足指ドクターによる解説

YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗
理学療法士(Physiotherapist)、足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、ひろのば体操・YOSHIRO SOCKS・ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(10万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。東京大学 石井直方 名誉教授の弟子でもある。
足底筋膜炎の「見落とされている」真実
足底筋膜炎と診断された方の多くが、「ふくらはぎのストレッチをしても治らない」「インソールを入れても再発する」と感じています。なぜでしょうか? その答えは、“筋膜の両端”に注目することで見えてきます。
「朝起きて最初の一歩が痛い」「ストレッチをしても改善しない」「何をしても再発する」――。このように、足底筋膜炎は一見改善しても慢性化しやすく、根本的な原因が見過ごされていることが多いのです。

足底筋膜とは、踵の骨(踵骨)から5本の指の付け根(中足骨頭)にかけて張られている、扇状の線維性組織です。歩行中に土踏まずを支えたり、着地や蹴り出しの衝撃を吸収したりする重要なクッション機構を担っています。
しかし、足底筋膜に痛みが出るということは、この筋膜が“過度に引き伸ばされたり、緊張したり”している状態です。問題は、その筋膜の両端である「踵の骨」と「足指の付け根」に何が起きているのかということです。

病院の検査は「結果」だけを見て治療を開始します。でも本来は、そうなった原因を突き止めて治療をしないと焼け石に水です。
この「足底筋膜の両端」に注目する視点は、実は解剖学やバイオメカニクスの世界でも明らかにされつつある事実です。近年の研究では、足底筋膜は単なる“足裏の腱”ではなく、複数の束に分岐し、アーチ構造や歩行時の力の分散に重要な役割を果たしていることが分かっています。
以下に、足底筋膜の構造・機能・メカニズムを示す代表的な論文を紹介します。
足底筋膜の構造と力学に関する主な研究
論文 | 主な内容 | ポイント |
---|---|---|
Bojsen-Møller et al. (2013)Anatomy and biomechanical properties of the plantar aponeurosis | 偽足標本を使い、足底腱膜の構造(起始・挿入・幅・厚さ)や、第一中足趾節関節(MTP)との関係を解析。 | 踵骨から中足骨・趾へ扇状に張られた構造が、アーチや足底圧に深く関与することを実証。 |
Carlson et al. (2004)Plantar fasciitis and the windlass mechanism: A biomechanical perspective | 足底筋膜が足部アーチを引き上げる「ウィンドラス機構」の中核を担うことを解説。 | 歩行時の蹴り出し・衝撃吸収における足底筋膜の役割を力学的に裏付け。 |
Sichting et al. (2021)Morphology and mechanical properties of plantar fascia in flexible flatfeet | 柔軟な扁平足の足底筋膜を12分割して厚さ・弾性係数を分析。 | 前足部から踵部まで部位ごとに剛性や応力伝達が異なる構造であることを実証。 |
Huang et al. (2018)Plantar fascia anatomy and its relationship with Achilles tendon and intrinsic muscles | 足底腱膜が足底筋・アキレス腱・皮膚などと接続し、感覚受容器とも関連することをMRIで分析。 | 足底筋膜は単体ではなく全身の筋膜連結構造の一部であり、動的制御に関与していることを示唆。 |
このように、足底筋膜は単なる「裏側の線維」ではなく、足指や踵の状態によって常にテンションバランスを調整しながら働いている複雑な構造体です。したがって、筋膜だけを伸ばしても、その両端にある構造(踵と足指)が正常でなければ、炎症や痛みは繰り返されるのです。

整形外科分野は医学というより物理学。薬とか注射では治らないんですよね。
足指の変形が筋膜を「引っ張り続けている」
現代人の足は、靴の中で滑ったり、圧迫されたりすることで、足指が徐々に機能を失い、「寝指」「浮き指」「屈み指」「内反小趾」「外反母趾」といった変形が起こります。
足指が正常な角度から逸脱し、関節が固まっていくと、足底筋膜の付着部が本来の柔軟な可動域を失い、“固定された状態”になります。

その状態で歩くたびに踵骨と中足骨頭の間に強いテンションがかかり、筋膜は毎回「引き裂かれるような応力」にさらされる。これが慢性的な微細損傷と炎症を繰り返し、足底筋膜炎を発症・悪化させていくメカニズムです。
特に「浮き指」の場合、蹴り出しのタイミングで足指が地面に接地しておらず、代わりに足底筋膜とアキレス腱が過剰に引き伸ばされます。これによって“筋膜のばね”としての本来の役割が失われ、かかとへの負担が一点集中してしまうのです。
外反母趾と足底筋膜炎が密接に関連している可能性は、複数の臨床研究でも指摘されています。たとえば、トルコの研究機関による前向き観察研究では、外反母趾の重症度が高くなるほど足底筋膜炎の発症率が有意に高まることが確認されました。

ここ最近は、海外でも足指の変形が見直されてきて、整形外科分野の論文が増えました。時代が追いついた感じがします。
「滑る足」がさらなる悪循環を生む
日常生活において、スリッパやサンダル、かかとの浅い靴、ゆるく履いたスニーカーなどは、靴の中で足が前後左右に滑る原因になります。さらに、綿やシルクの靴下も、摩擦係数が低いため足指のグリップ力を奪います。
足が滑る → 指が屈曲して踏ん張る → 屈筋群が過緊張 → 足裏が硬くなる → 筋膜が伸び縮みできなくなる → 微細断裂 → 炎症、という悪循環が完成します。

とくに靴の中で足が滑る状況が続くと、足指が「止まれ!」の命令で前に折れ曲がり、“浮き指”や“屈み指”のような状態になり、最終的に足の機能全体が崩れていきます。
このような「足の滑り」と「足指の変形」が、実際に足底の応力バランスを崩し、炎症や痛みに繋がる可能性については、いくつかの研究報告でも示唆されています。
とくに、滑り × 変形 × 荷重集中のトリプルコンボが生じたとき、炎症は慢性化しやすくなります。

スリッパやクロックスは私にとって最大の天敵。まだまだ気付かずに履き続ける人がほとんどです。
イギリスのスタッフォードシャー大学によるバイオメカニクス研究(Moayediら, 2023)では、ハンマー趾(趾の関節が屈曲し、足指が曲がったまま固定された状態)があると、足底筋膜にかかる内部応力(テンション)が不均等に分布し、ウィンドラス機構(足趾を反らせてアーチを引き上げる機構)が正常に働かず、筋膜に持続的な過緊張が生じることが報告されています。
このように、足指の変形が足底筋膜の機能や負荷分布に影響を与えるという知見は、他の研究からも多数報告されています。以下に主な文献を整理します。
足指変形と足底筋膜機能に関する研究一覧
論文 | 主な論点 | 足底筋膜との関連性 |
---|---|---|
Jastifer & Coughlin (2020) Biomechanics of Hammertoes | ハンマー趾(屈み指)の発生機序・バイオメカニクス・筋腱バランスに関する包括的レビュー。 | ◯ ウィンドラス機構の破綻が足底腱膜機能の低下に繋がる可能性を理論的に記述。 |
Malhotra et al. (2023) The pathology and management of lesser toe deformities | 小趾変形の病理と臨床マネジメントを包括的に解説。力学的ストレス集中に言及。 | △ 足底筋膜に直接の記載は少ないが、構造変形が荷重転移に影響することから腱膜機能に間接影響ありと読める。 |
Hagedorn et al. (2013) Foot posture and function in relation to foot disorders | 足部のアライメント(扁平足・回内足など)と足障害(筋膜炎含む)の関連性を疫学調査。 | ◯ 足部形態異常が足底筋膜炎の有病率と相関。趾変形の背景要因として活用可能。 |
Bade et al. (1998) Pathomorphology of the hammer toe | ハンマー趾(屈み指)の形態変化と腱の配置異常を記述。関節拘縮や伸筋・屈筋の非対称を解析。 | △ 腱膜に直接触れてはいないが、足底構造全体の筋腱バランス異常に関与。構造的前提として使える。 |
靴下と靴の選び方が症状のカギを握る
多くの患者さんが見落としがちなのが、「靴下」です。

チューブソックス型の一般的な靴下は、足指を包み込むように圧迫するため、常に4g〜9gf/cm²程度の圧力がかかっているとされます。これが長時間続くと、筋や腱の滑走運動が妨げられ、トルク(回旋力)や可動性が大きく低下します。

純綿・シルクだから良いというわけではない。それは私が純綿で作ったソックスを10年間患者様に販売して、臨床で得た知見です。滑ります。
この“圧迫”の影響を可視化するために、私は輪ゴムを使った簡単な実験を行いました。


足の指の付け根あたりにチューブソックスのように輪ゴムを巻き、圧迫環境を再現した上で、被験者に片足立ちのバランステストを行ってもらいます。輪ゴムが足指の自由な動きを制限し、接地反応が遅れ、重心のコントロールが乱れる様子が確認できます。
この実験では、輪ゴムの張力を調整することで、靴下による圧迫の物理的影響を定量的に模倣しており、「わずかな圧でも足指機能を著しく妨げる」ことが視覚的にわかります。
つまり、チューブソックスが無意識のうちにバランス機能や筋膜の柔軟性を損なっている可能性があることを示しているのです。
さらに、滑りやすい靴下では、歩行中の屈筋優位の緊張状態が続き、足指が硬くなり、結果として足底筋膜の可動性が損なわれていくのです。

輪ゴムが足指に与える力はわずか4gf/㎠に満たないです。そんな弱い力でも全身のバランスが崩れるんです。
治療と予防の本質:「足指の再教育」
「足底筋膜炎が何度もぶり返す」「ストレッチを毎日しているのに良くならない」「朝のかかとがいつも痛い」……そんな声が多く寄せられます。
氷や湿布、マッサージ、ストレッチ、インソールなど、対症療法だけでは再発を防ぐことはできません。なぜなら、それらは「結果」へのアプローチであり、「原因」である足指変形へのアプローチではないからです。
本当に必要なのは、足指の可動性・自動運動性・筋出力・トルクバランスを回復させること。これにより足底筋膜の柔軟性と緊張バランスが保たれ、自然なアーチが形成され、再発しない構造が足元から作られるのです。
そのために最も効果的な方法が、ひろのば体操による足指ストレッチと、YOSHIRO SOCKSのような滑らず・圧迫しすぎず・適正トルクを維持する靴下の使用です。
根本改善のための二大アプローチ
① 足指の可動域と筋出力を取り戻す「ひろのば体操」
足指の再教育にもっとも効果的なのが、私が考案した“ひろのば体操”です。これは足指を1本ずつゆっくりと反らすことで、筋膜や腱、関節包の可動性を再構築するエクササイズです。主に下記の筋肉をストレッチしています。




足指の間に手の指を差し込み、ゆっくりと甲側に反らす動作を繰り返すことで、足底筋膜の滑走性を取り戻し、可動性を広げていきます。1日5〜10分、継続することで、2週間ほどで「朝の一歩がラクになった」と感じる方が多くいます。
② 足が滑らない環境を整える「YOSHIRO SOCKS」
足指を動かせるようになっても、靴の中で足が滑っていては再び屈筋が優位となり、かがみ指や浮き指へ逆戻りしてしまいます。

YOSHIRO SOCKSは、独自の特殊素材によって高い摩擦力(摩擦係数2.3N)を実現し、靴下内部での滑走を防止。さらに7.5〜8.5gf/cm²の最適な圧力設計により、足指を適度に分離・支持する設計です。

その結果、歩行時のトルク発生が回復し、足底筋膜にかかる余分なストレスを軽減。姿勢やアーチ、踵への荷重バランスまで改善されるという臨床データも取得しています。

ここまでの摩擦係数が出せるのは唯一YOSHIRO SOCKSのみです。
足底筋膜炎の症状は、「朝が特につらい」「ストレッチしても良くならない」「何度も再発する」など人によってさまざまですが、その多くに共通するのは、“足指の機能不全”と“滑る足環境”です。だからこそ、足指の再教育と滑らない環境づくりの両輪が、根本改善へのカギなのです。
【症例1】40代女性|朝の一歩がつらかった主婦のケース
40代の女性で、「朝の一歩目が針を踏むように痛くて…」と相談に来られた方がいらっしゃいました。家事や買い物のときも痛みが気になり、最近は外出そのものが億劫になっていたそうです。
病院では足底筋膜炎と診断され、湿布とインソールを勧められたそうですが、3ヶ月経ってもまったく変化がなかったとのこと。
私が足指の状態を確認したところ、第2趾と第3趾が浮き指ぎみになっており、軽度の屈み指も見られました。
そこで、ひろのば体操を朝晩2回行ってもらい、滑らず・圧迫しすぎないYOSHIRO SOCKSを日中に履いてもらうことを提案しました。
すると2週間後、「朝の痛みが明らかに減って、普通に歩ける日が増えました」とご報告いただきました。
その後は家の中でも靴下を履き、外出時の靴も滑らないものに変えていただき、再発することなく元気に歩けていると聞いています。

実際、初回時には第2趾〜第4趾が明らかに浮いており、地面に触れていない状態でした。足指の腹がしっかり接地するようになり、指先に力が入るようになったとご本人も実感されています。また、1日4〜5回あった“激痛レベル”の症状が、現在では週1回程度にまで減少しているとのことです。
【症例2】50代女性|1年以上悩んでいた営業職の女性
もう1人は、50代の女性で営業職をされている方でした。1年以上、足底筋膜炎に悩まされ、「立ちっぱなしの仕事が本当につらい」「もう辞めたい」とまでおっしゃっていたのを覚えています。
特に「朝起きてすぐの一歩」「長時間歩いた後」のかかとの痛みが強く、靴を変えてもインソールを変えても改善しなかったそうです。
足を見せていただくと、外反母趾と内反小趾、加えて寝指の傾向もあり、足指のアーチ機能が崩れている状態でした。
ひろのば体操を1日1回、就寝前に行ってもらい、YOSHIRO SOCKSを仕事中もずっと着用。靴のサイズとヒールカウンターの高さも見直しました。
1ヶ月後には「立っている時間がぐっと楽になりました」と喜びの声をいただき、その後も痛みが戻ることなく営業のお仕事を続けていらっしゃいます。
長年改善しなかった症状が、足指と靴下を変えただけで改善する――。このようなケースは本当に多く、私の中でも確信を深めるきっかけとなった出来事でした。

足の接地面が明らかに変化し、靴のサイズがワンサイズ下がり、ヒールの高い靴でも痛みが出にくくなったと喜ばれていました。
客先での立ち姿勢や歩き方を「すごくきれいになったね」と言われたことが、自信にも繋がったそうです。
まとめ
足底筋膜炎の本当の解決は、「足裏」ではなく「足指」にあります。筋膜の一方の端が固まっていれば、もう一方に過剰なストレスがかかるのは当然です。
日常生活の中で、足指が本来持つ可動性を取り戻し、滑らない環境を整えることで、足底筋膜炎の根本改善と再発防止が実現できるのです。
あなたのかかとの痛みは、靴の中で苦しんでいる足指からの悲鳴かもしれません。今こそ、その声に耳を傾けてみてください。