足指ドクターによる解説
YOSHIRO YUASA
湯浅慶朗
足指博士、足指研究所所長、日本足趾筋機能療法学会理事長、ハルメク靴開発者。元医療法人社団一般病院理事・副院長・診療部長。MRC認定歯科医院の顧問の経歴もあり。専門は運動生理学と解剖学。足と靴の専門家でもあり、姿勢咬合治療の第一人者でもある。様々な整形疾患の方(7万人以上)を足指治療だけで治してきた実績を持つ。
はじめに
高血圧になる原因は多くありますが、その中で「猫背」というものがあります。猫背は現代の生活習慣病の一つであり、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用、足指の変形が原因で多くの人々に見られます。このような姿勢の悪さは、単なる見た目の問題にとどまらず、健康に深刻な影響を及ぼすことがあります。その中でも特に注目すべきなのが、最新の研究で明らかにされた血圧への影響です。本記事では、猫背がどのようにして血圧に影響を与えるのか、そして効果的な体操および改善グッズについて詳しく紹介します。
猫背と血圧のメカニズム
1.神経系への影響
猫背になると、首や背中の筋肉が過度に緊張します。この緊張が持続すると、交感神経系が過剰に刺激され、ストレスホルモンであるアドレナリンやコルチゾールの分泌が増加します。これらのホルモンは血管を収縮させ、心拍数を上昇させるため、結果的に血圧が上がります。
猫背になると交感神経が過剰に刺激される理由は、以下のメカニズムによるものです。
1.身体の緊張とストレス反応: 猫背は首や背中の筋肉に過度な緊張をもたらします。この緊張が持続すると、体はそれをストレスとして認識し、交感神経系が活性化されます。交感神経系は「闘争か逃走か反応」を司り、体がストレスに対処するために心拍数の上昇や血圧の上昇を引き起こします。
2.呼吸の変化: 猫背の姿勢では、胸郭が圧迫され、深い呼吸が困難になります。浅い呼吸は体内の酸素供給を減少させ、これにより交感神経系がさらに活性化されます。呼吸が浅くなることで、体はより多くの酸素を取り込もうとし、心拍数と血圧が上昇します。
3.血流の制限: 猫背は、首や肩の血流を制限し、筋肉への酸素供給が不足することになります。これにより、体は再びストレス反応を示し、交感神経系の活動が増加します。血流の制限は、特に脳への血液供給に影響を与え、体がこれを補おうとして交感神経系が過剰に働く原因となります 。
4.姿勢の不均衡: 猫背により体のバランスが崩れると、他の筋肉が過剰に働いてバランスを取ろうとします。この持続的な筋肉の緊張と不均衡は、交感神経系を過剰に刺激し、ストレス反応を引き起こします。長期間の不良姿勢は、交感神経系の恒常的な活性化を引き起こし、慢性的な高血圧や心拍数の増加につながります 。
これらの要因が組み合わさることで、猫背は交感神経系を過剰に刺激し、結果として血圧や心拍数の上昇を引き起こします。したがって、姿勢を改善し、筋肉の緊張をほぐすことは、交感神経系の過剰な活動を抑え、血圧の正常化に寄与します。
2.血液循環の障害
猫背は胸郭の圧迫を引き起こし、呼吸が浅くなります。これにより、酸素の供給が不十分になり、心臓はより多くの血液を送り出すために働く必要があります。また、首や肩の筋肉が圧迫されることで、血流が悪化し、血圧が上昇します 。
猫背になると血液循環に障害が生じる理由は、以下の要因に起因します。
1.胸郭の圧迫
猫背の姿勢は胸郭を圧迫し、肺の拡張を妨げます。これにより、呼吸が浅くなり、酸素の取り込みが減少します。酸素が十分に供給されないと、血液循環が悪化し、全身の組織への酸素供給が不足します。
2.血管の圧迫
猫背は首や肩、背中の筋肉を緊張させ、これが血管を圧迫します。特に、鎖骨下動脈や頸動脈が圧迫されることで、頭部や上半身への血流が減少します。これにより、血液循環が妨げられ、酸素や栄養の供給が不十分になります。
3.静脈の戻り血流の減少
猫背の姿勢では、下肢から心臓への静脈の戻り血流が減少します。これは、腹部や骨盤の血管が圧迫されることによるもので、結果として静脈血が心臓に戻りにくくなります。これにより、全身の血液循環が悪化し、下肢のむくみや静脈瘤のリスクが増加します。
4.神経の圧迫と血流の障害
猫背によって、脊椎周囲の神経が圧迫されると、これが自律神経系に影響を与えます。自律神経系は血管の収縮と拡張を調節しており、その機能が乱れると血液循環が悪化します。また、脊椎動脈が圧迫されることで、脳への血流も低下し、めまいや頭痛の原因となることがあります。
5.筋肉の緊張と血流の妨げ: 猫背は筋肉の緊張を引き起こし、特に首、肩、背中の筋肉が硬くなります。これにより、これらの部位の血流が阻害され、筋肉の疲労や痛みを引き起こします。慢性的な筋肉の緊張は、さらに血液循環を悪化させる悪循環を招きます。
3.内臓の圧迫
猫背は内臓を圧迫し、消化器官や呼吸器官に負担をかけます。特に胃や腸が圧迫されると、消化不良や胃酸逆流が起こりやすくなります。これにより、体はストレスを感じ、血圧が上昇する可能性があります。
猫背になると内臓が圧迫される理由は、体の構造と姿勢の変化に関連しています。以下にそのメカニズムを説明します。
1.胸郭の圧迫
猫背の姿勢では、背中が丸まり、胸郭が内側に圧迫されます。この状態は、肋骨が内臓に近づき、心臓や肺を含む胸腔内の臓器が圧迫されることを意味します。特に肺が十分に拡張できなくなるため、呼吸が浅くなり、酸素供給が減少します。
2.横隔膜の位置変化
猫背の姿勢では、横隔膜が正常な位置から下がり、腹部の内臓を圧迫します。横隔膜は呼吸の際に上下に動く重要な筋肉ですが、猫背によりその動きが制限され、胃や腸などの消化器官に圧力がかかります。これにより、消化機能が低下し、胃酸逆流や消化不良が起こりやすくなります 。
3.腹部の圧迫
猫背になると、腹筋が弱まり、腹部が前に突き出る形になります。これにより、腹腔内圧が上昇し、内臓が圧迫されます。特に腸や膀胱などの臓器が影響を受けやすく、便秘や排尿困難といった問題を引き起こすことがあります。
4.骨盤の前傾
猫背の姿勢は骨盤の後傾によって起こり、骨盤内の臓器に圧力をかけます。特に女性の場合、子宮や膀胱への圧力が増加し、生理痛や頻尿の原因となることがあります。また、後傾した骨盤は腰痛の原因にもなります。
4.筋肉の緊張と疲労
猫背になると、背中や腰の筋肉が常に緊張した状態になります。これが慢性的な痛みや疲労を引き起こし、その結果、体全体のストレスが増加します。ストレスは交感神経系を刺激し、血圧を上昇させる要因となります。
猫背になると筋肉の緊張と疲労が起こる理由は、以下の要因によります。
1.筋肉の短縮と伸張
猫背の姿勢では、胸部の筋肉(胸筋)が短縮し、背部の筋肉(僧帽筋、広背筋)が伸張されます。この不均衡な筋肉の状態が続くことで、筋肉が硬直し、緊張が増します。筋肉が持続的に引っ張られると、血流が制限され、酸素や栄養の供給が不足し、筋肉の疲労が促進されます 。
2.血流の制限
筋肉が緊張すると、血管が圧迫され、血流が制限されます。これにより、筋肉への酸素供給が不足し、代謝産物(乳酸など)が蓄積されやすくなります。これが筋肉の疲労感を増加させる原因となります。
3.神経の圧迫
猫背の姿勢は脊椎周囲の神経を圧迫し、神経伝達が阻害されることがあります。これにより、筋肉が適切に制御されず、緊張が持続しやすくなります。神経の圧迫は痛みを引き起こし、さらに筋肉の緊張を悪化させます 。
4.交感神経の過活動
猫背は交感神経系を刺激し、ストレス反応を引き起こします。交感神経系の過活動は筋肉を緊張させ、疲労を増加させます。これが長期間続くと、慢性的な筋肉の緊張と疲労につながります。
具体的な影響と研究結果
猫背が血圧に及ぼす具体的な影響について、いくつかの研究が行われています。例えば、ある研究では、悪い姿勢が血圧の変動にどのように影響を与えるかを調査しました。この研究では、座位での猫背姿勢が収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)の両方に有意な影響を与えることが確認されました。
さらに、長時間の猫背姿勢は、慢性的な高血圧のリスクを高める可能性があることも示されています。これは、筋肉の緊張が持続することで、血管が常に収縮状態にあり、心臓にかかる負担が増加するためです。
以下は、猫背が血圧に与える影響についての具体的な研究結果です。
1.University of Leedsの研究
リーズ大学の研究者たちは、首の筋肉が動きによって脳に信号を送ることで血流を調整していることを発見しました。このシステムは、姿勢が悪いときに破綻しやすく、結果として血圧が最適範囲を超えることがあります(PubMed)。
2.San Francisco State Universityの研究
サンフランシスコ州立大学の研究では、正しい姿勢を取ることで脳に良好な信号が送られ、幸福感が増すことが示されています。これにより、ストレスレベルが低下し、血圧の安定に寄与する可能性があります (PubMed)。
結論
猫背は血圧に対して多岐にわたる悪影響を及ぼします。神経系の過剰刺激、血液循環の障害、内臓の圧迫、筋肉の緊張といった要因が重なり合い、結果的に高血圧のリスクを高めます。姿勢を改善し、適切な運動やストレッチを取り入れることが、血圧の正常化に寄与することが期待されます。日常生活の中で姿勢に気を付けることが、長期的な健康を維持するための重要なステップです。
猫背の原因は足指にある:バイオメカニクスの視点から
足指と姿勢のバイオメカニクス
1.足指の役割
足指は、立位や歩行時において体重を支える重要な役割を果たします。特に足のアーチは、体全体のバランスを保つために重要です。足指にはそれぞれの役割がありますが、足指の筋肉や腱が正常に機能しないと、足部の筋力が低下し、足のアーチが崩れ、足全体のバランスが乱れます。これが膝、腰、そして背中にまで影響を及ぼし、姿勢の悪化を招きます。Hand-Standing理論について以下の記事を参照してみてください。
2.足指の機能不全と体の連鎖反応
足指が正常に機能しないと、足裏のアーチが崩れ、過剰な回内(足首が内側に倒れる動き)や回外が発生します。これにより、膝が内側や外側に倒れ、骨盤の前傾や後傾が強くなります。
足指にはそれぞれ機能があります。
・親指は足が内側に倒れないようにする
・小指は足が外側に倒れないようにする
骨盤が前傾すると腰椎の過剰な前弯(反り腰)が起こり、骨盤が後傾すると腰椎の過剰な後弯(猫背)が起こります。これが上部の背骨にまで影響を及ぼします。結果として、上半身が前方に倒れ、猫背の姿勢が形成されます 。姿勢については以下の記事を参考にしてみてください。
3.足指の筋力と姿勢の安定性
足指の筋力は、姿勢の安定性に直結します。足指の筋力が低下すると、立位や歩行時にバランスを保つために他の筋肉が過度に働く必要があります。これが長期間続くと、筋肉の疲労や緊張が増し、姿勢が崩れる原因となります。特に、足指の筋力低下は、ふくらはぎや太もも、腰、そして背中の筋肉にまで影響を及ぼし、全身の姿勢が悪化します。
足指の機能改善が姿勢に与える影響
足指の機能改善は姿勢に大きな影響を与えます。足指の機能や変形が改善されることで、足裏のアーチが適切にサポートされ、全身のバランスが整います。これにより、体重が均等に分散され、膝や腰、背中にかかる負担が軽減されます。特に足指の筋力低下は、膝や腰の不均衡を引き起こし、結果として猫背やその他の姿勢の問題を悪化させることがあります。足指を強化するエクササイズを取り入れることで、姿勢が改善され、血圧の管理にも役立つので、毎日の習慣にしてみてください。
1.足指のストレッチとエクササイズ
猫背は首や背中の筋肉を緊張させ、神経系を刺激することで血圧の上昇を引き起こす可能性があります。このような姿勢の悪化が血圧に与える影響は、健康にとって重要な課題です。猫背を改善するためには、正しい姿勢を保つエクササイズが効果的です。
ひろのば体操は、その一環として有効な方法です。ひろのば体操を定期的に行うことで、猫背を改善し、血圧の管理にも効果が期待できます。姿勢改善は、血圧の安定に寄与し、全体的な健康維持に重要です。
2.正しい靴の選択
足指の機能をサポートするためには、適切な靴を選ぶことも重要です。足指が自由に動けるスペースがあり、足のアーチを適切にサポートする靴を選ぶことで、足全体のバランスを改善し、姿勢の安定性を向上させることができます。
3.YOSHIRO SOCKSの活用
YOSHIRO SOCKSは、猫背改善に効果的なツールの一つです。これらの靴下は、足裏のバランスを整えることで全身の姿勢を改善し、猫背の修正に役立ちます。具体的には、足裏のアーチをサポートし、歩行時の正しい体重移動を促進します。これにより、自然と姿勢が良くなり、血圧の安定にも寄与することが期待されます。
YOSHIRO SOCKSの効果
1.足指の機能改善:
外反母趾角
開始時の外反母趾角は19.1°
8週間後の外反母趾角は12.3°
8週間目の平均値は、開始時と比べて、外反母趾角が6.8°改善。外反母趾角改善の作用が確認されました。
※開始前と8週間目の平均値の差
※グラフは臨床試験における平均値の推移
※結果には個人差があり、100%の結果を保証するものではありません。
足指を広げることで、正しい足の使い方を促進し、体全体のバランスを改善します。これにより、姿勢が良くなり、呼吸も自然に鼻呼吸に近づきます。
2.姿勢の改善:
背筋力
開始時の背筋力は71.6kg
8週間後の背筋力は82.9kg
8週間目の平均値は、開始時と比べて、背筋力が116%改善。姿勢の改善の作用が確認されました。
※40代女性の平均背筋力は80kg
※開始前と8週間目の平均値の差
※グラフは臨床試験における平均値の推移
※結果には個人差があり、100%の結果を保証するものではありません。
足指の変形が改善されると、体の重心が正しく保たれ、猫背やストレートネックの改善が見込まれます。これにより、上気道の通りが良くなり、口呼吸から鼻呼吸への移行がスムーズになります。
まとめ
猫背の原因として、足指の機能不全が大きな役割を果たしていることがわかります。足指のバイオメカニクスを理解し、適切な対策を講じることで、姿勢の改善だけでなく、全身の健康にも寄与することができます。日常生活において足指のケアを意識し、エクササイズや適切な靴選びを実践することが、猫背改善の一助となるでしょう。
その他にも、血圧が上がる原因として、精製塩や化学調味料の摂取、睡眠不足、体重増加、運動不足などが挙げられます。更年期以降にそのしわ寄せが押し寄せてきますが、高血圧は薬に頼らなくても適正値に戻すことができます。高血圧の薬は血液循環を遅くすることで血圧を下げているので、脳血流量の不足で認知症などの原因にもなるので、なるべく自然に下げるほうが安心です。
参考文献
1)Medical Daily: Study: Slumping And Slouches Raises Blood Pressure
2)Life By Design: Are Posture & High Blood Pressure Linked?
3)Cleveland Clinic: The Health Effects of Poor Posture
4)Increase in cerebral blood flow indicated by increased cerebral arterial area and pixel intensity on brain magnetic resonance angiogram following correction of cervical lordosis
5)Do slumped and upright postures affect stress responses? A randomized trial
6)外反母趾の機能解剖学的病態把握と理学療法.湯浅慶朗.理学療法 第31巻 第2号 2014.2 P159-165
7)『足指をそらすと健康になる』湯浅慶朗/著 PHP研究所 2014.6
8)『たった5分の「足指つかみ」で腰も背中も一生まがらない!』湯浅慶朗/著 PHP研究所 2021.6