、「膝の痛み」を抱えた女性が来院した
以前、妻のO脚が「足指の接地」を意識することで改善した話を紹介しました。

その出来事をきっかけに、僕はより一層、人の「足元」に目がいくようになっていたのです。
そんなある日、関節リウマチと診断され、膝の痛みがひどくて歩けないという女性が来院されました。
医療機関での投薬治療を受けてはいるものの、なかなか痛みは引かず、不安そうな面持ちで椅子に座られていたのを今でもよく覚えています。
■ 足元を見ると…小指が「浮いて」いた
診察室で立っていただいた瞬間、僕はある異変に気づきました。
小指が床に接地していなかったのです。いわゆる「浮き指」です。
さらに、足底圧を測るフットプリントを取ってみると、足指の接地痕が薄く、かかとに強く重心がかかっていることがわかりました。
■ 指を曲げてバランスをとるのは、不安定の証
指が浮いていると、地面をしっかり捉えることができません。
たとえば、逆立ちするときに指を曲げたり丸めたりしていたら、すぐにバランスを崩しますよね? 手指はピンと伸ばしたままの方が安定します。
実は、足指も同じです。足の小指が地面に接地せず、指が曲がっている状態というのは、それだけでバランスが崩れている証拠なんです。
■ 浮き指は、膝・腰・肩にまで負担をかける
足の指でうまくバランスが取れないと、代わりにふくらはぎ・太もも・腰・背中・肩など、上半身の筋肉が“無駄な頑張り”をすることになります。
この「不安定な足元を補う余計な筋肉の使い方」が、やがて膝痛や腰痛、肩こり、そして骨格のゆがみへとつながっていくのです。
■ たった2週間で、膝の痛みがなくなった
その女性には、自宅でもできる**足指の再教育(ひろのば体操・YOSHIRO SOCKS)**を指導しました。
小指の接地感を高めるためのちょっとした意識づけです。
すると2週間後の再診で、「膝の痛みがウソみたいに消えたんです」と笑顔でおっしゃったのです。
フットプリントでも、小指がしっかりと地面に触れていることが確認できました。
■ あなたの足、小指は地面についていますか?
浮き指は、女性に限らず男性にもとても多く見られます。
原因はさまざまで、滑る靴下・脱げやすいスリッパ・合っていない靴・足指を使わない歩き方など、日常に潜んでいます。
家庭でチェックするときは、次のようにしてください。
- はだしでまっすぐ立つ
- 横から足を見て、小指が床に接地しているかを確認
もし浮いているなら、それは足元のSOSかもしれません。
■ 膝の悩みは、実は「足指」から始まっていたのかもしれない
病院で「歳のせい」「体重のせい」と言われてしまった方でも、足元を見直すことで回復の糸口が見つかることが多いと感じています。
僕自身、「小指なんてあまり使わないから関係ない」と思っていた時期もありました。
でも、実際はその小さな一本が、体全体のバランスを支えていたんです。
このような「浮き指と膝痛の関係」についての取り組みは、西日本新聞の紙面でもご紹介いただき、多くの読者の方から反響をいただきました。
足指から始まる健康改善。見落とされがちな“足元”に、これからも注目していただければと思います。
※この記事は、2013年6月12日付の西日本新聞「お茶の間学」欄に掲載された内容を、筆者である湯浅慶朗が加筆・再編集したものです。