はじめに
こんにちは。
足指研究所の湯浅慶朗です。
私は理学療法士として、これまで 10万人以上の足と姿勢 を臨床・研究の現場で見続けてきました。
病院、介護施設、歯科医院、保育園、学校、そして研究の現場。
そのどこでも、ある共通した疑問が私の中から消えることはありませんでした。
「なぜ、治療を受けているのに痛みが消えない人がいるのか」
「なぜ、画像で異常が見つからないのに苦しむ人がいるのか」
逆に、
「なぜ、明らかな変形があっても、痛みを訴えずに生活できている人がいるのか」
この矛盾は、決して特殊なケースではありません。
世界中の研究でも、画像所見と痛みが一致しない例は多数報告 されています。
では、私たちは何を見落としてきたのでしょうか。
その答えにたどり着くまでに、私は長い回り道をしました。
本ページでは、2008年に私自身が発見した「Hand-Standing理論」 について、
その原点・構造・臨床的意味を、発見者本人の視点から体系的に解説します。
なぜ現代医療は「原因」ではなく「結果」を見てしまうのか

医療はこの数十年で大きく進歩しました。
MRI、CT、超音波などの画像診断技術は、身体の内部を詳細に映し出します。
しかし、臨床の現場では次のようなことが日常的に起きています。
・画像では異常がないのに、強い痛みを訴える
・変形がはっきりしているのに、日常生活に大きな支障がない
・同じリハビリを行っても、結果に大きな差が出る
これは「治療が間違っている」という話ではありません。
そもそも、見ている視点が足りていない のです。
多くの場合、私たちは
・痛みが出ている場所
・変形している関節
という “結果” を中心に評価します。
けれど、身体は部分の集合体ではありません。
一か所の不具合は、必ず どこかの構造的な偏り から生じます。
その「偏り」がどこから始まっているのか。
そこが、ほとんど議論されてきませんでした。
人はどうやって「立つ・歩く」を制御しているのか
──筋力ではなく、感覚と構造の話

「姿勢を良くしましょう」
「筋トレをしましょう」
こうした言葉はよく耳にします。
ですが、人は常に筋力を意識して立っているわけではありません。
私たちは、
・無意識に
・瞬間的に
・自動的に
姿勢を調整しています。
この調整を支えているのが、感覚入力と身体構造 です。
とくに重要なのが、
地面と接している唯一の場所――足 です。
足は、体を支える「末端」ではありません。
姿勢制御の起点 です。
足底や足指から入る情報は脳へ送られ、
「今、体がどの位置にあるのか」
「どの方向に傾いているのか」
を無意識に知らせています。
この情報が曖昧になると、
身体は安定しにくくなります。
臨床で見え続けた、ある共通点

年齢も、性別も、診断名も違う。
それでも、身体が安定する人には共通点がありました。
それは、
足指が“使われている”こと です。
形の問題ではありません。
筋力の強さでもありません。
・足指が地面に接している
・広がる余地がある
・伸びる方向を失っていない
この条件がそろうと、
不思議なほど姿勢が安定する人が多く見られました。
この気づきが、決定的になった出来事があります。
Hand-Standing理論の原点
──2008年、逆立ちの「上手い・下手」を分けていた意外な違い

Hand-Standing理論の原点は、研究室でも論文でもありません。
2008年、足指の臨床を続ける中で起きた、ある何気ない出来事 から始まりました。
それは、保育園で行われていた子どもたちの組体操でした。
何気なく眺めていると、
逆立ちが上手な子と、どうしてもフラフラしてしまう子がいることに気づきました。
年齢も体格も大きく変わらない。
それなのに、なぜこんな差が出るのだろう。
筋力の差なのか。
バランス能力の違いなのか。
最初は、そんなふうに漠然と考えていました。
ところが、観察を続けるうちに、ある共通点が目に入ってきました。
手の指 です。
フラフラしている子は、例外なく手の指が閉じていました。
一方で、安定して逆立ちをしている子は、手の指がしっかりと開き、地面を捉えるように使っていたのです。
「もしかして……」
そう思った私は、その日のうちに家に帰り、自分でも逆立ちをしてみました。
すると、すぐに違いが分かりました。
手の指を開いていると、自然に体が安定する。
ところが、指を閉じたり曲げたりすると、フラフラするだけでなく、腕や腰に力が入りにくくなるのです。
これは筋力や運動神経の問題ではありませんでした。
体の「使い方」そのものが変わってしまう感覚 でした。
その瞬間、私はこう考えました。
「これが、足でも起きているのではないか」
手で起きることは、足でも起きている
逆立ちをしているとき、手は体を支える土台になります。
その土台である手の指が閉じてしまえば、支持面は一気に小さくなり、体は不安定になります。
これを、そのまま足に置き換えたらどうなるでしょうか。
足指が屈んでいたり、閉じていたりすれば、
地面を捉える面積は減り、体は安定しにくくなります。
その不安定さを補うために、体は別の方法でバランスを取ろうとします。
・体を前後に傾ける
・膝や股関節を固める
・腰や背中を反らせる、あるいは丸める
これらは「悪い癖」ではありません。
立ち続けるための代償動作 です。
この発想が、後に私が
Hand-Standing理論
と名づける考え方の核になりました。
足指の重要性を確信したのは、妻のO脚だった

実は、足指の重要性そのものを確信したきっかけは、逆立ち理論よりも前にあります。
それは、妻のO脚の変化でした。
小指が地面に触れるように調整しただけで、
脚の内側に力が入り、脚のラインに明らかな変化が見られた。
ただ、その当時の私は、
「なぜ小指が膝と関係しているのか」
を説明できませんでした。
現象は見えている。
でも、理屈が分からない。
この疑問が、2008年の逆立ちの観察と結びついたことで、
ようやく一本の線としてつながったのです。
自分の体で行った、足指一本ずつの実験
理論を思いついたあと、私はさらに確かめたくなりました。
「足指には、それぞれ役割があるのではないか」
そこで、かなり極端な方法ですが、自分の体で実験を始めました。
・小指をセロテープで固定し、使えない状態にする
・親指を人差し指の上に乗せて、セロテープで巻く
・一本ずつ条件を変えて、立ち方や歩き方を確認する
今思えば、無茶なことをしていたと思います。
実際、その過程で膝を痛めて歩けなくなったこともありますし、
腰を痛めて起き上がれなくなったこともありました。
それでも、
自分の体で起きている変化ほど、分かりやすいものはありません。
足指のどれか一つが使えなくなると、
姿勢の安定感がどう変わるのか。
力の入り方がどう変わるのか。
代償動作がどこに出るのか。
こうした積み重ねによって、
足指が単なる「飾り」ではなく、
姿勢制御の中で明確な役割を持つ存在 であることが見えてきました。
Hand-Standing理論は「思いつき」ではない
Hand-Standing理論は、
ひらめき一発で生まれたものではありません。
観察があり、
仮説があり、
検証があり、
そして失敗と代償がありました。
だからこそ、この理論は
「特別な人のための理論」ではなく、
人間の構造として自然に成り立つ考え方 だと、私は考えています。
Hand-Standing理論は、2008年の発見以降、
病院・介護施設・歯科医院・保育園・学校・研究現場などで、
10万人以上の臨床観察を通じて検証され続けてきました。
Hand-Standing理論とは何か
──2008年に発見された身体構造モデル
Hand-Standing理論とは、2008年に私・湯浅慶朗が、足指と姿勢制御の臨床観察を通じて発見した、人が立つ・歩くという動作を「逆立ち」に置き換えて理解する身体構造理論です。
人は逆立ちをするとき、
無意識に手の指を広げ、伸ばし、地面を捉えようとします。
指が閉じていたり曲がっていたりすると、
バランスは一気に崩れます。
これを、そのまま足に置き換えてみる。
・手 → 足
・手首 → 足首
・肘 → 膝
・肩 → 股関節
すると、驚くほど多くの現象が説明できました。
足指が閉じる
→ 支持面が小さくなる
→ 重心制御が不安定になる
→ 膝や股関節が代償的に動く
これは比喩ではありません。
身体制御の構造モデル です。
足指 → アーチ → 重心 → 姿勢 → 不調
──崩れは必ずこの順番で起きる
足には3つのアーチがあります。
そして、そのアーチを支えている筋の多くは足指に付着しています。
足指が使われなくなると、
アーチは 結果として 支えを失います。
アーチが低下すると、
接地面積が変わり、重心は後方へ移動しやすくなります。
重心がかかと寄りになると、
身体は倒れないために代償姿勢を取ります。
・猫背
・反り腰
・骨盤の前後傾
・膝への過剰な負担
これらは、
痛みを生むためではなく、立つために起きている現象 です。
なぜこの視点は、これまで医学から抜け落ちていたのか
理由は明確です。
足指は、
・画像に写りにくい
・数値化しにくい
・評価法が確立されていなかった
そのため、医学の中で主役になることがありませんでした。
これは医療を否定する話ではありません。
手術や注射、薬物療法が必要な場面も確かにあります。
ただし、
原因に触れなければ、再発の可能性は残る
という事実も、臨床が示してきました。
Hand-Standing理論が示す、再発しにくい身体の考え方
この理論が伝えているのは、
「悪いところを直接どうにかする」
という発想から一度離れることです。
不調は 結果。
支える構造が 原因。
足指が自然に使われる環境が整うと、
身体は安定しやすくなる傾向が見られます。
特別な才能は必要ありません。
年齢や性別にも左右されません。
人間の構造として、自然な話 なのです。
まとめ|Hand-Standing理論は、誰のための理論か
Hand-Standing理論は、
特別な人のための理論ではありません。
「なぜ治らないのか」
「何を見落としてきたのか」
その問いに、
足元から答えを示すための考え方 です。
立つこと、歩くこと。
それは訓練以前に、構造の問題です。
この視点が、
あなた自身の身体を見直すきっかけになれば幸いです。

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